見出し画像

凡豪の鐘 #57


ガラガラガラッ


一旦扉の前で立ち止まる時間も鬱陶しいと思って、すぐさま扉を開いた。


〇〇:お呼びでしょうか、お姫様笑

美月:ぷっ笑 なにそれ笑 そんな事思ってないくせに笑

〇〇:家主様だったな笑 

美月:声大きいって!......早く外行くよ。

〇〇:......足、うごかねぇのか?

美月:動くけど、車椅子で行きたいの。練習練習。

〇〇:........わかった。

美月:看護師さんに見つかったら怒られるから、バレないように押してね?

〇〇:わかったよ笑


ここ数日考えていた事は、いったい何だったんだろう。驚く程自然に会話ができた。

〜〜

〜〜

〇〇:星....綺麗だなぁ..

美月:そうだね.....


病院からこっそり抜け出し、美月の案内で少し小高い丘へと車椅子を走らせた。


〇〇:....美月さ、いつも屋上で「良い景色〜」って言ってたよな。

美月:うん笑 いつ目が見えなくなるか、わかんないからねぇ...

美月:あ!あそこ見える?私が行ってた中学校。

〇〇:んー...あ、あそこか。随分と田舎だなぁ...

美月:んふふ笑 でも...一番楽しかったのは高校だなぁ...


二人は丘の上で、景色を見ながら風を感じていた。美月にとっては、今しか感じられない風という感覚を。


美月:ねぇ.....〇〇?

〇〇:ん?

美月:手紙....読んだ?

〇〇:.....読んだよ。

美月:どう....思った?

一番聞かれたら困る質問。〇〇は既にわかっていたから。美月が自分のことを好いているという事実を。


〇〇:................

美月:やっぱり....そこまで鈍感じゃないよね笑 ....でもね、あれ嘘だから。

美月:からかっただけだよ笑 〇〇がどんな反応するのかなぁって想像するの楽しくて笑

〇〇:........そか...

美月:そもそも蓮加と茉央ちゃんが〇〇の事好きだし?私が狙うわけ・・

〇〇:.......じゃあなんで....じゃあなんで泣いてんだよ...

美月:..........グスッ


美月の声は、ずっと震えていた。〇〇は優しく車椅子に座る美月の頭を撫でた。


〇〇:俺に気遣ってくれて、ありがとな。手紙にも書いてあったもんな、2度もあんな思いはして欲しくないって。

美月:.............バカ。

〇〇:なんだよバカって笑

美月:.........好きだよ。〇〇の事。


美月の声はもう震えていなかった。


〇〇:........ありがとな。


答えが欲しいわけじゃない。ただ溢れる気持ちを吐露する美月の気持ちを、〇〇は重く受け止めていた。


美月:ねぇ....〇〇。一つだけお願いあるの。

〇〇:....俺に叶えられる事なら、なんなりと。

====================================

翌朝


ガラガラガラッ


美波:美月ー、来たよー......って...え?

美月:次これ食べたい。

〇〇:はいはい。ほらあーん。

美月:あーん....んふふ笑 美味しい//

〇〇:味覚ないんじゃなかったのかー

美月:あーんして貰ったら美味しいのー!

美波:な、なにしてんの?


異様な光景を、美波は扉の前で立ち尽くして見ていた。


美月:あ!美波ー!

美波:なになに、どういう事? 〇〇君結局来たの?

〇〇:あぁ、うん。

美月:ここにいるのは"ただの〇〇"じゃないよ?

美波:え?どういう事?

美月:じゃ、報告しよっかな〜。こちらは私の彼氏の〇〇です!

美波:は!?

〇〇:は!?ってなるよな笑


美波は訳がわからないといった表情を浮かべていた。


美波:え、え!?付き合ったの!? 好きな気持ち伝えたの!?

美月:えへへ// うん//

美波:えぇ!?ちょ、ちょっとまだ整理できてないんだけど....

美月:んー....美波とは二人で話したいからー、〇〇!ちょっと席を外しなさい!

〇〇:へいへい。


〇〇は病室から出て行った。


美波:どういう事? ちゃんと聞かせてよ。

美月:〇〇と付き合う事になったの。

美波:ほ、ほんとに!?

美月:うん。......でも...私が死ぬまでね。

美波:え?

美月:〇〇に昨日気持ちを伝えて、お願いまで聞いて貰ったの。死ぬ時まででいいから私の彼氏でいて欲しいって。

美波:..............

美月:〇〇はちょっと悩んでたけど、聞き入れてくれた。.........私ね、素直になる事にしたの。蓮加や茉央ちゃん、それに美波のおかげだよ。ありがとう。


美月は美波に笑みを見せた。でも、その笑顔の深い部分に少しの悲壮が渦巻いていた。


美波:.....ねぇ、美月?

美月:ん?

美波:私ね.....前進路の話した時にさ、大学に行くっていってたじゃん?

美月:うん。

美波:.....私ほんとはさ、モデルになりたかったの。

美月:えぇ!? そ、そうなの!?

美波:うん....恥ずかしくて誰にも言えなかったんだけど、本気で女優目指してる美月を見て、私も頑張ろうって思ったんだよ。

美月:美波.....

美波:美月はいつも、私達に助けられた、ありがとう。っていうけど、それ以上に私達は美月に助けられてるんだよ。

美月:........グスッ

美波:だからさ、もうお礼とかいいから自分の好きなように生きよ?

〜〜

〜〜

〇〇:ふぅ......


ガシャッ ゴンッ 病院の外の自販機でジュースを買う。


茉央:あ、〇〇。

〇〇:ん、おー。茉央か。

茉央:美月さんに会ったん?

〇〇:うん。会った。

茉央:んふふ笑 なんか言われんかった?

〇〇:好きって言われた。

茉央:えぇ!? そんなさらっと言う!?

〇〇:どうせ茉央達の差金だろうからな笑

茉央:バレたか....で?返事はなんで返したの?

〇〇:付き合う事になった。

茉央:ほ、ほんま!?


〇〇は買ったジュースを開け一口飲んでから経緯を話した。

〜〜

茉央:........そうか..

〇〇:うん。だから....限定彼氏って感じかな。結構迷ったけどな。

茉央:.....なぁ、〇〇。

〇〇:ん?....うわっ、なんだよ..


茉央は〇〇の眼前まで行き、目を覗き込んだ。


茉央:.....私に気遣ってるやろ。

〇〇:え?

茉央:私が〇〇に好きって伝えたから、気遣ってるんやろって。

〇〇:............


かなりの図星だった。


茉央:あんなぁ....そんなんええねん。茉央は〇〇に気遣われるんが一番嫌。

〇〇:で、でも....茉央だって気持ちを伝えてくれて...

茉央:美月さんも伝えてくれたんやろ?じゃあ、後は〇〇が決めるだけ。〇〇が出した答えに異論はないし、〇〇の幸せが一番やから。

〇〇:茉央......

茉央:それに....もう自分の中で答え出てるんやろ?

〇〇:........うん。

茉央:じゃあ、それをちゃんと伝えなあかん。

〇〇:........ありがとう茉央。


〇〇はジュースを一気に飲み干し、病院へ駆け出していった。


茉央:やっと〇〇らしくなったなぁ......ま、アイドルは恋愛禁止やし!


茉央も踵を返してホテルに戻る。その帰り際の目には涙が浮かんでいた。

====================================

ガラガラガラッ


蓮加:来たよー....って、あれ?美月は?

美波:あ、蓮加。ちょーっと遅かったねぇ笑


病室にいたのは美波だけ。美月の姿はなかった。


蓮加:どっかいったの?

美波:うん。ついさっき〇〇君が来て連れ出しちゃった。王子様みたいだったなぁ...

蓮加:........そっかぁ....先越されちゃったか。

美波:あら、なんかわかってたみたいに言うね。

蓮加:.......何年も〇〇と一緒だったからわかるよ。〇〇の気持ちぐらい。それに...私は〇〇に好きって伝えてもいないしね。

美波:ほんとに何もしてないの?

蓮加:.......ほっぺたに...キスした...// あと...一緒に寝たり//

美波:えぇー!? それで〇〇君気づかないの!?

蓮加:いや...気づいてたけど...気づいてないふりをしてくれたんだと思う。傷つけない為に。

美波:そっかぁ.....でも、美月に、〇〇に気持ちを伝えた方が良いって言ったのは蓮加なんでしょ?

蓮加:..............うん。

美波:....おいで蓮加。

蓮加:うぅ.....グスッ...うああ...


蓮加は泣きながら美波に抱きついた。


美波:優しいね。蓮加はほんとに。

====================================

美月:ぎゃあああああ!! ちょっと!!早いって〇〇!

〇〇:うっせぇ!行くぞー!!


〇〇は美月を車椅子に乗せて爆走していた。


美月:どこに行くのよー!!

〇〇:あと少しで着くから待ってろー!

〜〜

〇〇:はぁはぁ....着いた...

美月:ここって....


着いた場所は昨日の夜に来た、小高い丘。


美月:ね、ねぇ....なんでここに...

〇〇:好きだっ!

美月:へっ!?


〇〇は美月の目を見ながらハッキリとそう言った。


〇〇:昨日はなんか仕方ねぇみたいな感じで付き合う事になったけど!

美月:え?ちょ、〇〇?

〇〇:俺は....美月の事が好きだ! いつからかわかんねぇけど好きになってた!だから俺の彼女になってくれ!

〇〇:あと....死なないで欲しい!ずっと俺の隣にいて欲しい!以上! はぁ....はぁ....


一度も息継ぎはしなかった。脳というより脊髄で思ったことを喋っただけだった。


美月:ぷっ笑 あははははははは笑

〇〇:なっ// わ、笑うなよ!//

美月:ごめんごめん笑 あー..おかし笑

美月:.......つまりー、〇〇と私は両思いってことだね?

〇〇:....あんま口に出すなよ//

美月:あー!顔赤くなってる!笑 照れてるんだぁ笑

〇〇:.....くっそ....ん!

美月:んゅ! ちょっといきなりキスは//

〇〇:はっ笑 照れたな笑

美月:んー! チュッ

〇〇:んなっ!


今度は美月が〇〇の首を引き寄せキスをした。


美月:えへへ// ....ねぇ、〇〇?

〇〇:ん?

美月:....嬉しい。さいっこうに嬉しい。人生で一番嬉しい!

〇〇:んっ// そ、そうか...

美月:えへへ// 〇〇、大好きだよ。

〇〇:俺も...大好きだ。


二人は夕陽が照らす丘の上で、再び口付けをした。

====================================

             To be continued



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?