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凡豪の鐘 #52


〇〇:................

祐希:ねーねー、好きな食べ物なにー?私は沢山あるなー。嫌いな食べ物は牛乳!

〇〇:.....飲み物じゃねぇかボソッ

祐希:あ!やっとなんか話した!


部活は強制じゃなかった為、別に入らなかった。誰もいない教室に放課後残って小説を書く。そう決めていたのに....


〇〇:だー!お前しつこいっての!

祐希:えー?お話しようよ〜。


何故かこいつ、与田祐希が付いてくる。静かに一人で書きたいってのに....


〇〇:お前と話すことなんてないの。わかったら早よ出てけ。

祐希:"お前"じゃなくて祐希って呼んでよー。

〇〇:あ.....っ....


祐希が机に両手をついて顔を寄せてくる。いや....それよりも


〇〇:(....胸元緩すぎだろ...発育どうなってんだこいつ.....)

祐希:....どこ見てるの〜?笑

〇〇:う、うっせぇ//

祐希:へへ笑 あ!小説書き終わった?

〇〇:あ、ちょっと!


祐希は机の上の原稿用紙を取り、ペラペラと読み始めた。


〇〇:.............

祐希:.....めっっっちゃ面白い!!

〇〇:へ?

祐希:面白い面白い!〇〇君凄いね!

〇〇:え、あ、あぁ....

祐希:また見せてよ!

〇〇:い、いいけど.......


嬉しかった。純粋にただ嬉しかった。自分の小説を面白いって言ってくれるのは、祐希が初めてだったから。

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中学一年生も終わりになる頃、クラスで友達も何人かできた。

でも、放課後になると、必ず祐希と二人で過ごす。ほぼ毎日。俺が祐希に惹かれていくのは、そう時間はかからなかった。


〇〇:.........はぁ.....

祐希:なんか今日元気ないね。

〇〇:ん?......まぁな...

祐希:なんかあった? 話してみて?

〇〇:......んー....


〇〇は悩んでいる原因。それは出版社との契約を打ち切られたこと。元々東京に転校して来たのだって、元々契約していた出版社が東京に移転したから。

昔は俺も小説が書くのが上手かったらしい。その際に契約した。あまり良く覚えていないのだが。

でも、今の俺ははっきり言って文才があるとは言えない。出版社の方にもそう言われた。だから契約は今年限りにしたいという打診があった。


〇〇:.......祐希に話しても.....わかんねぇよ....

祐希:むぅ......そんなの話してみなきゃわかんないじゃん....


祐希は少し悩んだ表情を浮かべながら、再び話し始めた。


祐希:あれ....〇〇って一人暮らしだっけ。

〇〇:うん。そうだけど?

祐希:じゃあ私今日泊まる!〇〇の家に泊まる!

〇〇:はぁ!?な、なんで!?

祐希:なんでも!

〜〜

〜〜

ガチャ


祐希:お邪魔しまーす.....おー!結構綺麗にしてるんだね。

〇〇:まぁ、小説しか書いてねぇからな。物も少ない。


何度断っても、ぶーぶー言ってきた為、仕方なく泊まる事を許可した。


〇〇:それより.....大丈夫なのかよ。

祐希:何が?

〇〇:いや....親御さんとか....仮にも男と女だし....

祐希:あ!意識しちゃってるんだぁ笑

〇〇:う、うっせぇ// 別にそういうんじゃねぇし//

祐希:ふーん....まぁ...私は〇〇が彼氏だったら嬉しいんだけどなぁボソッ

〇〇:え?

祐希:なんでもなーい! ねぇねぇ早速カレー作ろ!

〇〇:え、あ...おう。


なんとなく、祐希の顔が赤くなっていた気がした。

〜〜

〇〇、祐希:いただきまーす。

〇〇:パクッ.....ん、美味い。

祐希:パクッ...美味しい!


二人で料理をした。騒がしい調理場だったが、まぁ楽しかった。


祐希:はい、あーん。

〇〇:なっ、なにしてんだよ!

祐希:何って、あーんだよ、あーん。ほらほらー。

〇〇:ちょ、やめ....んぐっ!んん.......あれ、こっちの方が美味い....

祐希:でしょー? はい!あー....

〇〇:.......なにしてんの?


祐希は小さな口を開けて、こちらを見ている。


祐希:何って....私にもあーんしてよ....//

〇〇:え、あ......うん//


〇〇は自分の皿からスプーンで掬い、祐希の口へ持って行った。


祐希:パクッ......ん....美味しい//

〇〇:........ん?これって同じ物食ってたら意味ないんじゃね....

祐希:.......そうじゃん...

〇〇:.....ぷっ笑 あははははははは笑

祐希:あははは笑 

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食事を済ませて、食器を片付ける。食器も二人で洗った。


〇〇:よいしょ....

祐希:隣失礼しまーす。


〇〇と祐希はソファに隣同士で座った。


〇〇:...........なに?


祐希はずっとこちらを見ている。


祐希:........悩み、教えて?

〇〇:あぁ........うーん....

祐希:その為に来たんだし。教えて?

〇〇:.........わかったよ...


少し気圧されてしまった。折れるしかなかった。〇〇は食後のゆっくりとした時間の中で、祐希に契約の事を話し始めた。

祐希は自分のよく分からない世界の話でも、相槌を入れながら真剣に〇〇の話を聞いていた。

〜〜

〇〇:・・ってことで、もうすぐ俺の契約は切れるってわけ。

祐希:..............。

〇〇:ごめんな。よく分かんなかったろ。

祐希:........スマホ貸して。

〇〇:え?

祐希:パスワード解除してスマホ貸して。


顔は至って真剣だった。


〇〇:え、あ....おう....


〇〇はパスワードを解除して祐希にスマホを渡した。

祐希はスマホを受けると、難しい顔をしながら画面を動かしている。


〇〇:なにして・・

祐希:.........あっ、きっとこれだ....


祐希は何かしらのボタンを押すと、〇〇のスマホを耳に当てた。


祐希:.........もしもし、△△社さんですか。

〇〇:んぇ!? なにしてんだ!?


△△社とは〇〇が契約をしている会社だった。どうやら祐希はそこに電話をかけている。


祐希:いや....私は〇〇じゃないです。その.....〇〇の彼女です!

〇〇:え.......

祐希:私は〇〇のファンでもあります!あんなに良い作品を書ける〇〇と契約を打ち切るって....どうかしてます!


いつもの柔らかい雰囲気を纏っているとは思えない程の剣幕で、祐希は電話口に言葉を送っている。


祐希:.....あと一年....いやあと二年!〇〇が中学を卒業するまで契約を打ち切らないでください!お願いします!ぜっったいに良い作品書きますから!

〇〇:.....祐希.....

祐希:できるよね!〇〇!

〇〇:え.....う、うん...


YES以外の返答は許されていなさそうだった。


祐希:......はい.....はい.........本当ですか!?ありがとうございます!


どうやら話が一段落ついたようだ。祐希は電話を切って〇〇に返した。


祐希:契約!あと二年待ってくれるって!

〇〇:ま、まじで!?

祐希:うん!えっ.....


気づいたら、俺は祐希を抱きしめていた。小さく壊れそうな、でも芯は強いその体を、強く抱きしめていた。


〇〇:ありがとう.....ほんとにありがとう.....

祐希:へへ//  だって...私〇〇のファンだもん笑......あと好きだし....

〇〇:え?

祐希:.....もう...女の子から言わせないでよ...

〇〇:......ごめん....俺も好きだ。

祐希:えへへ// 嬉しい///


〇〇と祐希はハグをしたまま、優しく唇を重ねた。

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〇〇:.......つってもなぁ....何を題材にするか....

祐希:何弱気になってんのー。


あと2年の猶予ができたからと言って、状況が変わった訳じゃない。面白い作品が書けなかったら意味がないんだ。


〇〇:実体験が書きやすいんだけどなぁ.....

祐希:..................


祐希はゆっくり〇〇に抱きついていた手を解いた。


〇〇:ん?どした?

祐希:..........〇〇になら....喋っていいのかな...ボソッ...

〇〇:え?

祐希:......今から言う事聞いても...私と付き合っててくれる?


祐希は少し泣きそうな目で、〇〇を見ていた。


〇〇:さっき付き合ったばっかだろ?嫌いになる訳ないよ。

〇〇:それに.....俺の悩みも解決してくれたんだ。俺も祐希の悩みを解決したい。

祐希:..........わかった。


祐希は少し間を空けてから、話し始めた。


祐希:.........私.....病気なの。

〇〇:え?びょ、病気? なんの?

祐希:.....わかんない。

〇〇:へ?

祐希:病名もまだわかってないくらい珍しい病気....


少し脳がぐらついた。


〇〇:で、でも...治るんだろ!?

祐希:..........


祐希は目に涙を溜めていた。


祐希:........余命は....あと持って三年だって....


目の前が白黒に移り変わる。脳が殴られたような衝撃が走る。

俺は生涯、この日を忘れることはない。そう思った。

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              To be continued



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