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凡豪の鐘 #58


司会:では登場していただきましょう。文豪先生です!


パチパチパチパチパチパチッ 割れんばかりの拍手と写真のフラッシュで袖から出てきた俺は目を瞬かせる。

ステージ中央まで行き、すでにそこに佇んでいる人物と握手を交わす。


律:よろしく....ぶふっ笑

〇〇:笑ってんじゃねぇよ笑


「おおっ!....あれが文豪先生か...若いな..」
「まだ20代前半とかじゃないのか?」
「それなのにあの作品量....凄まじいな..」


司会:えー、ではこれより、文豪先生と五百城律監督による対談を始めたいと思います!

〇〇:なぁ、これ対談か?いっぱいいるじゃねぇか。

律:まったくだ笑


文豪 本名 天鐘〇〇 今の日本の小説界において、怒涛の勢いで賞を獲り、次期芥川 直木賞候補と呼び声高い新進気鋭小説家である。だが、メディア嫌いという噂もあり、今までメディアには一切出なかった。

五百城 律 若干23歳の映画監督。大学時代に撮った映画が大ブレイク。大学卒業後すぐに映画界へ。処女作も大ブレイクを果たし、今業界で最も注目を集める映画監督である。


司会:今回急遽決まったこの対談ですが、二人のご関係とかは.....

〇〇:小学校と高校の同級生。だからなんかこの対談むず痒い。


会場はどよめいている。記者達の走るペンが止まらない。


司会:同級生! これはまた新しい事実が笑 ということはやはり対談の相手が律監督だからお引き受けされたんでしょうか。

〇〇:はぁ.....別に律だからって訳じゃねぇ。少しはまともな対談できると思ったから引き受けたんだ。

〇〇:それなのに記者入ってるしよぉ...お前らは有る事無い事、全て事実みたいに書くからよ、嫌いなんだ。そんな行動力と発想力あるなら小説書け、下賤が。


記者ら:...................


突然の強過ぎる言葉に記者達は曇った顔を向ける。まだ年端もいかない若造に言われっぱなしではいられないといった表情だ。


司会:ま、まぁまぁ....質問を変えましょう。お二人同士で何か質問等はありますでしょうか。

律:そうだなぁ.....久しぶりだな笑

〇〇:久しぶりだなぁ笑 高校卒業して以来か笑


律は大学に進み、〇〇は高校卒業後すぐに小説家の道を歩んだ。お互いやる事があった為会う機会なんてなかった。


〇〇:だから....喋る事ねぇなぁ笑

律:喋る事ねぇ....あ、そうだ。一個聞きたい事あったんだけどさ、お前なんで高校時代頭良かったの?小説ばっか書いてたのに。

〇〇:ん?別に頭良くねぇよ。.....中学の時に祐希が「高校の勉強したい!」っていうから俺が全範囲勉強して教えてたんだよ。....ま、すぐに飽きてたけどな笑

律:そういうことか笑 飽きるって言えば高校の時さ・・


まるでそこは対談というより、高校の教室の一角で友達同士話している。そんな様子だった。


司会:あのー....そろそろお時間なんですが..

〇〇:あ?....なんだ、もう時間か。うしっ!律帰るぞ!

司会:あぁ!ちょっとお待ちください。記者からの質問が.....

〇〇:えぇ......ったく...早くしてくれ。


〇〇は再び席に着いた。


田中:えー、講文社の田中と申します。えー...お二人は業界で天才と呼び声が高いですが、それについてどうお思いですか。

〇〇:はぁ....またこの手の質問か....おい、講文社の...田中だっけ?

田中:はい。

〇〇:何年か前の親父の対談にいたよな。

田中:.....親父?

〇〇:鐘音天は、俺の親父だ。


「えぇ!?」 会場に今日一番のどよめきが起きる。


律:お、おい、言って良いのか?

〇〇:もう良いだろ.....さぁ、ここで問題だ。お前らはこの後記事を書く。その見出しはなんだと思う?

田中:え?

〇〇:正解は「鐘音天の息子」だろ? ....もう一回親父の対談見直せタコ助共。 もう飽きたんだよ、その手法。

〇〇:言っておくが、俺が親父から教わったことなんてほとんどない。俺が教わったのは岩本賢治。親父の文才とか才能は何一つ受け継いでない。俺の力で勝ち取ったもんだ。


〇〇は高校卒業後、狂ったように作品を書きまくった。異常とも呼べるほどに、手はボロボロで指の凹みはペンを持つ形で固定されていた。


〇〇:周りの意見なんて聞くな。天才と呼びたきゃ呼べば良い。だがそれをいう奴は自分が天才になれる可能性を捨てている。 次!


佐藤:林講社の佐藤と申します。ライバルと呼べる同業者はいますか?

〇〇:作家の岩本蓮加! あいつには負けん! 次!

記者:週刊アマチです。今回、律監督が対談したい相手という事で文豪先生を指名されて、今この対談があると思いますが。それにはどのような意図がありますか?

〇〇:あぁ?...え、そうなの?

律:下がってな。


律は〇〇の肩を掴み後方に移動させた。


律:今日皆さんにお集まりいただいたのは他でもありません。俺が新たな映画を撮る、その告知で呼ばせていただきました。


律はステージ上を少し歩きながら話す。さすが映画監督、魅せ方がわかっている。


律:作品名は、ここにいる文豪先生の処女作であり、大ヒット作「消える君へ」

〇〇:は?


記者は必死で録音やメモの手を止めない。


律:ヒロインは.....まだ決まってない笑 だから決めようと思う。公開オーディションで!!


律が壇上で最後のセリフを決めた後、フラッシュは止めどなく焚かれていた。

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控室

ダンッ!


律:いでっ!


律は胸ぐらを掴まれ、壁に押し付けられている。


〇〇:おい.....てめぇ....どういう事だ。「消える君へ」を映像化する?

律:ぐぇ....ちょっと離せって...

〇〇:チッ.......


〇〇は呆れたように手を離す。


〇〇:どういうつもりだよ.....お前はあの作品の事...よく分かってんだろ。

律:..............


祐希が亡くなってから、8年。

そして...美月が亡くなってから早5年が経とうとしていた。


亡くなったのは高校三年生の時。ゆっくりと感覚を奪っていき、心臓だけが動く状態になる。

そのまま美月は東京の大きな病院に移された。研究の為らしい。美月が死ぬ前に望んだ事でもあった。死に目を〇〇達に見せたくなかった事、そして自分の体を研究の為に使って欲しいと医者に伝えていた。

〇〇はどこに感情をぶつければ良いかわからなかった。美月のとった行動は正しい行動で、責められる所か褒められるべき。

でも、〇〇は許せなかった。最後まで一緒にいると約束したのに。それが出来なかった自分の情けなさと、美月の身勝手さに対しての怒りをぶつける場所が必要だった。

それが、小説だったというわけだ。

「消える君へ」という作品は、それ以降読んでいない。一人は目の前で、もう一人は自分の目が届かない所で亡くなった。もうこんな思いはしたくない。


律:.......変わらなきゃいけないだろ。お前も。

〇〇:............

律:直木賞候補だ芥川賞候補だ言われたって結局取れてない。......停滞してんだろ?

〇〇:っ.......

律:思い出すなとは言わない。でも....いつまでも引きずったままじゃ、お前はいつまでもそのままだ。

〇〇:.....どうしろってんだよ・・

律:だから!最高のキャストと最高の人員で映画「消える君へ」を撮る!悔い残さないように何回撮り直したっていい!だから......もう...撮影が終わったら考えるのは...やめよう。


〇〇だけじゃない。律だって辛いのだ。美月は美波、蓮加、茉央、〇〇、そして律の為に死に顔は見せまいと気を遣っていたんだ。自分が死の辺境にいるのにも関わらず。


〇〇:..........はぁ....わかったよ....やる。やろう。これで綺麗さっぱり終わりだ。

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公開オーディション当日。


希望者からスタッフが書類選考である程度人数を絞る。面接でさらに絞り残った数十人が公開オーディションに参加できる。

公開オーディションは演技審査。投票はネット上でそれを見ている視聴者が一番良いと思った演技に投票する。

律が公開オーディションにすると決めた理由は、人数が集まりやすいと思ったから。できるだけ多い人数を集めて、プロ、素人に関わらず最適な演技をできる人を探す為だった。


〇〇:はぁ......

律:もっと真剣にみろボソッ


「文豪先生飽きてね?笑」 「真剣に見てねぇな笑」


〇〇はやるということには賛成したものの、実際乗り気ではなかった。

それとは裏腹に期待値は上がっていく。決定したキャストには、最近話題沸騰の小説家にも関わらず女優顔負けの美貌を持つ 岩本蓮加。

現役のトップアイドルである五百城 茉央が選ばれた。


〇〇:.....美月を超える演技できんのかよボソッ


誰にも聞き取れないような声量呟く。オーディション生に机を並べ、〇〇と律は演技を見ていた。


律:はい。ありがとうございます。じゃあ次の方ー。


どれもパッとしない。この中から選ぶなら間違いなく駄作だ。そう思っていた矢先だった。


ガラガラガラッ 扉が開く。次のオーディション生が入ってきたのだろう。

気分は乗らないが、見ようと視線を向けた、その瞬間だった。

体が固まった。


エントリーナンバー12番

山下美月です!!

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               To be continued


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