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凡豪の鐘 #50


文化祭まで後一週間。生徒らは本格的に準備を始める。運動部はクラスの出し物だけだが、文化部は自分の部活も並行して行わなければならない。

でもそれが楽しい。むしろ準備期間が一番楽しいんだ。


〇〇:はぁ........


楽しいムードとは一変して暗い男が一人。


美波:演劇....上手く行ってないの?ボソッ

〇〇:............まぁなボソッ


あの日以降、〇〇は練習に参加していない。というより、美月を視界に入れないようにしていた。


美月:ねぇ.....〇〇大丈夫なの?ボソゥ

律:うん....家ではちゃんと練習してるし、たぶん大丈夫だと思うボソッ


美月達には何故〇〇が部活に来ないのか知らされていなかった。居候先の律と茉央にも教えなかった。知っているのは七瀬と蓮加だけ。

幸い、ほとんど動きがない演劇。台詞を覚える事と、リハーサルには出る事を約束し、部活に出ない事を七瀬に許してもらっていた。


美波:........楽しみにしてるボソッ

〇〇:......俺次第だなボソッ

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放課後


生徒達は準備に明け暮れる。暗くなるまで準備をして、飲食を営むクラスは試作や、買い出し。展示物をするクラスは制作に勤しむ。

雰囲気はどこか浮ついていて、学校には笑みが絶えなかった。


美月:.........なんで〇〇は来ないんですか。

茉央:え......


練習の途中で、美月は演技を中断して聞いた。〇〇の役は七瀬が代役で行っていた。


七瀬:えーっと.....それはなぁ・・

美月:〇〇が主人公なんです。〇〇がいないと、この演劇は成立しません。

律:ま、まぁ......〇〇にも理由があるかもしんないし....

美月:どんな理由があっても、演技を中断することは許さない。それが舞台だったらなおさら。ですよね?七瀬さん。

七瀬:それは.....そうやけど...

蓮加:......〇〇はちゃんと練習してる。それだけは証言できるよ。

美月:っ......じゃあ....じゃあなんで来ないの....

蓮加:それは.......

美月:.....ちょっと....外の空気吸ってくる。


ガラガラガラッ ピシャッ


美月は部室から出て行った。


七瀬:じゃあ、ちょっと休憩しよか。


別に順調に進んでいるわけではなかった。むしろ難航。ありきたりな演技になっている。ただでさえ動きが少ない舞台。観客に感情を伝えるのはかなり難易度が高かった。

〜〜

〜〜

美月:.......はぁ.....空気悪くしちゃったな....


ゴトンッ 屋上へ向かう途中の自販機で飲み物を買って、階段を登っていく。


美月:.....そもそも〇〇が来ないのが悪いんだし....

美月:......来ないんだったら理由ぐらい教えてくれても.....ブツブツ


愚痴を溢しながら、外の空気を吸うために屋上の扉を開けた。


カチャ


??:だーっ! くそ! 上手くいかねぇ!

美月:ん?


ドアノブに手をかけた瞬間、向こう側から声が聞こえた。


カチャリ....  美月はゆっくりとドアノブを捻り、少しだけ扉を開けた。


〇〇:お前さぁ...もうちょっと大人しくしてろよな.....グスッ...うぁ....うぅ...

美月:................。


扉の隙間から見えたのは、〇〇だった。台本を手に持って、練習をしている。

一つセリフを言う毎に、目から溢れる涙を拭きながら。


美月:...............


ガチャ


〇〇:あ?.......あ....


美月は屋上へ何も言わずに入って行った


美月:....こんな所でなにしてるのよ。

〇〇:いやぁ.....練習っつーか....

美月:...なんで部室でやらないの。皆んなと合わせないと意味ないでしょ。

〇〇:..........わかってっけど...


会話中も、〇〇は決して美月と目を合わせなかった。


美月:........前もそうだったけど.....なんで泣いてるの。

〇〇:.........今は....答えられない...

美月:.............そう。


沈黙。これ以上なにも言えることはない。〇〇は早く美月がここから立ち去ってくれる事だけを、視線を落としながら祈っていた。


〇〇:.........んぐっ!


刹那。何らかの力で目線が前に移った。どうやら美月に頬を両手で挟まれ、前を向かされているらしい。自分の目の前には美月の顔があった。


美月:私を見てよ!

〇〇:ふぇ?

美月:何をゴチャゴチャ考えてるかわかんないけどさ!私がヒロインで〇〇が主役! だったら〇〇は私だけを見てればいいの!

〇〇:................

美月:祐希役を演じてるのは"私"! 祐希に感情移入してるのかも知んないけど、その前に"私"が演じてるの!

美月:ちゃんと私を見てよ! 私と演技をしてるの!良い!?


美月はより一層、〇〇と顔を近づけた。〇〇の目に映っているのは"美月"だけだった。

祐希の雰囲気を纏っているのは間違いのない事実だが、そこにいるのは確かに美月。〇〇の中に、もう迷いは消えていた。


〇〇:........すまん。

美月:うん。 わかれば良し。


美月は〇〇から手を離した。


美月:ゴチャゴチャ考えるのは〇〇らしくないよ。それに....〇〇が言ったんだよ。

〇〇:え?

美月:女優になれるか悩んでる私に、「なりたかったらなれ」って....だから〇〇には責任があるの。

美月:私が女優になる所を見届ける責任がね!


美月は〇〇を指差してそう言った。


〇〇:........ぷっ笑 あははは笑 なんだそれ笑

美月:笑うなぁ!

〇〇:あはは笑 すまんすまん。 .....ありがとな。美月。

美月:え?

〇〇:なんか.....色々考えすぎてたわ。俺はもう.....美月しか見ないよ。

美月:え、あ......うん//

〇〇:俺は、お前がいないとダメなんだなぁ......よし!ほら行くぞ!

美月:え、ど、どこに?

〇〇:どこにって....部室に決まってんだろー。ちんたらしてっと置いてくぞー。

美月:ちょっとぉ! なによ!さっきまでウジウジしてたくせに!

〇〇:うっせぇ! 


この日から〇〇は、部活に参加するようになった。時々泣いてしまうものの、演技は完璧。それに釣られて周りの演技も底上げされて行った。

文化祭までの一週間、七瀬の指導の元、練習を重ね、演目「消える君へ」は完成度を増していった。

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文化祭 当日


朝から生徒達は慌ただしく準備をする。2日間の文化祭。演劇部の発表は2日目だった。二日間とも外部の客の受け入れが許可されている為、生徒の親御さんや、友達。他校の生徒も多く訪れる。


〇〇:........あれ、俺らのクラスって何やんの。

美波:え!? 今日まで知らなかったの!?

美波:.......私達のクラスは、模擬店だよ。クレープ売るの。

〇〇:クレープ!? 技術高くねぇ!?

美波:皆んな練習してたんだよ。あ、〇〇君もシフト入ってるからよろしくね。

〇〇:うぇ......まじかよ。

男1:美月さん!一緒に文化祭回らない!?

男2:あ、ずりぃ! 美月さん、俺と回ろう!


クラスの外には、美月目当てだろうか。膨大な男子生徒が廊下まで溢れていた。


〇〇:なんであんなに必死なのかねぇ....

美波:あぁ、それはね・・


ピンポンパンポーン スピーカーから音が流れ始める。


生徒会長:今からー! 坂乃高校文化祭を始めまーす!!

一同:イェェェーーーイ!!!!


生徒会長の号令と同時に、外部からの客の入場が始まった、

〜〜

〜〜

〇〇:ふぅ.....うぇー...疲れた。


午前中のシフトを終えた。主に作る側ではなく売る側だったが、結構疲労感を感じていた。


律:お!〇〇、お疲れー。


律がエプロンをしながら歩いている。


〇〇:おう。次シフトか。

律:そうだよー。これから〇〇は何すんの?

〇〇:屋上行って寝る。

律:文化祭なのに!? ははっ笑 〇〇っぽいなー笑

〇〇:いいんだよ。......あ!そうだ!ちょっと話あんだけどさ。

律:なんだ?

〜〜

律と話を終え、屋上へ歩いていく。人が多すぎて屋上に行くまでにかなり時間がかかる。

お化け屋敷やら、占いやら、人生ゲームやら、教室内を改造し、様々な出し物が催されている。


??:あ!いた!

〇〇:............

??:ちょ、ちょっと待ってよ!ガシッ

〇〇:ん?おぉ、美月か。


後ろから腕を掴んでいたのは美月だった。


美月:あ、あのさ....えーっと...その...ね?

〇〇:あ?なに?

美月:あー....もう....文化祭!一緒に回ろう!


結構大きめの声が廊下に響いた。


〇〇:えー....寝ようと思ってたんだけど....蓮加とか茉央は?

美月:今自分のクラスでシフト入ってる。

〇〇:あ、そうなの。....美波と律も今シフトだしな....あれ、美月色んな人から誘われてたじゃん。

美月:.....断った。

〇〇:なんでよ。

美月:..........〇〇と回りたかったから//

〇〇:え....あ....そう//


気がつけば、まわりの男子生徒がこちらを凝視している。


〇〇:よ、よし!えーっと....あ!あのお化け屋敷行こう!


この場から離れたい一心で〇〇は美月の手を取って、お化け屋敷へと入って行った。

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美月:あははははは笑 ねぇ、大丈夫?笑

〇〇:あんなクオリティ高いと思わなかった.....


外のベンチに座りながら、〇〇はゲッソリとしていた。中々にクオリティが高いお化け屋敷に負け、その様子を美月は大笑いしながら見ていた。


〇〇:.....もう2度と入らねー.....ん?


ベンチに座りながら、溢れる群衆を見ているとある事に気づく。


〇〇:.....なんか男女で回ってるやつ多いな。


よく見ると、坂乃高校の生徒達は男女ペアで回っている生徒が多かった。


美月:あぁ、その.......えっとね?

〇〇:ん?

美月:だ、男女で文化祭を回ると、その男女は結ばれるってジンクスがゴニョゴニョ

〇〇:あ?何言ってっか・・

美月:だ、だからぁ!・・え?


隣に座っていた〇〇は急に立ち上がって遠くを見ていた。


美月:どうしたの?

〇〇:........見間違いじゃ....ねぇよな...


見間違いであって欲しい。〇〇が群衆の中から偶々目に入った男女二人組。

それは、茉央と奈央。いや様々な人間を傷つけた、悠真と真凛に似ていた。

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               To be continued


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