一方その頃、レーナは目隠しと猿轡をされ、手足をロープで縛られた状態で檻の中に閉じ込められていた。
(怖いよ……助けて……パパ……)
 目隠しをされた布の中から一粒の涙がしたたり落ちる。
 
 檻の外からは、賊と思われる男たちが酒を飲み交わしながら下卑た声で嗤いながら話している声が聞こえてくる。
「いやぁ、今日は大漁だったなぁ! 人里離れた村だからしけたもんしかねぇと思ってたけど、金も食料もしこたま手に入ったし、何より一匹上物が手に入ったしなぁ!」
「おう! ところで手に入ったあいつはどうすんだ? 俺としちゃあ、一発あいつでお楽しみと行きたいところだが……」
「馬鹿野郎! 商品価値を下げる真似してどうすんだよ! 此奴は奴隷市場で高値で売りさばいて、精々趣味の悪い貴族や金持ち共の玩具にしてもらえば、金がたんまり手に入る。うまく行きゃ、一生遊んで暮らせるだけの金が転がり込んでくるかもしれねぇからな!」
「いや、ダメだ! 俺は一刻も早くあいつで楽しみたいんだ! その幼い顔が苦痛に歪む様を一目でもいいから見てみたいんだよぉ!」
「だから馬鹿じゃねぇのかてめぇはよぉ! 目先の快楽よりも将来の安泰に決まってんだろうが!」

 ザシュッ

 しかし、酒で酔っ払っているのか、聞こえてくる笑い声は次第に怒りに満ちた喧嘩と殺し合いの声へと様変わりしていった。
 だが、賊達の喧嘩の内容などレーナにとってはどうでもいいことである。
 何れにせよ、このままだと自分がもう二度とパパに会えないどころか酷い目に遭わされるのだから。
(何とか脱出しないと……そうだ!)
 レーナは、パパとのかくれんぼの時にいつも使っているお得意の魔法を使うことにした。
「”トランスペア―”」
 そう唱えた瞬間、レーナは一瞬にしてその場から姿を消した。

「さて、そろそろあいつの様子でも見に行ってやるか……」
 賊の一人がレーナの様子を見に檻の方へと向かったのだが……。
「お頭‼ 大変だ‼ 今すぐ檻の方にきてくだせぇ‼ 攫ってきたガキが逃げ出しやがった‼」
 レーナの様子を見に行った賊が慌てて賊のお頭へと報告しに戻ってきた。
「おいおい何をバカなことを言ってやがる。檻に閉じ込めて縛っているんだから、あんなガキごときが逃げ出せる訳がねぇだろうが」
 お頭は笑いながらレーナの檻の方へと向かったのだが。
「お、おいマジかよ! ガキがいねぇじゃねぇか‼」
 レーナの檻を見てまるで信じられないといった様子で驚いていた。
 しかし、その驚きの顔は途端に怪訝そうな顔へと変わる。
「ん? でもなんかおかしいな。檻が開けられたような形跡なんてどこにも無いし、一体どうやって逃げ出しやがったんだ? あんなガキ如きに魔法が使えるとは思えねぇし……」
 お頭はしばらく考えるようなそぶりを見せた後で、子分たちに命令した。
「いいか野郎共!! 草の根をかき分けてまであのガキを探せぇ!! あいつは金の生る木なんだ!! 絶対に高値で売りさばいてやる!!」
「わかりやしたお頭ぁ!!」
 こうして賊達はアジトの外へと飛び出していった。

「よし、これで逃げ出せる。後はこの檻を破って逃げ出すだけ……」
 レーナの逃走劇は、まだ始まったばかりだ。

 一方その頃、ラルスはというと。
「チッ、ここは一体何処だ⁉ だが、レーナは必ず見つけ出す!!」
 どうやら道に迷ってしまったのか、一人森の中を彷徨い歩いていた。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?