イーロン・マスクがもたらすもの
自己紹介
一昨年までTwitterに4年以上所属し、その後Bytedanceを経て、現在はキャリアブレイク中
*キャリアブレイクの経緯
イーロン・マスクの軌跡
イーロン・マスクの起業・経営のストーリーを箇条書きに並べてみると、
Zip2: オンラインコンテンツ出版ソフト
X.com: オンライン金融サービス(以後、PaypalとなりeBayに2002年に売却)
テスラ・モーターズ: 電気自動車
スペースX: 宇宙船
ソーラーシティ: 太陽光発電
Twitter: SNS
となる。つまり彼は、ごく初期にソフトウェア、インターネットサービス企業を立ち上げ、売却したのち、今回Twitterを買収するまで一貫してハードウェア産業(電気自動車、太陽光発電、宇宙船)に身を置いていた。
つまり、X.comからPaypalとなり、eBayに売却された2002年から今年までの20年間において、彼はインターネットサービス産業を率いたことはない。
そして、この20年間において、この産業構造、形態、もっと言うとゲームのルールがどのように変わっていったのかを彼が現在の時点で、体感レベルで知っているというのは考えにくい。
ハードウェア産業とインターネットサービス産業の違い
ここからは思考実験として、仮に
になったつもりで、このエンジニアがどのような選択を行うのかを考えてみる。
仮に2022年の段階で彼が様々な革新的な電気自動車のアイディアを持っていたとして、それを実現するための選択肢は、
起業する
会社に所属する
の2択となる。では、1が実現性があるかと言うと、少なくとも、起業するための、
という、難関が待ち受けている。ハードウェア産業は、とにかくお金がかかる。
試作品を作成するだけではなく、衝突実験などの設備、量産化のための設備など、ベンチャーが今から数億円のシード予算で参入できるほど甘くはなく、かといってアイディアのみでVCを回っても数百億円の資金が調達できるとは思えない。
ごく初期のガレージ産業であった時代ならまだしも、巨大企業、国が命運を賭けてBetしているこの産業の状況では、今から1から起業をすることは、上記理由で、かなりの無理筋な選択肢であることは容易に想像できる。
となると、彼は2、つまりテスラをはじめとした既存のメーカーに所属するほうが資本、人材、設備を活用できるため、実現のための近道、というか唯一の道であることがわかる。
では、この状況をイーロン・マスクの視点で見てみると、
ということになる。なので、テスラが『週5出勤に戻す!嫌ならクビ』と宣言しても、この産業に従事したい人にとっては、選択の余地が無いことがわかるし、おそらくは彼もそれを承知で命令をしているのだと思われる。
では、SNSを含めた『インターネットサービス産業』ではどうだろうか?
がいたとすると、彼はまずどうするか?
どこかの会社に所属し修行するということも選択肢としては『アリ』だろう。人脈、秘伝のタレ、アイディアのブラッシュアップができる可能性がある。
ただ、それと同じぐらい、『実際に作ってみる』というハードルは、今の時代非常に低いことは想像は容易だ。
small startを容易にしたクラウドサービス
全世界へマーケットを広げられるエコシステム(アプリストア、広告モデル)
試作品を簡単に開発可能なフレームワークの充実
つまり、『今からテスラを作り出すことは困難だが、今からTwitterのようなサービスを作り出すことは1人のフルスタックエンジニアであれば容易』という状況。
その場合、そのエンジニアが仮にTwitterに所属していたとして、今回のレイオフに遭遇した場合(彼が対象となる、ならないも含めて)、彼がとりうる選択肢は、ハードウェア産業よりも非常に幅広いことが分かる。
現実に、レイオフされた元Twitter社員、Meta社員を対象に、人材の獲得競争、引き抜き競争が始まっており、優秀な人であれば、スムーズに次が決まるし、ベンチャーへ身を投じることも『アリアリ』な状況である。
私が元Google社員であるため、"Xoogler.co"という出身者専用のSlackチャンネルを見ることができるが、だいたい週で10件以上の求人、それも10人以下の出来立てベンチャーの仲間募集が多く、今回のlayoffでそれが加速している(実際にlayoffに言及している)ことが見てとれる。
これから起こりうること
イーロン・マスクのこれまでの実績は疑いようがないし、現在進行形で成功し続けていることは誰も否定できない。
ただ、前の項で述べた通り、
であることは留意しておく必要がある。
もちろん、前述の書籍に書いてある通り、電気自動車、宇宙船について最初はズブの素人であった彼が、急速に知識を獲得し、第一人者となったバイタリティは侮れないので、彼が今後急速に”キャッチアップ”して、SNSの専門家、インターネットサービスの第一人者となる可能性はある。
と、思っていたが、下記の記事を見て、気持ちが変わった。
彼はSNSの第一人者になるつもりはなく、『やりたいことをやってから、全部誰かに丸投げしたい』ということだそうだ。
今後起こりうることは、おそらく彼により放逐された優秀な人材が、様々な会社、産業に散らばり、『第二のTwitter、第二のテスラ』を作り出していくし、彼は過去20年間経験していなかった、『次々とライバルが登場する産業で舵取りを行う』という新しい経験に直面するか、直面する前に投げ出すのかもしれない。
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