見出し画像

モーリス・ラヴェルのボレロに涙する~整体師がやって来たこと⑮~

6年間吹奏楽部にいたけれど、クラッシックに疎くて、プロの演奏会なんて行ったことはありませんでした。他所の学校の定期演奏会に行っても寝てしまうこともあったし、合奏の練習中、他のパートが先生に絞られている間に居眠りして、先輩に怒られることはよくありました。
6年やってきても自分が吹いたことある曲しか聴けない、つまり、知ってる曲しかわからなかったんです、誰が何をやっているか。

音を出すだけで精いっぱい

吹く楽器とは口の周りの筋肉を鍛えないと、音すら出ない(≧▽≦)
それは木管も金管もだと思う。
私はトランペットを担当していたのだけど、唇の引き加減で音を変えなくてはいけなかった。高音になるほど目いっぱい引く。強く引かれた唇で強い息を吐く。いやぁ死んじゃう、と思った(≧▽≦)
バルブ3つで音を変えていくんだけど、主には唇の振動だったんです。
最初は唇を息で振動させることすらできなかったし、高音なんてとても出せなかった。
入部当初は腹筋ばかりで、なんとか音が出るようになったらロングトーンばかり。音が出てもチューニングで引っ掛かる。
同じ音を長く吹くには腹筋が無いとだめで。途中で音が変わっちゃうなんてしょっちゅうでしたね。そうすると、うねっちゃうんですよ、音が。
隣の人と同じ、ファ、を吹いているつもりでも、ミに近づいちゃう、とか。とても周りの楽器が何をしていたかなんて、気にも留められなかったです。

譜面を追うだけで精いっぱい

ようやくなんとか音が出せて、演奏らしきことを始めるのですが、今度は譜面がわからない。音符は読めてもmp(メゾピアノ)とmf(メゾフォルテ)の吹き分けができない。クレッシェンドなのに最初から強く吹いてしまったり。
クレッシェンドの始まりがPP(ピアニッシモ)なのかp(ピアノ)なのかわからない。周りを見て、指揮者の指揮を見て、思う音になるように息を吐いていく。譜面なんて見ていられないので暗譜するようになって行きます。

ソロを全うすることで精いっぱい

同じパートの子が部活を辞めてしまったりしてトランペットが学年で1人になっていました。上級生が引退すると自動的に私が主旋律パートを担当です。うまい下手ではなく。
トランペットは良くも悪くも目立つんですよね。高音が出ない時なんて、メロデイーが消えちゃうんだから。とにかくここだけは音を出さなきゃならない、と鬼の形相になる。鼻の穴をパチパチに膨らませて演奏してました。
自分のソロなんて来ちゃったら、失敗しないように、そればかりを気にしてた。
例えば歌を聴くとき、ギターの演奏だけだとよくわからないことって、ないですか?
私はそれだった。歌しかわからない。
歌を聴けばその曲がわかるけど、ギターの演奏だけじゃ曲を当てれない。
ギターが何をしてくれていたかなんてわからない人でした。

でもボレロを聴いて涙が落ちるようになった

10代のころは、なんて単調な曲なんだ、と思っていましたね。
ずっと同じリズム、同じ速度、同じメロディーの繰り返し。
ただ最初と最後で強弱と人数が変わるだけだ、くらいにしか思っていなかった。
でも違った。
同じことを違う楽器へ、バトンを渡していく。
その楽器にはその楽器の個性があって、決して小さな声ではなかった。
自分が演奏している時は、スネアドラムの音なんて入ってこない。音として聞こえてこなかったんです。でもどんな時もリズムを刻み、それは振動として届いていた。刻んでくれるから狂う事なくメロディーが吹けた。

ボレロはディスカッションなんじゃないかと思う。楽器同士の。

それぞれの意見に耳を傾け、同志が集まり、時に反論もあったり、それでも一定のリズムに乗って大勢がひとつになっていく。

ホルンとピッコロのハ長調vsホ長調・ト長調なんて鳥肌が立つよ。
それはわかるけど、こうなんじゃないか、と意見を対立させている感じがする。それでも同じ方向を向いてるんだよね。
金管の花形なんて言われるトランペットがミュートを付けて意見を言うんですよ。どうしたって声がでかすぎるから、あえて抑えながら意見を言う。
トロンボーンなんて唸りながらだし、でもそれはトロンボーンのトロンボーンたるところで。
スネアドラムとフルートから始まった話に、多くの楽器が自分の意見を乗せていく。凛として、「ぼくは、こう思う」と立ち上がるんです。

曲を聴いて涙が出るのは歌の歌詞によるものだと思っていたけど、そうではないみたい。
誰が何をやっているのか、なにを言っているのか、に気が付くとクラッシックは物凄い心の震えるものでした。

そして大泣き(≧▽≦)
何度聞いても泣いちゃう。
みんなの切実な声だから。

でもボレロを聴いて涙が落ちるようになった:人の意見に耳を傾けることがハーモニーだった

『同調』ではなくて『調和』。お互いの音をよく聴くことで、まとまっていく。自己主張の前に相手の意見を聴くことは、演奏の時以外にも大事だな、と思う。聴いたうえで考える。

ボレロはBGMとして聴けないんですよ。聴き入っちゃって。
オーボエが「でもさぁ」なんて言いだしたりすると、「ふむふむ、それでそれで?」と先を促したくなっちゃって(≧▽≦)






すごく喜びます(≧▽≦)きゃっ