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自分が正しいと思う選択をし続ける。 「パーラー江古田」原田浩次さん

シリーズ【飲食店は何のためにあるのか?】

営業時間は朝8時半~18時半まで。サンドイッチとエスプレッソと沖縄ぜんざいがメニューに並ぶ「パーラー江古田」がオープンしたのは15年前。以来、ある人にとっては1日何度も立ち寄れるバール、国産小麦で焼くパンのおいしい店、満月の夜に自然派ワイン好きが集う酒場、国産チーズや地方のこだわり食材を買える店と、機能を拡張しながら進化を続けてきました。
2011年に保育園併設のカフェ「まちのパーラー」、2018年にナチュラルワインショップ「パーラーさか江」と業態を広げつつ、店主の原田浩次さんが一貫して目指すのは「井戸端会議の井戸になる」ことに変わりありません。

※本シリーズは追ってWeb料理通信に掲載予定ですが、一足先にnoteで連載をスタートします。

▶問1 現在の仕事の状況

無駄なものを切り捨てなかったから生き残れた。

うちは飲食店であり、小売業であり、飲食店への卸でもあるという立場で、コロナ禍の 1年を過ごしてきました。コロナ前は「無駄なものは切り捨てて、利益集約型の商売がかっこいい」みたいな風潮があったけど、僕が生き残れた理由はそれをやらなかったことだなと。

「パーラー江古田」「まちのパーラー」はもともとカフェ営業とテイクアウト、パンや食材の販売をしていたので、1回目の緊急事態宣言の時は地元の人が日々の糧を買える店としての機能だけ残し、店内営業は休止。売上げをカバーするため2カ月間、毎日3000円のパンセットを20件分焼いて、全国に発送しました。

もともと毎日店に来てほしくてパンを焼いているから通販否定派だったけれど、数年前からロスパン対策で当日売れ残りそうなパンを購入希望者に発送していた。その経験から、1日20件分のパンセットを確実に発送するにはパンを冷凍するしかないと腹を決め、急遽グーグルフォームで募集したら、これまで発送日数の関係でロスパンを買えなかった遠方のお客さんが注文してくれました。1200件の入金確認は死ぬほど大変だったけど、今は全国に支えてくれるお客さんがいます。

飲食店への時短営業要請や酒類提供停止でダメージを受けているのは、むしろ酒屋(「パーラーさか江」)のほうです。大型連休で外食の昼飲み需要が増えるぞと仕入れを増やしたら、直前に酒類提供停止の発表が出て、しかも酒屋には何の補償もない。家庭消費が伸びたとはいえ、飲食店へ卸す量とは比較にならないから、全国の酒屋さんは見殺しにされている。

それでも酒販という業態をもっておいてよかったと思う時もあります。植物でも人間でも「多様性が大事」と言われるけど、なぜ?と聞かれても、これまで答えられなかった。それが今回、身をもってわかりました。「滅びないために多様性が大事」なんだと。

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長年、カフェで使っている千葉の農家「キレド」の野菜を2019年末から酒販店「パーラーさか江」で販売している。「ずっとパーラーに八百屋部門を作りたかった」と原田さん。(photograph by Instagram:@parloursakae)


▶問2 あなたが考える「飲食店の役割」とは?

機能を磨いて居場所をつくる。

僕はもともと飲食がおまけだ、と思って店をつくっているから(笑)。食べ物は出すけど、それはここに来るための言い訳でしかなくて、本当の目的は「ここに居るため」 にお客さんはやってくる。コーヒーもパンも料理も、すごくおいしくても「きっかけ」に過ぎない。それは酒屋(「パーラーさか江」)だろうと同じことで、お客さんの本当の目的、居場所を提供したいと思って店をやっています。

ただ、店として「居場所を提供します」と言うのはダサい。それを決めるのはお客さんじゃないですか。飲食店の本筋は「おいしいものを提供する」こと。その機能以上は表向きには売りにすべきではないと思っています。

そして居場所を提供するために大事なことは何かと言われたら、僕はひたすらおいしいものを作ることだと思っていて。本筋のパンやコーヒーの質を高めていくというのが僕のやり方です。テーブルや椅子も本筋のためにある。枯れた井戸に人は集まらないから、本筋を磨いて、井戸端会議の井戸になれればいい。

機能は上げていくべきだけど、僕は付加価値という言葉があまり好きではなくて、「正当な価値」のほうがしっくりきます。付加価値はエスカレートすると、やみくもに価値を上げてもいい感じがする。お客さんがお金を払ってくれるならどんなことをしてブランディングしてもよい、みたいな。ブランディングは、価値を上げるためにあるのではなく、価値を知ってもらいやすくするためにあると僕は思う。

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「パーラー江古田」のカフェメニューから「マカジキといろんな野菜のサンドイッチ、サルサヴェルデ」。少量の自家培養発酵種で長時間発酵させた生地で焼くリュスティック。信頼する鮮魚店から仕入れたマカジキと「キレド」の野菜のグリル、自家製サルサヴェルデを挟む。レストラン級の満足感。(photograph by Instagram:@parlour_ekoda)


▶問3 これからの時代、飲食店が存続するために必要なことは?

アスリートは諦めない。

長く続けようと思ったら、やっぱり特化しすぎないことかなと思います。食パン専門店が100年後にあるとは思えない。彼らはブームが終わったら店を潰してもいいと考えていると思う。本当に食パンが大好きな人なら、ブームが終わっても質を高めて進化させていくことができるけど、「今、これやったら売れるぜ」という人たちは、売れなくなったらすぐ諦めてしまうでしょう。

「サッカー好きだから、サッカーで飯食えるといいな」というのと同じで、僕らは料理する、パンを焼く、接客することが好きだから、それをやり続けるために質を高める 。アスリートに近い感覚だと思います。

人はそれぞれ「こうなったらいいな」と願う社会があるはずで、ある程度自分を表現する仕事に就いている人は、その願いが仕事に表れる。僕らだったら使う食材や店づくりに、自分が正しいと思う選択をし続けることが、社会を変えることになると思っていて。諦めずに正しいと思う選択を続け、質を高めて、隣の人に伝えていく。それが個人が行動を起こすことであり、すべてだと思うんです。

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「パーラーさか江」では今年5月からワインの量り売りをスタート。手持ちの容器や瓶を持ち込んで購入する。「最近、キーケグ(リサイクル可能なPET素材などで作られた樽容器)でワインを出荷する造り手が増えてきた。空き瓶がすべてリサイクルされるわけではないから早く始めたいなと」(photograph by Instagram:@parloursakae)

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1回目の緊急事態宣言後、BASEでECサイトを立ち上げて、ロスパンやワインもネットで買えるように。「通販へのネガティブな気持ちを捨てなきゃいけないと思ったのは大きな変化ですね」

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photograph by Masahiro Goda

原田浩次さん
広島県出身。大学在学中、ワーキングホリデーで訪れたオーストラリアでカフェ開業を決意。卒業後、会社員を経てパン職人に転身。千葉県松戸のベーカリーカフェ「ツォップ」でキッチンスタッフとして2年働き、2006年東京・江古田に「パーラー江古田」を開業。2011年保育園併設のカフェ「まちのパーラー」、2018年ナチュラルワインショップ「パーラーさか江」をオープン。イベント出店も多く、自らパンを担いで各地へ出向く。

【動画】インタビュー・ダイジェスト版をご覧ください。

◎パーラー江古田
東京都練馬区栄町41-7
☎03-6324-7127
8:30~18:30
火曜休(祝日の場合、翌水曜休)
西武池袋線江古田駅より徒歩5分
BASE:https://parlour.base.shop/
Facebook:パーラー江古田

◎まちのパーラー

東京都練馬区小竹町2-40−4
☎03-6312-1333
8:30〜21:00(月曜は~18:00)
火曜休(祝日の場合、翌水曜休)
東京メトロ小竹向原駅より徒歩5分
Facebook: まちのパーラー

◎パーラーさか江
東京都練馬区栄町35−1
12:00~19:00
火曜休(祝日の場合、翌水曜休)
西武池袋線江古田駅より徒歩4分
Instagram:@parloursakae

Web料理通信|未来のレストランへ
食のプロたちに飲食店の存在意義や尊厳を問い掛けていくシリーズ「飲食店は何のためにあるのか?」をWeb料理通信にも公開しています。2020年4月の緊急事態宣言を機に生まれたシリーズ「未来のレストランへ」では、度重なる営業自粛を求められる中、飲食店の多くが要請に従うと同時に様々な策を講じ、“制約を逆手に創造に挑む”発想力と底力を取材しています。


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