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note限定企画! 「100人のお菓子作り」の100人目のスイーツは?

2020年2月号のスイーツ特集「100人のお菓子作り」は“パティシエの技術の生かし方”というテーマで企画を立てました。

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技術の生かし方は人それぞれ。なかでも、デザートをメインにフルコースを組み立てた〈デザートレストラン〉の登場はここ1、2年の新しい動きで、特集でも都内の4店を紹介しました。

特集のラスト、100人目に登場したベルリンの「CODA(コーダ)」は、デザートとペアリングドリンクのフルコース1本で営業するデザートレストラン。すでにミシュランの一ツ星を獲得しています。そして、シェフのレネ・フランクさんのデザートを特徴づけているのは、なんと「旨味」。「本場の“ウマミ”を知りたくて、半年日本で働いたんです」と言います。

日本人もまだ気づいていないスイーツにおける旨味の世界。その存在を教えてくれたのは、ベルリン在住のライター河内秀子さんです。誌面には限りがあるため、当初デザート3品で取材をお願いしていたのですが、シェフの「全品味わってもらわないと!」という強い説得にノーと言えず、全品撮影を行うことに。

取材後、河内さんは掲載予定のない4皿も含め詳細な解説を送ってくれました。日本の“ウマミ”にインスパイアされて生まれたデザートの全貌が明らかになるにつれ、ここから3皿に絞って、他をお蔵入りにする選択肢は消えていきました。しかし誌面はもういっぱい……。そこで、instagramに載せきれなかった写真を投稿、noteに原稿を加えたフルバージョンの特別編を残しておくことになりました

10年前には考えられなかった刺激的なデザートの世界、是非、覗いてみてください。

(『料理通信』編集部 伊東由美子)


note特別版「星付きも登場! ガストロノミー系デザートレストラン」
text by Hideko Kawachi / photographs by Gianni Plescia


・日本の“ウマミ”にインスパイアされたデザートレストラン


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▲デザートレストラン「CODAコーダ」の店内。客席と厨房に仕切りはなくフラット。

音楽を締めくくる終結部「コーダ」。その言葉を冠したレストランは、一日の終わりを彩るデザートダイニングだ。昨年、ミシュランの一ツ星を獲得。店で腕をふるうレネ・フランクさんは、ドイツのグルメ雑誌でパティシエ・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。しかし彼が提案する「デザート」はいわゆる「お菓子」とは一線を画するものだ。

「製菓の修業はしていませんが、シリアスな顔をした魚や肉料理と比べて、遊び心あるデザート作りが好きでした。温度や香り、色や食感が弾ける心躍る食べ物それが私にとってのデザートです!」


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▲1984年、南ドイツ生まれ。料理人として国際技能競技大会で金メダル受賞。スペイン・サンセバスティアン「アケラーレ」、リヨンの「ジョルジュ・ブラン」などでの修業を経て、ドイツの三ツ星「ラ・ヴィ」でシェフ・パティシエを務める。2016年に「コーダ」をオープン。

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▲食前に出されるスナック。(奥から手前に)、ジンジャーとミントでインフューズドしたリンゴ。ビーツのグミベア。豚皮のポップコーン風


・「どうしても全品通して食べ、飲んでもらわないと!」


コーダで供されるのは、7皿のデザートとペアリングドリンクのコースのみ。

精製白砂糖や香料といった人工的な素材を一切使わず、素材の味を凝縮して甘さを表現。ペアリングドリンクは、デザートに重要なアルコールを外付けで、より印象的に楽しんでもらおうという発想から生まれた。

甘味、塩味、酸味、苦味、そして旨味の5つの味が奏でるコースメニュー。そう、レネさんのデザートを特徴づけているのは、圧倒的な「旨味」
「本場の“ウマミ”を知りたくて、半年ほど日本で働いたんです」とレネさん。この経験がレシピ作りに影響しているという。

しかし7皿は多い。全部食べられないかもしれないし、編集部からは3皿でいいと言われていると説明する私に、「音楽にたとえるなら、コースの7皿とペアリングドリンク7杯で1つの曲です。コンサートの途中で席を立ちますか? ワクワクと開演を待つ気持ちも込みでの一晩ではないでしょうか。取材だとしても、どうしても全品通して食べ、飲んでもらわないと!」と、熱く語るレネさん。

キッチンが見える一番良い場所に席を決めてもらい、楽しそうに準備を始めるスタッフの姿を見ていると、いよいよ最初の一皿が運ばれてきた。


・メニューから想像したものとは、全く違う一品が登場


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――1皿目(ヴィーガン)
イエロートマト、ヒヨコ豆、レモン
×アプリコットブランデー、熟成コルン(麦の蒸留酒)

下からイエロートマトのグリル、ヒヨコ豆のメレンゲ、五香粉を加えたトマトのアイスクリームを重ね、再びヒヨコ豆のメレンゲを。ソースはレモン果汁とオリーブ油。口の中で潰れて広がるトマトの旨味が圧倒的だ。

「1皿目は前菜なのでフレッシュさに重点を置いて、酸味を効かせて軽やかに。完熟トマトには、さっと火を入れ旨味を高めています」とレネさん。ヒヨコ豆のはかなさもドラマチック。

ペアリングドリンクの自家製アプリコットブランデーがトマトのフルーティさを引き立てる。一皿目で、もう心が鷲掴みに。


・海藻に薫香……「デザート」感が完全に覆る2皿目

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――2皿目
プラム 、クルミ、ダルス(海藻)
×マデイラ酒、雲南野生茶

2皿目の準備が始まると、店内には燻製香が立つ。運ばれてきたのは、加熱するとベーコンのような燻製香が立ちのぼる“ダルス海藻”をのせたプラムケーキ。苦い薄皮を残したクルミと、歯応えを残して漬け込んだプラムが入ったケーキに、シャクシャクと楽しい海藻。

ペアリングドリンクを合わせると、爽やかなお茶の香りでプラムの酸味が強調されて、少し塩気のある磯の香りの間から、じんわりと甘味が立ち上ってくる。海藻にベーコンの薫香……初めての体験に自分の「デザート」観が完全に覆される。

・熱々チーズ入りワッフルに液体窒素のペアリングドリンク

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――3皿目
ラクレット、ヨーグルト、コーン
×ライ・ウイスキー、マンダリン、洋ナシ発泡酒

熱々のワッフルと一緒に運ばれてきたのは、みかんとライ・ウイスキーを液体窒素で凍らせたもの。テーブルで洋梨の発泡酒が注がれる。「ヨーグルトアイスの周りの粉は自家製ピクルスのパウダー。ワッフルをちぎって皿をぬぐって、全部を一緒に口に放り込んで」とレネさん。ワッフルはちぎるとラクレットチーズがとろけ出すほど熱々だ。冷たいアイスと乳酸発酵特有のまろやかなピクルスの旨味が合わさって、発泡酒との相性は最高。冷たいのと熱いの、しょっぱいのと甘いの、交互に食べると止まらない。


・ビーツのカップに、ふわふわの絹ごし豆腐アイス

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――4皿目(ヴィーガン )
ビーツ、豆腐、クランベリー
×ラズベリーガイスト(蒸留酒)、チェリーの蒸留酒、レッドドライヴェルモット

気さくな3皿目の次に出てきたのは、ジュエリーのように繊細で美しい一皿。ビーツの美しい色とクセのある味を生かしきった逸品は、ペアリングドリンクも同色で口をつけるのがもったいなく思えてしまうほど。一気にフォークを入れると、ピンク色のカップはビーツのアイス、中には豆の甘さを感じる、ふわふわの絹ごし豆腐のアイスと蜂蜜ケーキが隠れていた。ルビー色のビーツチップには、クランベリージュースでマリネしたビーツと未熟のブドウをトッピング。鮮烈な酸味がビーツの濃厚な甘さを引き締める。


・フォンダンショコラのようにニンジンソースが流れ出す!

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――5皿目
ミモレット、ニンジン
×オレンジワイン2種(ミネラル系とフルーティ系)

ふわふわに削ったミモレットチーズの下には、同じチーズのムースが隠れている。添えられたキャロットケーキにフォークを入れると、中からフォンダンショコラのように、とろりと濃厚な甘いニンジンソースが流れ出てきた。このケーキの甘さは、40kgのニンジンをジュースにして煮詰め、最終的に500mlに凝縮したエッセンスを使ってつけたもの。ミモレットチーズの塩気と旨味を増幅するのが、お酒だ。ミネラル感が強いものとフルーティなタイプ、2種類のオレンジワインを割ったものを合わせて。


普通なら5皿も食べると、もうお腹がいっぱい、肉や魚料理は無理……となってしまいそうなところだが、塩味と甘味、旨味のバランスなのか、思いもよらない味と食材の組み合わせの妙か、驚くほど満腹感を感じない。

次は何が出るの? ともう一度メニューを眺めてみる。えっ、アンチョビー? って、あのアンチョビーがデザートに?

・アンチョビーソースにナッツのアイスを絡ませて

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――6皿目
イチジク、ピエモンテ・ヘーゼルナッツ
×ポルト、日本酒(古酒)

コースを締めくくるのは魚料理……ではなく、アンチョビーのソースをのせたヘーゼルナッツアイス。オーツ麦のクラッカー、ブナのスモークウッドで香り付けしたイチジクと、ワイルドライスのポップが添えられている。アンチョビーの旨味と塩気がナッツの香ばしさを引き立て、薫香がワイルドライスとオーツ麦の甘さに絡み合う重層的な香ばしさ。

ドリンクはポートワインの熟成古酒割りだ。「日本酒をポートワインで割るなんて言語道断!って言われそうだけど(笑)日本酒が穀物の甘さを引き出してくれるんです」。


・ラストは濃厚な旨味の黒ニンニクをアイスで

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――7皿目
パセリの根、ココナッツ、ピスタチオ
×ビール(ホップの強いねっとりタイプ)、シェリー(モスカテル)

「これ知ってる?」とレネさんが持ってきてくれたのは黒ニンニクが入ったグラス。「旨味がすごい。これをデザートにしてみたかった」。黒ニンニクのアイスの上に、自然な甘さのココナッツアイス。エメラルドグリーンのソースは、パセリとライム。酸味と苦味、香りが衝撃的。黒ニンニクのアイスは舌の上ですっと溶けて、濃厚な旨味とほんのりした甘さを残す。モルトの香りが強いねっとりしたビールをスペインのモスカテル種のシェリー酒で割った、醤油を思わせる旨味と香りのペアリングドリンクにぴったりだ。

「クライマックスにすごい一皿が来ましたね! 飲み物も、全然和風ではないのに、どこか懐かしさを感じる味わいでした」と、レネさんに伝えると、「お腹はいっぱいになりましたか? 定番ですが、最後にコーヒーとチョコはいかがですか」と、にっこり。

いつのまにか、店内はチョコレートの香りで満たされていた。


オープンキッチンに招き入れてもらい、作る工程を見ながら、自家製プラリネでしめる。カカオ豆を挽いて作る、とびきり新鮮なチョコレートはフルーツのような香りで、フルコースを満喫して、もうお腹がいっぱいなのにもかかわらず、何種類も出てくるので試してみたくなる。コーヒーに合わせて2粒。あとはお土産だ。

めくるめく、圧倒的な味と香りの共演。ベルリンという、若く、自由な気風にあふれる都市だからこそ可能になった、「スイーツ」を超えた、新しいデザートの在り方。

この、交響曲のように重層的で様々な顔を見せる一晩を味わうためだけにでも、ベルリンに足を運ぶ価値がある、と言い切ってしまおう。
(text by Hideko Kawachi / photographs by Gianni Plescia)


◎CODA
Friedelstrasse 47, 12047 Berlin
▲(030) 9149-6396
19:00~ / 日、月、水曜休
コースはペアリングドリンク込みで平日138ユーロ、週末148ユーロ
coda-berlin.com

instagram| @codaberlin


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