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二足歩行が「障害」で、車いすが「当たり前」? 障害は社会がつくる、を体感するバリアフルレストラン

2月13日〜15日の3日間にわたり、東京大学本郷キャンパスにて、「誰もが誰かのために共に生きる委員会」(以下、「チーム誰とも」)が「バリアフルレストラン」を開催しました。
(共催:東京大学大学院教育学研究科附属 バリアフリー教育開発研究センター 運営:公益財団法人日本ケアフィット共育機構

今回は、秋の一般公開に向けたトライアル版として、関係者の皆様を対象に公開しました。

「チーム誰とも」については、こちらのnoteをお読みください。

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このバリアフルレストランは、「車いすユーザーであることが当たり前」「二足歩行する人が障害者」な社会を前提としたレストランです。今の社会における多数派と少数派をひっくり返した仮想世界を通して、障害は社会の仕組みから作り出されている、ということの体験を目的としています。当たり前ってなんだろう?と来店者に問いかけるレストランです。

レストランのオーナーを務めたのは、車いすYouTuberの寺田ユースケさん(寺田家TV)。同じく車いすインフルエンサーとして情報発信の活動をする中嶋涼子さん曽塚レナさんらと共に来店者を迎え入れました。

今回のnoteでは、参加された方による当日のレポートをお届けします。

足を踏み入れれば、自分は「障害者」。逆転の世界を体感

 はじめまして。ライターの薄井です。私は普段、二足歩行者として過ごしています。今回は、バリアフルレストランの様子と「二足歩行者」として感じたことをレポートさせていただきます。

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オーナーの寺田さん

 レストランに入ると…天井がとても低くなっています。屈まないと頭をぶつけてしまうような低さですが、オーナーの寺田さんは「ようこそバリアフルレストランへ!」と明るく出迎えてくれました。車いすユーザーにとってはなんてことない低さなのです。そして「お客さんいらしたから、案内してあげて!」と、同じく車いすユーザーのスタッフを呼びます。

 しかし、やって来たスタッフの方々は、私たちを見るなり表情を変えました。「あ…、二足歩行の方なんですね…今日は車イスはお持ちですか?介助の方はいらっしゃいますか?」。戸惑いと哀れみのような声を掛けられて感じるのは、なんともいえない肩身の狭さ。

 「いえ、車いすは持ってないです…介助もいません…」。普段、二足歩行者として過ごしていて、こんなに気まずい気持ちになったことがこれまでにあったでしょうか。ここでは車いすユーザーであることが「当たり前」なのです。

自分が知らない「当たり前」が広がる空間

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 「天井が低くなっているので、気をつけて歩いてください」と案内された店内は、木を基調にした落ち着いたインテリア。しかし、明らかに普通のレストランとは違います。

 イスは車いすユーザーには必要ないのでほぼありません。天井だけでなくテーブルも車いすに合わせて低めに設定にされています。床も凹凸がなくつるつるです。店内のテレビで放映されているのは「"二足歩行障害"のある人々の苦悩」を取り上げたニュース映像。「標準的な建物では、二足歩行障害の人たちは天井に頭をぶつけてしまいます」という解説が流れるそばで、屈みながらなんとか入店した二足歩行の私たちは、まさにその通りに頭を天井にぶつけます。
「危ないので、よかったらヘルメットつけますか?」とスタッフの方がヘルメットを貸してくれました。

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なんとか料理にありつくも…?

 ビュッフェ形式の料理を取りに行くのにも、いくつかの困難が伴いました。体を屈めながら片手でお盆を持ち、残った手でお皿や料理を載せていくのは、あまり簡単とはいえません。一方で車いすユーザーのお客さんは、膝にお盆を乗せて両手を使い、とてもスムーズそうです。

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 テーブルの上に目を向けると、消毒液が置かれ、おしぼりは2つあります。車いすを漕ぐと手が汚れてしまうため、消毒液は車いすユーザーにとって必需品なのだといいます。おしぼりも「最初に手を拭く用」と「食事中に手を拭く用」で2つ用意されています。

 そして、テーブルに全員が揃ったところで、料理をいただきます。…と、その時に、スタッフの方に声を掛けられました。「消毒液、ひとりでつけられますか?お手伝いしましょうか?」。両手は塞がっていないので、もちろんひとりでつけられます。なぜそのような声を掛けられたのだろうと戸惑っていると、「おひとりではつけられないかもしれないと思いまして!すみません」。「障害者への気遣い」を受けていたのでした。

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 お皿を持ち上げるのはマナー違反とのことで、お皿を持ち上げないようにしつつ、天井に合わせて屈めていた体をテーブル上の料理に合わせてさらに屈め、料理をいただきます。もちろん、楽なことではありません。

多数派の中に「少数派」として存在すること

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 テーブルの真横にあった壁には、パラリンピック選手の写真が。そう思った矢先、スタッフの方が「今年の夏は東京でオリンピックが開催されますよね」と写真を見ながら語ります。この世界では、車いすスポーツがオリンピックとして催され、「二足歩行障害者のスポーツ」がパラリンピックとして開催されているようです。
 
 途中、スタッフの1名がオーナーの寺田さんに呼び出される一幕が。2人が裏に回ると…お説教の声が聞こえてきます。「面倒なのは分かるけど、二足歩行の人にはちゃんとした態度で対応してあげて!僕だって一度に大勢来てほしくはないけどさ、かわいそうでしょ?」「…すみません。でもなんで今日はあんなに二足歩行の方来てるんですか、イベントでもあるんですか?」。
 「配慮」や「気遣い」、「優しさ」や「哀れみ」、障害をめぐる「心のバリアフリー」の難しさを感じずにはいられません。

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 非常口のピクトグラムももちろん車いす。どこを見渡しても、車いす利用が当たり前の世界でした。この世界で二足歩行をしていることに、なんとも言えない居づらさを感じてしまうのは、私たちが「二足歩行をしているから」なのでしょうか。

「多数派にとっての暮らしやすさは、少数派にとってのバリアフル」

 レストランで食事を済ませた後は、通路を通って移動しました。通路の天井は2m超の高さで、道幅は人間1人分ほど。迷路のような直角に曲がる道に、床はふかふかの絨毯です。

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 いわゆる「当たり前」の空間に戻ったのです。高い天井に、車いすで動くのには余裕のない道幅、そしてタイヤが食い込んで車いすが漕ぎづらくなる絨毯。二足歩行の人には歩きやすくても、車いすユーザーにはバリアフルな空間です。

 ここでバリアフルレストランの体験ゾーンは終了。オーナーの寺田さんからレストランについて説明を受けました。「もうここは普通の世界です。大げさにやってしまった部分もあったのですが、許してください。僕もスタッフも、あんなにひどい人間じゃありませんし、実際にもあんなにひどいことを言われるわけではありません」と笑いを交えながら話し始めます。

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 しかし、レストランで二足歩行者が経験したことは、いずれも車いすユーザーが日頃感じている不便やつらさ、「あるある」をもとにした演出なのだそうです。「レストランに行ったら、配慮してほしいと思うよりも、自分が我慢しなければいけないと思ってしまうんです」と寺田さんは話します。「社会のせいというより、自分が車いすユーザーだからではないか?と僕も考えてしまいます。めんどくさい、と思われるのが怖いから」。

 「多数派にとっては当たり前の暮らしやすさは、少数派にとってのバリアフルだったりもします。そういう思いで、このレストランは『バリアフルレストラン』と名付けました」。

 今回のバリアフルレストランも、「歩けないこと以外は健康」な「車いすユーザー」にとっての「暮らしやすい社会」でした。この社会には、実にいろいろな人にとっての「バリア」が潜んでいます。

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チーム誰ともの佐藤さん

 続いて、チーム誰ともの佐藤さんは、「私たちは無意識のうちに、多数派と少数派の間に『違い』だけでなく『差』をつけているのではないか」と訴えました。「多数派に合わせた社会が障害を作り出しており、その障害を解消するのは社会の責任である——それが『障害の社会モデル』の考え方です。この考えを広めて、『誰もが誰かのために共に生きる』世界を目指したい」と語りました。

写真から「多数派のために作られた世界」を感じる

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写真の解説をする中嶋さん

 会場には、写真展示のコーナーも設置されました。写真を見て、どこに偏りがあるのかを探します。企業のエントランス、エスカレーター、映画館…。日常の様々な場面で、多数派の人々が前提とされ、車いすユーザーや障害者に限らず少数派の人々を困らせていることに気づかされます。

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「実は右利き仕様に作られている」とトランプを広げる曽塚さん 

「あなたは障害者でした」——展示の終わりに

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 展示の終わりには、「健常者」に戻った私たちに投げかけられる数々の言葉がありました。寺田さんは、「最後に展示されている言葉のひとつである『あなたは障害者でした』がすべてだと思いました」と話します。何を「障害」とするかによって、「障害者」という言葉が対象にするものはいとも簡単に変わります。

 佐藤さんは、最後に、来場者に向けてこのように語りました。「今回の展示での問いかけは、『障害者のことを分かってほしい』という意図でものではありません。障害に限らず、この世界には様々な種類の「違いの中の偏り」があります。その違いの中で多数派/少数派が生まれ、偏った仕組みができあがり、つらい思いをしている人がいます。簡単ではないし、正解もないかもしれませんが、今日感じたモヤモヤをぜひ考え続けていただけないでしょうか」。

 佐藤さんの言葉通り、バリアフルレストランは「モヤモヤ」を感じさせられるものでした。自分は「障害」という言葉にどういった意味を見出していたのか、「多数派」と「少数派」をどう思っていたのか、自分が思っていた「当たり前」は何をもって「当たり前」とされていたのか…。秋にオープンするレストランにも、ぜひ足を運んでみたいと思います。

これからの「バリアフルレストラン」

「バリアフルレストラン」のレポートはいかがでしたか。

来場者の方からは、「障害者には優しくしようじゃなくて、人に優しくしよう、になるといいなと思います」「障害を持つ当事者同士でも知らないことばかり」など、さまざまなコメントが寄せられました。

レストランの様子は、各種媒体でも取り上げていただきました。

この「バリアフルレストラン」は、アップデートを行い、今年秋に一般公開予定です。その後は、気軽に「バリアフル」を体験できる場として、サーカスのような形態で各地を巡回することもイメージしています。

オーナーの寺田さんは、「参加者の方が『障害の社会モデル』について考えるきっかけになれたのが嬉しかった。車いすで過ごしているとつらいこともあるが、こうやって少しでも『楽しみながら知る』イベントに関われてよかった」と振り返りました。

今回のイベントを共催者として支えた星加良司さん(東京大学准教授)も、「これまで、ゲームなどで障害者の擬似体験をするイベントはあったと思うが、このように障害の社会モデルにフォーカスして『当たり前』を逆転させたというイベントは珍しかったのではないでしょうか。ここからムーブメントが広がっていってほしい」と、今後への希望を話しました。

「皆様からのご意見は賛否両論ですが、多くの反響をいただくことができました。これは、心になにかモヤモヤが残った証。バリアフルレストランが「今まで皆様が考えてこなかったなにか」を提供できたのだと捉えています。これから一緒に考えていきませんか。チーム誰ともは、メンバー募集しています。」
チーム誰とも運営団体 (公財)日本ケアフィット共育機構 理事 高木友子

社会の「当たり前」に目を向け、「障害は社会がつくる」ことに一人ひとりが気付いていく。それが共生社会を実現するための第一歩です。

2020年、チーム誰ともは「バリアフルレストラン」をはじめとした様々なムーブメントを通して、「当たり前ってなんだろう」という問いかけを届けていきます。

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“誰もが誰かのために、共に生きる社会”の実現を目指す日本ケアフィット共育機構です! 理想の社会に近づけるために“ケアをフィットする”ことを日々模索しています。