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リレー小説 No.6 『渡り廊下のあるカフェ・不安』

おはこんばんにちは。Team:Clutch のかめです。
リレー小説 No.6 の記事担当となりましたので、小説とそれに対する振り返りを書かせて頂きます。

タイトル: 全ては杞憂だった

執筆時期: 2020/08/12~2020/08/31

こういう時程、嫌な予感はあたるものだ。
しかし、今日は誕生日なこともあって、すれ違う同僚達からは祝いの言葉をもらったりもした。
だが、胸にくすぶる不安は消えず、私はそわそわと落ち着かない状態で接客をこなしていた。
店長から声をかけられたのはそんな時だった。
「君に用があるお客がきたよ。」
きっと、あいつだ、また私をスカウトにきた。
そいつは、渡り廊下の見晴らしのいい席から呑気に外を眺めていた。
「毎回迷惑です。ストーカですか?」
と言えば
「嫌だな。ファン第一号ですよ。」
と減らず口。
「そんなファンからのプレゼントがあります。ぜひアイドルを。」
とこいつは怯まない。
私の沈黙を前にしても落ち着き払って、彼は摘んでいたティーカップで紅茶を楽しんでいる。腹立たしい光景だった。
「店長もなんで貴方なんかにそのカップを触らせるのかしら」
「なぜ?」
「彼秘蔵の品よ、それ」
「知ってるよ。良家筋から流れてきた年代物のボーンチャイナだ。値段なんか聞いたら卒倒するかもしれないね」
「わかってるんじゃない」
「まぁ彼はそんなラベルに価値をおいてないわけだけど」
眉根を寄せる私に、彼は柳眉を下げて、
「本質を見出してしまうからね。彼に比肩する目を持つものを見たことがないよ」
僕を除いて。そう言いながら、手すりの上に居心地悪そうなティーカップを、爪弾きに音を奏でて楽しんでしまうような男だった。
「お帰りはあちらです」
私は彼からティーセットを取り上げる。そのまま粛々と彼から離れる心づもりでいた。
「知っていたかい? 彼がその茶器を触らせる相手はたかだか二人しか居ない」
私が振り返ると、彼はいたずらげな表情で自分を指差している。
視線を手元に落とす。空のカップと受け皿との間に折りたたまれた紙片が挟まれていた。
憎らしげに彼を睨むと相も変わらずつかみどころのない笑みを浮かべていた。
「さて、そろそろお暇するよ。またいずれどこかで。」
そう言い残して、手を振りながら彼は去っていった。
残された紙片を手に取り、見つめること数秒。
私は手にした紙片の中身を確認することなくゴミ箱へ入れた。
これでいいのだ。今までそうしてきたようにきっとこれからも彼から受け取った物の中身を確認することはない。
一抹の不安は残っていたが先ほどよりも気分は晴れやかだった。

振り返りなど

最終的に『アイドルのポテンシャルを持つ女性と、そんな彼女にアプローチするプロデューサー』の一幕が展開される形となりました。

今までのリレー小説は、ほぼほぼ会話というものが発生せず地の文での自分語りが主な表現手法となっていたので、自分が担当した節に関して今回は会話での表現というものに意識を向けて書いていました。

また、同時に、小道具を用いることで登場人物の性格や信頼関係、第三者(お店のマスター)の雰囲気などを含ませてみたりもしています。

結果として、主人公とプロデューサとのやり取りを補強するように別のドラマを予感させられていればよいのですが……。

反省としましては気分が乗ってしまって、文章量が爆発したこと。
そして、主人公にまつわる地の文や主人公が発する会話が年不相応になってしまったことがあります。

特に後者は、この小説が完結してかなり後に振り返って、初めて気づいた自身の癖でした。書き手の考えが脱色できていないということなので、以降ではこの部分を意識して表現していく練習をしていこうと思います。

全体を通して、目的意識を持ちつつ楽しんで書くことが出来たので満足でした。

以上になります。
ではでは、次のリレー小説をお楽しみに。

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