【TEALABO channel_17】基本を忠実に、少しずつ世界へ -有限会社けやき製茶 上野康久さん-
鹿児島のブランド茶である「知覧茶」の作り手を直接訪ねて、その秘めたる想いを若者に届けるプロジェクト「Tealabo Channel」。
日本茶は全国各地に産地があり、各産地で気候や品種、育て方が違います。そんな違いがあるから「知覧茶」が存在します。一年を通して温暖な気候がもたらす深い緑色と甘みが特徴である知覧茶の作り手の話を皆さんにおすそ分けします。
第17回目は、『有限会社けやき製茶』代表取締役の上野康久さんにお話をお伺いしました。
ビジネスの視点で茶業の世界へ
『有限会社けやき製茶』(以下:けやき製茶)は荒茶の販売を中心に平成10年に設立されました。
川辺出身の上野さんは高校卒業後、土木関連の専門学校へ通い、関西の建設会社へ就職されたそうです。
関西で4年、鹿児島で4年。
合計8年間サラリーマンとして働き、その間に結婚をし、子宝にも恵まれました。
そんな中、上野さんの中で湧き出てくる想いがあったといいます。
コンビニやガソリンスタンド等、様々な事業を検討しましたが、「これだ!」というものに巡り合わず…。
結果、ビジネスの可能性として辿り着いた答えが茶業への道でした。
「社会人になるまで茶業に対する興味がなく、将来的にこの道を歩むとは全く想像していませんでした。」
「本当、茶業に辿り着いたのは偶然なんです。ビジネス的な視点やご縁といったものが合わさって茶業家としてスタートしたんです。それが平成9年の4月でした。」
近くの茶工場で半年間の研修を経て、縁あって茶工場を買い受けることができ、平成10年にけやき製茶としてスタートしました。
家族のサポートがあったから
会社名でもある『けやき』とはどのような意味なのでしょうか?
「私と両親の名前の頭の部分をそれぞれとって名づけました。私なら、「やすひさ」なので「や」を、両親からは「け」と「き」を、という形で。」
「どこの茶業家も昔から従事されているところばかりでした。新規参入するからにはインパクトのある会社名がいいと思ったんです。」
会社名の背景について笑顔で話される上野さん。
しかし、会社の設立当初は、この笑顔からは想像できないくらいの苦労の連続だったといいます。
茶業家としてのスタートは平成9年4月から10月までの半年間、畑や工場で研修の日々でした。
「研修の時期は先が見えなかったからか、正直、今後の生活が不安になってしまいました。子どもがいたので「大丈夫かな?」って…。」
「そんな時、両親が親身になって相談にのってくれましたし、妻も何一つ言わず色々とサポートしてくれました。」
「家族のサポートがあったからこそ「会社員を辞めた以上は頑張ろう!」と強く思えるようになりました。」
少しずつですが、先輩たちからの教えと素人なりに考えを組み合わせながら効率の良い作業方法を編み出していったそうです。
お茶づくりの基本を常に
平成10から16年まで別の茶工場で事業をしており、平成17年より現在の茶工場へ拠点を移し、事業を行っています。
今回案内していただいた茶工場隣の茶畑では奥様のご両親が養鶏場をされていたので、建物を解体し、その後、天地返し(※1)を行って茶畑にされた経緯を教えてくださいました。
義理の両親が解体や土の入れ替えまで一緒に手伝ってくれました。お茶を育てたいと伝えると「どんどん植え植え!(鹿児島弁で「植えなさい」という意味)」と背中を押してくれました。
でも、最初は土がきちんと育っていなかったからか、お茶の生育が悪くて、安定した供給ができるようになるまで時間がかかりました。
次に製造ラインのある茶工場へ。
上野さんのこだわりは工場や機械等、作業をする場所を綺麗にしておくこと。
雨の日や作業に余裕がある時はメンテナンスや機械の掃除を徹底されているそうです。
「常に仕事をする場所が綺麗だとモチベーションが上がりますよね。従業員にも、その意識が当たり前になるよう常に言い聞かせています。」
「また、天候といった自然環境によってお茶の味も変わってくるので、茶工場でお茶のデータを毎日とっているんです。前年と比べてフィードバックして、それを今後のお茶づくりに活かしています。」
特別なことではなく、学びを忠実に守るだけ
「設立当初からチャレンジしていることがあって。素人ながら自分にどれだけ技術・技量があるのか試してみようと思い、品評会にずっと出品しているんです。」
最初は賞を獲ることも叶わなかった上野さん。
地元のお茶に関する研究会に入り、メンバーと一緒にお茶づくりの基礎から学び始めたといいます。
地道な努力が功を奏したのか、
平成14年には全国茶品評会普通煎茶の部で初めての入賞を果たし、平成16年には同じ品評会の蒸し製玉緑茶の部で農林水産大臣賞を、平成21~22年には鹿児島県品評会普通煎茶の部で農林水産大臣賞を獲得したのです。
さらに、平成25年には全国茶品評会普通煎茶の部で農林水産大臣賞を獲ることになります。
「出品茶に対して、特別なことをしているわけではありません。仲間や研究会から学んだことを忠実に守っただけなんです。」
「ビジネス視点で茶業の道へ入ったので深く意識したことはありませんでしたが、基本を忠実に守ることが私のお茶に対する想いなのもかもしれませんね。」
チームで一緒に育て、世界へ
「私が参入したことで、先輩たちが築き上げてきた知覧茶というブランド名に傷をつけたくありませんでした。だから、研究会で学んだり、品評会に出品したりしていたんです。」
「知覧茶がここまで知名度と評価が高いのは、地元の茶業家の皆さんが見えないところでたくさん努力してきたからだと思います。」
今までの動きを振り返る中で、自身の葛藤や気づきをそのように話す上野さん。
茶業以外にも製茶機械会社との交流で毎年静岡へ情報収集に出向いたり、コロナ前までは海外にも年に数回足を運び販路を広げたりと、知覧というローカルから少しずつ世界へ視野を広げています。
「一昨年有機栽培の研修を受け、一部の茶園で今年の一番茶の時期から有機茶にも取り組んでいくつもりです。」
これからは、有機茶が世界のスタンダードになると思いますので、少しずつ面積を広げていく予定です。
「「自分たちはこんな背景でこんなお茶を作っているんだ」と話すことで付加価値がまだまだ上がると思います」と、上野さんは言います。
その裏には、時代背景や世界情勢をみながら、少しずつ新しいチャレンジの準備を進めているからこそ。そのためには生産者と問屋で一緒に商品を育てていけるような連携が必要だと力強く、そして未来へと視野を見定めている表情がとても勇ましく見えました。
今後の上野さんの動きに注目していきたいと思います。
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