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文化人類学から学んだこと。

生涯忘れない言葉

大学院生だったころ,指導教官が受け持つ学部生向けの授業に参加したことがあった。

人類学は主に人類(多くは自分以外の誰か)を調査する学問だが,その大前提として,自分と違う文化を侵害したり変化させたりする目的はない。

その話をしていたとき,学部生の一人が「そのフィールド(研究対象)の文化が間違っていると感じたとき,人類学者は何もしないんですか?」と言った。


例えば成人儀礼として女性器を切除をする慣習のあるアフリカの国は,人類学でも研究対象とされている。切除した場所が化膿して命を落とすことも当然多い。

アフリカに限らず,よその人間には理解できない行為は,大なり小なりいつでも起こっている。
その理解できなさに寄り添い解釈する人類学だからこそ「よそ者が他の文化を侵害してはいけない」という前提があるのだ。


指導教官は上記のような例を出して学生の質問に答え,一言。

「人類学者としては二流でも,人として一流であることのほうが大事なんじゃないでしょうか。」


「人類学者として」のスタンスは保ちつつ,目の前で正しいと思えないことがなされているなら「人として」できることをすべきである,と理解した。

私はこの言葉を,生涯忘れない。


他者の非合理性を理解する

正直いうと学生時代の私は,茶道教室に通う中で納得できないことが多々起こり,半ば怒りに近い執念で日本中を回って研究していた。
「人類学者として」も,「人として」も,学問的な態度ではない。

しかし論文の結論に近くにつれ,自分が好きだと言えなかったほうの茶道も好きなほうのお茶も,どちらが正しいということではないと思えるようになっていく。

私はもう茶道教室には通わない。(それはいま時間とお金があれば写真教室に通いたいからで,まず優先順位の問題。)
ただし茶道教室がなくなったほうがいいだなんて,言わない。言っていない。

茶道教室に通っている人には通っている人の合理性があり,当人にとって「正しい」判断なのだと思えるようになったからだ。

↑他者の合理性についてはこの記事にまとめています。


「私が正しいからあなたが間違っている」なんてありえない

もしある人が誰かの文化を止められるなら,それは「ある人が正しく,誰かの文化が間違っている」ことを意味してしまう。(「文化」を「思想」などと言い換えてもいいかもしれない)


何か一つだけが正しく,自動的にそれ以外が全部間違いといえるほど,世界は単純ではない。
そこが分かっていないと,自分の正しさを主張することに躍起になってしまう。それは他の誰かが間違ってると糾弾し続けることと同義だ。

もし全ての人間にとって非合理で"間違っている"ことがあり得るなら,そんなものは既に(もしくは瞬時に)淘汰されているのではないだろうか。


だからこそ,「違う文化を侵害してはいけない」という前提をもつ人類学者は,自分にとって非合理または理解不能な文化が間違っている(劣勢である)と主張する”最後の人間”であらねばならないと思う。


なぜ「これもお茶だ」と言い続けるのか

個人的には「残るべきものは残る(=起こったことが正しい)」という考え方なので,現代まで残ってきた茶道教室や茶道界というシステムは,残るに足るものだったのだと思っている。

茶道教室を絶賛することも全否定することもない。ただ他文化なのだと思っていて,そこに「人として」交わらないのはまた別の話。


私は茶道教室にいい思い出はないが,今は茶道でもなんでもない「お茶」をして,食材としての「お茶」に手を広げつつ,教室の外側で楽しく生きている。
「これは茶道じゃない」と言われても,「いや見ての通り,何も茶道じゃないです」と返せる。私は違う基準で違うお茶をしている。


上記の話で言えば,人類学者は「これはお茶じゃない」と主張する最後の人間であらねばならないのだろう。
自分は紛いなりにも人類学を学んだ人間として,「これはお茶じゃない」と言う代わりに,「これもお茶だ」と言い続けてきた。


そのこと自体が社会的に価値があるかは分からない。

ただし何を否定することもなく「これもお茶だ」と言い続けることは,「人類学者として」あるべき態度だと思っているし,
同時にそれは「人として」するべきことだと,今は思えている。



***
その指導教官と共著で,茶道修練者に関する人類学の論文を書くこととなりました。
目下執筆中ですが,夏には最終稿を提出し,海外の学術誌に掲載予定です。日本語でもnoteなどで小出しにしていけたらと思います。


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