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フィフィのクリスマスのあさのおはなし(後編)

文・noly 
絵・清世

前編

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ぶるぶるっと体をふるわせ、羽についた雪をはらい、フィフィがおそるおそる雪の中をのぞくと、その袋のようなものにはおくりものという文字がうかびあがりました。おくりもの なんてことでしょう。今日はクリスマスの朝なのです。なのにまだ届いていないおくりものがあるんですって!それは大変。

お届け物は届ける相手がわからないと困りますよね。けれどその袋にはお届け先は書いてありませんでした。

これはだれのおくりものだろう?

フィフィがたずねると木の上の声はこたえます。

ひつようとしているもののおくりものだよ。
ひつようとしているもの?
そのふくろにはな、とくべつのしかけがあるんじゃ。おくりものはおくられるものにぴったりのものがでてくるんじゃよ。ひとやすみしておったらあさになってしまった。

声が言うには袋からまどろみがおくられたそうなのです。うけとって、ほんのすこしだけまどろむことにしたものの、おくりものはまだ届け終わっていないのです。

フィフィはちょっと不思議な感じがする特別のしかけが面白いなと思い、おくりもののお手伝いをすることにしました。

うんしょっと背中にのせ、てぺて、てぺて。右に左におっとっと。

バランスをとりながら歩いていると袋の中からぴょいんっと稲穂が顔をのぞかせました。

あ!いなほだ。そうだ、フィーはおなかすいてたんだ。あさからなんにもたべてない。いっただきまー

あさごはんを食べようとフィフィが口を大きくあけると目の前に鶏さんがいることに気がつきました。鶏さんもどうやらおなかがすいているようです。

ひつようとしているものにぴったりのおくりもの…

フィフィは袋を背中からおろしました。するとパラパラパラっと勢いよく鶏さんの大好きなお米が飛び出してきました。

フィフィもお米が大好きですから食べたかったのですがぐっと我慢して鶏さんにあげました。鶏さんたちはコーッコーッコーっと喜んで食べるとそのうちの一羽は小屋へ入って卵をひとつ産みました。卵を産まない雄鶏はパサパサっとその美しい羽を背中で合わせ一声鳴いてみせました。

あのお米、おいしそうだったなぁ。
でも鶏さんたち嬉しそうだった。あげられてよかった。

山羊さんのところへ行くと、こんどは葉っぱが出てきました。それも真冬だというのに青々としています。山羊さんの糞で肥えた土から育った葉っぱなんですって。

緑のはっぱも美味しそう。のどがごくりとなりました。

それでもフィフィは山羊さんに葉っぱをあげることにしました。

ぼくは卵をうめない、ぎゃあぎゃあとなくことはできても雄鶏さんのように鬨の声はあげられない。草を食べて草刈りするのも糞をして土を肥やすのも山羊さんにはかなわない。

ほかのみんながもらったおくりものはそれぞれ素敵。フィフィは自分と比べてちょっと寂しい気持ちになりました。でも寂しがってなんていられません。まだ袋はずっしりとおくりものがつまっているのです。

犬のところへも猫のところへもいきました。森の長老の大きな木のところへも地面に眠る小さな球根たちのところへもフィフィはおくりものを届けてまわります。

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たくさんあるいておなかもすいて、フィフィは寂しい気持ちをかかえたままお池に歩いていきました。

ほんとうはちょっぴりおうちにかえりたくなってきたのです。お池につくとキラキラとたくさんの光があふれました。おくりもののふくろはふうわりと光にとけてしまいました。

フィフィ―!フィー?

そのとき、フィフィを呼ぶ大きな声が聞こえてきました。

同時にとけた光のあたりからさっき木の上から聞こえたのと同じ声がいいました。

さあ、おむかえがきたようだ。きみのいばしょにおかえり。ありがとう、きみはたくさんのおくりものをしてきたね。おれいにひとつおしえておこう。このせかいにいる、それだけできみじしんもおくりものなんだよ。
ぼくじしんもおくりもの?

きょろきょろあたりをみまわしても雪をかぶった森にもキラキラの光の中にももう誰の気配もありませんでした。

ああ、フィフィよかった。ここにいたんだね。

フィフィの足跡をたどってきたのでしょう。フィフィを呼んだ声の主は急いで途中でころんだらしく、顔のまわりにもフィフィとお揃いのマフラーにも雪がついています。

固く握っていたらしい手の中からはほわんといい香りがただよいました。

ふくふく匂いをたどって嘴でつつくとフィフィの大好きなそれがありました。

今朝は鶏さんが冬には珍しく卵を産んでくれててね。山羊さんからもお乳をもらえたから焼いたみたの。フィフィめしあがれ。

あーんと大きく口を開けようとして、フィフィはちょっと考えました。それでふたりでいっしょにたべようとはんぶんこにしてもらいました。

わけたはんぶんを口にいれてもらうと、ほんのりとあたたかくってあまくって、さっきまでフィフィの心の中にいっぱいだったさみしい気持ちはあっという間にどこかにいっちゃいました。

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このせかいにいるだけでおくりもの。

フィフィはもういちどそっとつぶやいてみるのでした。

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絵・清世 
文・noly
フィフィのクリスマスのあさのおはなし


このおはなしは清世の展覧会2022にむけてうまれました。
フィフィが大好きなお菓子を焼いて展覧会場でお目にかかれるのを楽しみにお待ちしております。

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