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小説

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note内で発表した短編小説をまとめています。今後増えていく予定です。
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記事一覧

【実録ホラー短編】『心霊写真が笑う』

※これは私が体験した話ではなく、友人が体験した話を物語風に整えて発表するものです。 ※友人の職業はフリーのwebライター兼カメラマンで、この話はとある不動産系webサイトの依頼を受けて、取材旅行をした際の出来事が発端となっています。 ※この話は現在も続いている現象と思われるので、念のため、関係者の氏名・場所・依頼サイトの名称などは全て伏せ、友人の仮称はAとさせて頂きます。 Aが依頼を受けて取材に行った場所は、ある県の郊外にある、再開発されて綺麗に整美された新興住宅地でし

【実録ホラー短編】『公園カップル死体遺棄事件』

Aが住んでいるアパートは、駅から自転車で10分くらい行った所にある閑静な住宅街にありました。 ある日の深夜0時ごろ。                            Aはコンビ二に行こうと自転車に乗って、いつもの道を通りながら、駅前のコンビニに向かいました。 いつもの通り道には、マンションに隣接する小さな公園があります。その日は、その公園の前に1台の乗用車が停まっていました。その時間にその公園に車が停まっていることなんて初めてだったので、Aは少しその車のことが気にな

【実録ホラー短編】『いつ、誰が、どこから』

個人経営の小さなホルモン焼き屋をやろうと考えていたAさんが見つけたのは、郊外の都市の寂れた繁華街にあった、小さな居抜き物件でした。 その居抜き物件は2階が和室の住居になっていて住むことができ、1階の店舗部分も小綺麗なうえ、価格も手頃で設備も問題なく稼働したので、Aさんはすぐに購入を決断しました。 契約を結んだ翌日、Aさんは早速、店の改装作業に取り掛かりました。 開業の費用をなるべく安く抑えたかったAさんは、自分で出来る作業は自分でやろうと考えていたので、改装業者を雇う前に

【実録ホラー短編】『帰り道こそ、気をつけて』

人身事故が多発する路線――その沿線に、Aさんの住むマンションはありました。中でも、そのマンションの最寄り駅付近での飛び込み自殺の数は異常に多く、その日も、最寄り駅手前の踏切で飛び込みがあり、帰宅中のAさんが乗る電車は、最寄り駅の一駅手前で途中停車をすることになったのです。 とある製造業の試作品開発の仕事をしているAさんの帰宅はいつも遅く、その日も最終電車での帰宅でした。 Aさんを乗せて停車している電車は、いくら待っても動き始める気配はなく、一秒でも早く家に帰りたいと思

【怪奇小説】『サナトリウムに』-第一回-

 中部地方の内陸に位置する山間部に、竹泉市という人口三万人に満たない小さな地方都市がある。自然に囲まれ、澄んだ空気と、夏場でも涼しく過ごしやすいことから、この竹泉市を――正確には、市の北側にある雨里という地域を――全国から観光客を呼びよせる避暑地としてリゾート化する案が、市の町おこし計画として立案されたのは、お盆を控えた七月の半ば頃のことだった。  その町おこし計画は都内のリゾート開発会社に持ち込まれ、数日のミーティングを経たあと、実際に集客を見込めるリゾート地に成りうるか

【怪奇小説】『サナトリウムに』-第二回-

 ホテルの部屋で一息ついたあと、宇野は再び雨里の都市部へ繰り出した。目的は役場だった。パンフレットに記載されている人魚の版画を直に見たいと、宇野は思っていた。  役場に着くなり、宇野は名刺を差し出して、自分の身分と目的を告げた。 「へえー、リゾート会社の方ですか。それはどうも御苦労さまです。それでその版画ですがね、市役所の資料課の方で保管しておるようでして、この役場には無いのですよ」  役場の職員は宇野に対して警戒する様子もなく、鷹揚で朗らかな調子で対応した。役場には宇

【怪奇小説】『サナトリウムに』-第三回-

 深い森に囲まれた誰もいない湖。  近くには舗装された車道が延びているが、往来する車の数が極端に少ないため、排気音や雑音が全くと言っていいほど聞こえてこない。  ただ静かな自然の環境音だけが木霊している湖の畔を歩きながら、宇野はこの静かな環境を壊してしまってはいけないのでは? といった感傷的な気分に次第になっていった。  湖畔を歩く宇野の目の前には広大な森が広がっている。  あの森の木々を切り倒してリゾート施設を建設する。  ・・・・・・それよりもこの大自然を活かすべき

【怪奇小説】『サナトリウムに』-第四回-

「市役所の方?」  女が聞いた。  その声で、棒立ちで気の抜けた顔をしていた宇野は我に返った。女の方に向かって歩きながらおもむろに名刺入れを取り出し、中に入れておいた名刺の中から一番状態の良い物を選んで抜き出す。それを差し出しながら、 「いいえ。市役所からリゾート開発の依頼を受けて調査に来た、リゾート会社の者です」  宇野は咄嗟に、調査の一環としてやって来た態を装った。  女は名刺を受け取り、黙って文面を眺めている。 「青い鳥・・・・・・有名なトコですね。このサナト

【怪奇小説】『サナトリウムに』-第五回-

 前回仕事で訪れた時とは違い、今回はレンタカーを借りて宇野は雨里に来ていた。目的の地――町外れの山腹にある、雨里唯一の墓地がある磯寺に向かって車を走らせている途中に寄ったコンビニの駐車場で、宇野はスマートフォンで万里奈の名刺にあったアドレスにアクセスし、彼女のホームページを覗いてみることにした。  MARINAと大きく表示されたトップ画面に、経歴やライブラリーなどの目次が並んでいる。ライブラリーをクリックすると、彼女が撮影した数々の写真が表示された。中には自分自身を被写体と

【怪奇小説】『サナトリウムに』-最終回-

 町外れの山道や食堂などを転々と車で移動しながら、宇野は夜が訪れるのを待ち続けていた。ようやく陽が暮れだし、辺りが暗くなり始めると、宇野は人気の少ない場所にあるコインパーキングに車を停め、座席をリクライニングさせ、持参していた帽子を顔に被せ、顔を隠しながら寝たフリをして時間を潰した。これからやることを考えたら、なるべく雨里の住人に顔を見られたくはなかった。  田舎町の夜は静まり返るのが早い。午後十一時を過ぎる頃には、雨里の町中を往来する人はほぼ皆無となっていた。宇野は周囲に