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WEBデザイナーは本当に誰でも簡単になれるのか? WEBデザイン職経験者の見解

元WEBデザイナーが、noteで目にして気になった事をつらつらと書いていきます。今回は「WEBデザイナーは誰でも簡単になれるのか」について語ります。職業訓練やスクールで学んでいる人、就活中の人に読んでいただければ幸いです。


「なる」のは簡単、生き残るのは難しい

結論から言うと、「なる」のは簡単だと思います。できる、できないに関係なく「WEBデザイナー」という肩書で開業すれば誰でも「なる」ことはできます。

ですが、「なる」ことと職業として成立するかは別問題です。

仕事を受注すべく営業するしろ、企業のデザイン職に就職をめざすにしろ、実績と経験は必ず問われますし、それらを実際に証明する手段として、これまでの成果物をまとめたポートフォリオの提出を必ず求められます。

実際に仕事を完遂できるだけの実務能力があることを示すことができなければ、「WEBデザイナー」を名乗っていたとしても仕事に結びつくことはありません。

まっとうなお客様が取引相手を選ぶ際に重要視しているのは「信用」です。「実績なし、実務経験なし」は「信用ゼロ」と同義です。

即戦力と認められないデザイナーは飽和状態

「〇ヶ月で未経験からWEBデザイナー」「誰でもなれる」等々の謳い文句に誘われてWEBデザイナーを目指す人が増えているようです。結果、〇ヶ月周期で実務未経験デザイナー志望者が何十~何百人と輩出されるという事態が起こります。

ですが、仕事を求めるすべての人に与えられるほど案件数はありませんし、実務未経験者に振れるほど簡単な仕事もそれほどありません。デザイナー志望者は需要に対して供給過多になっているわけです。

IT業界は人手不足とよく言われますが、実際不足しているのはエンジニアです。デザイン職はそれほど不足していません。

企業が求めているデザイナーは基本的に「実務経験者で即戦力」です。自律稼働が求められる、場合によっては周囲をリードする必要がある現場が多いので、誰かの教えを乞わなければならない、誰かのサポートが必要な実務未経験者が企業に中途採用枠で採用される機会はそう多くはないでしょう。

専門学校、芸大・美大に行く必要はない?

実際にグラフィックデザイン、WEBデザインの現場の第一線に専門学校、芸術・美術大学の出身でない、一般的な学校、大学卒の方は多くいらっしゃいます。一方で、美術、デザインの専門学校、芸大・美大卒なのに、その肩書に見合った仕事ができない方々も多くいらっしゃいます。

なので、「デザインの専門教育を受けていないとなれない」ということはありません。

筆者が知る限りでは、専門教育外の出身でデザイナーになれた人達はその多くが「子供の頃から絵が得意」「子供の頃からものを作るのが好き」「子供の頃からアイデアをだすのが得意」等、元々デザイナーとしての資質・適正をもっていたけれど、美術の専門教育を受けることを選択しなかった(あるいは諸事情によりできなかった)人達という印象を受けました。

専門学校、芸大・美大等に進学することを考えている人達、卒業した人達は「好き」「得意」等、美術、デザインに対する興味があって、子供の頃からそれに関連する経験や訓練を積んできている人がほとんどかと思います。専門学校、芸大・美大等でデザインを学ぶことがデザイナーになる必須条件ではなくなってきている、デザイナーになるうえでの優位性が薄れてきているとはいえ、そのような積み重ねの厚み、経験が無駄になることはありません。

大手企業のデザイン職等、美術、デザインの専門教育を受けている事を採用の前提としている企業はまだまだ多くありますので、デザイン職への就職を考える場合は専門教育の学歴があった方が、より条件の良い職場に就職できる可能性が高くなります。

ちなみにアートの場合、特に海外のfine art、contemporary artの領域では極少数の例外はあるものの、正当な美術教育を受けていることがartistになる必須条件となっています。デザイン業界とは事情が全く異なるのでご注意ください。

「才能、センス」以上に「適応力、対応力、柔軟さ」が重要

デザイン職未経験者のよくある勘違いに、美術的表現と商業デザインの混同があります。商業デザインに求められているのは課題の合理的解決、物事の設計、プランニング能力であり、デザイナー自身の自己表現、美的価値の誇示ではありません。

才能やセンスもあるに越したことはないですが、度を越えて主張するのはクライアントにとって迷惑になることもあり得ます。

大抵のデザインの仕事はお客様がいて、デザイナーはお客様の仕事を請け負う形になるかと思います。その場合、デザイナーの立ち位置は「芸術家」ではなく「サービスマン」です。求められるものは「自己表現」「自己主張」ではなく「お客様のニーズに沿ったサービスの提供」であり、状況に適した行動ができる、適応力、対応力、柔軟さです。

また、業務の大部分はセンスよりも客観性、論理性が重んじられます。デザイン的思考・方法論は、訓練を積み重ねれば才能、センス関係なく誰でも習得できます。

「才能」「センス」が必要と思われるのはアウトプットの段階、視覚的表現を必要とする場面でしょう。これに関しても要点を抑えて数をこなせばそこそこの品質のものは作れるようになるはずです。

伸びない自分に不安を感じるなら、一度立ち止まって考えよう

もし自身の伸びしろに不安がある、数をこなしても上達しない、そもそも数をこなすのが困難、等々の行き詰まりを感じるのであれば、自身の適性や置かれている状況を無視してWEBデザイン職に執着していないか、動機そのものに問題がないか、もう一度自己分析をしてみましょう。

デザイナー、デザインの仕事を長く続けていくための原動力になるのは「簡単になれそう」「簡単に稼げそう」「リモートワークで楽ができそう」等々の損得、打算的思考ではなく、「好き」「得意」「向いている」「作るのが楽しい」等々のポジティブな感情です。

まとめ

  • WEBデザイナーに「なる」だけなら簡単。参入障壁は低いが、実績、信用の無い人が仕事を得るのは極めて困難。

  • 実務経験ゼロ、即戦力と認められないデザイナーは供給過多で飽和状態。IT業界で不足しているのは実務経験者で即戦力のデザイナー、もしくはエンジニア。

  • 美術、デザインの専門教育を受けていなくてもデザイナーになることはできるが、仕事をする際の条件として、専門教育を受けていることが前提になる場合もある。

  • 基本的に客商売、サービス業なので、美術の才能、センス以上にお客様のニーズに応えられる適応力、対応力、柔軟さが重要。

  • デザイン的思考、方法論は才能、センスに関係なく訓練すれば誰でもできるようになる。

  • デザインの仕事が本当に自分に向いているのか、本当に自身に適性があるのかを無視して、損得、打算的思考でデザイン職に執着していないか自己分析してみよう。


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