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60歳が近づいてきたので会社の定年制度を廃止した。自分で。

はじめに - 秘密のミッション

freeeのような若い会社にも定年制度があると知ったら、驚かれるかも知れません。しかし、上場を期に整備された就業規則には、以下のような条文が存在していました。

第21条(定年)
 従業員の定年は満60歳とし、定年に達した日の属する賃金締切日をもって退職とする。
 定年に達した従業員のうち、本人が引き続き勤務を希望する者については、定年に達した日の属する賃金締切日の翌日から1年間、嘱託として再雇用することとし、その後最⻑で満65歳に達する日の属する賃金締切日まで同様とする。

freee株式会社 就業規則より

日本の伝統的な企業にはたいていある、典型的な定年に関する条文です。今日は、この条文を抹殺すべく(?)freeeに入社し、みごと公約を果たしたというお話をします。

というわけでこんにちは。freeeのPSIRT (Product Security Incident Response Team)でマネージャーをやっています、tdtds (ただただし)です。あえ共freeeには初登場となります。普段はプロダクトのセキュリティを守る仕事をしていますが、前述のとおり今日はセキュリティいっさい関係ないです。

私の前職は「ザ・日本の伝統的企業」で、60歳の定年はもちろん、55歳になると役職離任というマネージメント職から解任される制度もありました。20年以上にわたって積み上げてきたマネージャーという職業を、能力が下がったわけでもないのにその年齢に達したというだけの理由で奪われ、失望のあまり転職を決意。

とうぜん転職先には定年制度のなさそうな若い会社を選ぶわけですが、freeeもそのクチだろうと思っていた矢先、面接中に当時CDOだった平栗から衝撃的な事実を伝えられます。

「freeeにも定年、ありますよ?」

そんなばかな! だってfreeeの採用ページには「※ 弊社は多様性を尊重し、差別を行いません。人種、宗教、国籍、出身地、性別、性自認および性的指向、障がい、年齢、妊娠、家族構成などにかかわらず、弊社のミッションやカルチャーに共感して頂ける方すべてを歓迎します。」って書いてありますよ!? 定年制度なんて、年齢差別の最たるものじゃないですか(※ちなみに、年金受給開始年齢の下限があることを理由に定年制度は年齢差別ではないという解釈がされることはあります。個人的にはまったく同意しませんが)。

こうなるともう、売り言葉に買い言葉です。「じゃあおれが定年制度をぶち壊してやるから入社させろ」と迫ったところ、無事内定をもらい(※ストーリーにやや誇張があります)、かくして「定年制度ヲ抹殺セヨ」が入社時ミッションとして設定されました。セキュリティ屋として入社したのに、マジでセキュリティ関係ない。

定年制度の整理

ゆうても60歳まで時間はあるし、のんびりミッションにとりかかることにします。まずはターゲットの定年制度についてちゃんと知る必要がありますね。

定説では、明治時代に導入された55歳定年が日本の定年制度の発端と言われています。当時の男性の平均寿命は50歳を切っていたので、これは事実上の「終身雇用」です。その後、日本人の寿命はどんどん延びますが、定年は60歳で頭打ち。寿命と定年の差は広がる一方で、その間の生活はもっぱら年金でカバーされるというのが基本的な考え方です。

なお、年金支給開始年齢が65歳になると雇用も65歳まで保証するように義務付けられるなど、歩調を合わせているようにみえますが、60歳以降に提示される「再雇用」は正規雇用とは比べ物にならない低待遇なのが普通です。つまり、60歳を境にあらゆる条件が不利な方向に変化するのが日本の現状です。そもそも年金制度そのものに暗雲が立ち込めていますしね。自分がうっかり長生きしてしまう可能性を考えると、働けるかぎりは働きたいと考えるのは自然なことでしょう。

周囲を見まわしてもらえばわかるように、70代・80代でも現役バリバリの人もいれば、60歳を待たずに世を去る方もいらっしゃいます。年齢と能力には非常に大きな個人差があり、一律60歳で何かを決めるのは乱暴すぎます。一方、年功序列を基本とした評価制度を設けてきた企業にとって、定年を延長したり廃止することで発生する人件費の増大を受け入れがたいのも事実なので、どこかで線引きせざるを得ないのも理解できます。

つまり、既存の定年制度には以下のような課題があるわけです。

  • 定年後の生活には、いきなり不安定になる要素が多すぎる

  • 年齢と能力の個人差を考慮した制度になっていない

  • 年功序列に基づいた給与体系とセットになっている

freeeにはこれまで、定年制度を適用された従業員は存在しませんでしたが、(私をふくめ)数年以内に定年を迎える従業員は何人かいます。やるなら今しかないでしょう。

押し付けられる「定年」から自分で決める「引退」へ

幸いfreeeの人事評価制度は能力主義で、年功序列とは無縁です。年齢や勤続年数が長いという理由で給与が高くなる心配はないので、ビジネスに貢献できる十分な能力があるかどうかを基準にした仕組みに置き換えるのは悪くないように思えます。

とはいえ会社から「あなたはパフォーマンスが落ちたのでもう会社に来なくていいです」と言われるだけなのも、なんだか癪に障ります。もちろん、引導を渡されるのを待たずに自分から辞めればいいだけなんですが、せっかくfreeeで会社員生活を終えようとしているのだから、もうちょっと華々しい感じがあってもいいんじゃないの……と考えていたとき、サッカーJ1の川崎フロンターレで活躍した中村憲剛選手の引退を思い出しました。

「これだ!」と思いましたね。なにせ私は長年フロンターレのサポーターをしているので。

中村選手は35歳のときに「40歳で現役を引退すること」を決断し、それまでにチームを優勝させることを目標にしました。そしてご存知のとおり、目標を達成してからスタジアムいっぱいのファンに見送られて引退しました。

同様にわれわれ従業員も、freeeのミッションに貢献する何かを成し遂げたら引退すると宣言し、達成したら華々しく送り出してもらってもいいんじゃない? スタジアムいっぱいのファンとはいかないまでも。なにより、自分で引退時期を決められれば、その後の生活について準備を整える時間がしっかりとれます。

かくして、定年制度に代わる「引退制度」を設計し、関係各所に相談をもちかけてみました。freeeにおいて、こういうボトムアップのムーブメントは基本的に歓迎されるので、誰もが真剣に向き合ってくれるのはありがたいですね。あくまで「雇用」という制度をめぐる話なので、法律的に詰めなければならないポイントも数多くあり、法務・労務部門からたくさんの指摘を受けました。

情緒的で法律上はあまり意味のない「引退宣言」についても、その意図を汲んでできるだけ活かすように制度を組み上げてもらいました。数か月の議論の末、最終的にほぼ当初の案のまま制度化され、取締役会を経て就業規則も変更されました。

  • 従業員は満60歳を期に、満65歳までの勤務延長制度か、引退制度を選択できる(※勤務延長制度はよくある再雇用ではなく、正規従業員のままの雇用延長なところがポイントです)

  • 引退制度の適用を受ける場合、引退条件を宣言し、条件を満たすまで勤務し続けることができる

  • 引退条件は毎年更新(変更)できる

  • 一定の評価基準を下回った場合は、引退条件を満たしていなくても退職しなければならない

引退条件って意味なくない? と思った若いあなた。正解です。でもね、年を取ったらちょっとくらい虚勢を張って、ええカッコしながら働いた方が、モチベーション高くいられるんですよ。これは、自分で自分を奮い立たせるための仕掛けなのです。

それにしても、いち従業員の思いつきでも、上場企業の取締役会を動かすことができるんですね! なかなか面白い経験でしたし、せっかく自分が作った制度なのだから、できるだけ長く活用してみたいと思います。60歳になるのが楽しみになりました(笑)。


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