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命を吹き込む

2023/12/06

 ノートの隅に書いた落書きを消すと、大量の消しカスが生まれた。僕は、気まぐれに任せてそれをこね始める。退屈な授業をBGMにして、何年かぶりの練り消し作りが始まった。
 消しカスを一か所に集めて、人差し指で円を描くように転がす。少しの間そうしていると、小さな黒い球体ができあがった。凹凸がなく、意外にも綺麗に仕上がっている。手のひらに落としてみると、まるで生きているかのようにころころと転がった。
 今度は練り消しを一方向に転がしてみる。するとそれは細く長く変形し、綺麗な線になった。指先でつまみ上げてみる。特別な形をしている訳ではない。しかしそれは確かに美しさを持っていて、もはや芸術の一つに数えたくなるほどであった。これは、僕の作品だ。
 その線を手のひらに転がす。それはうねうねと動き、さっきの球体の時よりも生き生きとして見えた。やっぱり芸術っていうのはなしだ。これは芸術というより、生命だ。これは確かに生きている。
 両端をつまんで、掲げてみる。眺めれば眺めるほど惹かれていく。どうなるのか気になって、少しだけ引っ張ってみる。
「ギャア」
 それは、短く汚い悲鳴と一緒に容易く千切れた。ぷらぷらと揺れる。断面から赤い液体が滲んできて、ぽつぽつとノートに水玉模様を描いた。
 僕はその残骸を机の向こう側に放り投げて、静かにノートを閉じた。千切った感触が残る指先から目を離せないでいると、授業が終わった。

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