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酢豚・イン・ザ・ウインド

iPhoneのデリカシーの一切感じられないアラームがけたたましく鳴る。

朝起きたら9時半だった。最近7時に起きてる俺にとっては遅起きだ。昨日、映画を観て池袋から新宿まで電車で行ってそこから残ってるシェアサイクルのとこまで歩いて行って乗って帰って寝たのが2時だった。なかやまきんに君がYouTubeで「どんなに夜が遅くなっても朝は必ず早く起きる。眠い時は昼寝する」と言っていたが俺には無理だった。なかやまきんに君のYouTubeは話が長い割に急に公園のカラスと喧嘩をしたりするので最近あんまり見てない。
仕方がないのでパン屋に行った。いつものシュガーリングドーナツを買う。この間重さを測ったら煩悩の数と同じ108gだったので半分食べて54個の煩悩を吸収する。ところで煩悩は過去、現在、未来で3つに分けられるらしいので俺は過去を捨てたしノーフューチャーだから煩悩が36個しかないはずだ。

嘘をつけ、お前が本当に目を逸らしているのは現在(いま)だろ。

こんな暗いことを考えるのは考えているからだ。考えて良いことなんて一つもない。これまでなかった。考えるな、感じろ、サウナに行け。ドントシンク、サウナ。俺は自転車の変速を一番重くして大久保へ駆け抜けていった。
欲望が渦巻く大久保シティには合法ケバブの店の前でたむろするウーバー配達ミュータントや朝から泥酔している改造おじさん、韓国料理を食べているサイバーギャルがいる。俺はその間をすり抜けてサウナに向かっていく。サウナに行くからドーナツを半分だけにしたのだ。サウナに行くには空腹でなくてはいけない。空腹では自転車を漕いでサウナに行くことはできない。そのちょうどの瀬戸際にあるカロリーを俺はもう知っている。正解はグレーゾーンにある。

サウナは空いていた。俺は汗をかき、冷やし、椅子に座る。さっきまでサウナのテレビで「肉を買い溜めすれば安く済む」という誰でも知ってる情報を説明する情報バラエティを見ていたら、SMAPの中居氏が庶民派寄りのコメントをしようとして「肉を1キロなんて、普通買います〜?」と言っていてなんか気になったことも忘れる。目を閉じ、一つずつ順番に五感を働かせる。電車の音、シャワーの音、風の音がする。手のひらに硬いプラスチックと足に濡れたタオルの重さを感じる。微妙な匂いがする。使い捨て歯ブラシに最初から混入されている歯磨き粉の味が少しする。目を開けるとさっきまで無視されていた情報が意識されて見えてくる。床のタイルの青と白の模様、壁のブドウの絵、窓際の変な植物、意外と綺麗な浴槽の大理石、汚いおっさんの身体。

全ての回路が繋がったような感覚。
エヴァンゲリオンの発進みたいだ。
俺は無敵だ。俺は健康だ。俺は幸福だ。何も問題は無い。
俺は今日何をしても良いし、何をしなくても良い。僕はここにいて良いんだ。
なぜここにいる?
僕はT-DRAGONパイロット、T-DRAGONです。

ワーストチルドレンです。

サウナを出る。
何が食いたいか?俺が問いかける。
酢豚しかねえ。風が答える。

すると目の前に中華料理屋が現れる。
俺は当たり前のようにそこへ吸い込まれる。

これは何ですか?これは酢豚とおかわり自由を約束された白米です。

これは何ですか?これはラム串のクミンがけの写真を「ドラマチック暖かい」加工したものです。
ラム串は世界三大「この世で死ぬまでに食べておかないと後悔するもの」の一つである。無限にビールを飲むために神が創った。そのため一本でとどめるようにしている。

決して100点満点ではない。
しかし「人生最高」と呟いて差し支えない。
先生にとっては、このお店は食べログ3億点でしたよ。全てのラーメン評論家と海原雄山が忘れてしまった、真のエクスペリエンス(黄金体験)としての食事。
それをこの街は知っている。

だが油断してはならない。油断すると思考が戻ってくる。それだけは避けねばならない。

次はスタバで勉強するか読書をしてからApple Storeにイヤホンを持って行って修理出すぞーー上司以外の人間と話すの久しぶりだから楽しみだなーーーそんで帰ってすぐジム行ってランニングしながらLokiの最終話を観るぞーーー正気に戻る前に次の予定を詰め込み続けるぞーーー眠くなったらスタバの2杯目券を使えーーーそのカフェインも切れたら寝るぞーーー何も考えるなーーードントシンクフィール、オアダイ。

いや、普通に早く寝ないとダメだ。サウナ行ったのになんか背中とか凝ってるし。たぶん寝不足なのでジムは行かないで外走って今日は10時に寝よう。
そうしよう。ちっと考えます。

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