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なぜSNSばかり見ていると危険なのか?~エコーチェンバーとフィルターバブルが引き起こす意見の極端化~

近年、SNSの普及や情報技術の発達により、私たちは自分と似たような意見の人々と簡単に接することができるようになりました。しかし、この便利さは時に問題を引き起こすことがあります。それが「エコーチェンバー」と「フィルターバブル」呼ばれる現象です。これらの現象が形成される背景や問題点、具体例を理解することで、私たちが多様な情報を取り入れ、メディアリテラシーを向上させる重要性がわかります。

エコーチェンバーとフィルターバブルとは

  • エコーチェンバーとは、SNSなどで自分と類似した考え方や関心を持つユーザーが集まり、そこでコミュニケーションを行うことで、自分の意見に似た意見しか見聞きできない状況を指します。このエコーチェンバーの中では、特定の意見や思想が増幅され、その意見が正しいと過剰に信じ込んでしまう傾向があります。

  • 一方、フィルターバブルとは、プラットフォーマー企業がユーザーの行動履歴などのデータを分析し、個人の関心に合わせてコンテンツを優先的に表示するシステム(レコメンデーション)により、ユーザーが自分の興味のある情報しか見られなくなる状況を指します。

エコーチェンバーとフィルターバブルが形成される背景

エコーチェンバーとフィルターバブルが形成される背景には、いくつかの要因が考えられます。

  • プラットフォームのアルゴリズム: SNSや検索エンジンなどのプラットフォームは、利用者の関心や嗜好に合わせて最適化された情報を配信することで、より多くの利用時間とアクセスを獲得するアルゴリズムを使用しています。その結果、ユーザーの興味に合わせた情報だけが表示され、異なる意見や情報が排除される傾向にあります。

  • ソーシャルメディアの利用: ソーシャルメディアは、ユーザーが共感できる情報や意見を共有しやすい環境を提供します。そのため、同じような考えを持つ人々が集まりやすく、エコーチェンバーが形成されます。

  • 確証バイアス: 一方で利用者側も、自分の興味や価値観に沿った情報を求める「確証バイアス」と呼ばれる心理的傾向があります。この確証バイアスにより、異なる意見や情報に触れる機会が減ります。

エコーチェンバーとフィルターバブルの問題点

エコーチェンバーとフィルターバブルが引き起こす問題点には以下のようなものがあります。

  • 多様性の欠如: 異なる視点や意見に触れる機会が減るため、情報の多様性が失われます。

  • 意見の極端化: 特定の意見や考えが強化され、極端な意見が生まれやすくなります。

  • 社会の分断: エコーチェンバーやフィルターバブルにより、人々が異なる意見や考えに対して寛容さを失う可能性があります。これにより、社会の分断が進む恐れがあります。

エコーチェンバーとフィルターバブルが引き起こした社会問題の例

エコーチェンバーとフィルターバブルが引き起こした社会問題としてアメリカ大統領選挙を例に紹介します。

2016年のアメリカ大統領選挙の際、ケーブルTVニュース番組の視聴者がエコーチェンバーに陥りやすいことが指摘されました。民主党寄りのMSNBCの視聴者と共和党寄りのFOXニュースの視聴者は、それぞれ異なる情報に触れるため、現実認識にギャップが生じる可能性があるのです。このエコーチェンバー現象が、2016年の選挙で有権者の二極化を加速させ、トランプ氏の逆転勝利をもたらしたのではないかと考えられています。

2020年のアメリカ大統領選の結果に不正があったと主張する陰謀論が、共和党支持者のオンラインコミュニティで広く流布されていました。Facebookなどのプラットフォームで同じ意見を持つ人々が情報を共有することで、そのような見解が増幅され、強化されてしまったのです。一方で、選挙不正の証拠は見つからず、訴訟も次々と退けられていきました。しかし、フィルターバブルに囚われた共和党支持者の間では、不正があったという認識が依然として強く残っていました。

エコーチェンバーとフィルターバブルに対する認知度

日本におけるエコーチェンバーやフィルターバブルに対する認知度はどうなっているでしょうか。総務省が、SNS等のプラットフォームサービスの利用行動や特性の理解度等の実態を把握するために実施したアンケート調査の結果について紹介します。
(出典)総務省(2023)「ICT基盤の高度化とデジタルデータ及び情報の流通に関する調査研究」

検索結果やSNS等で表示される情報がパーソナライズされていることへの認識の有無
  • 検索結果やSNS等で表示される情報が利用者自身に最適化(パーソナライズ)されていることを認識しているかを聞いたところ、日本では「知っている」(「よく知っている」と「どちらかと言えば知っている」の合計)と回答した割合(44.7%)が他の対象国(80%~90%)と比べて低かった

SNS等で自分の考え方に近い意見や情報が表示されやすいことに対する認識の有無
  • SNS等で自分の考え方に近い意見や情報が表示されやすいことについて、「知っている」(「よく知っている」と「どちらかと言えば知っている」の合計)と回答した割合は、日本では38.1%であったのに対し、日本以外の3カ国(米国、ドイツ、中国)では7~8割であった。

  • 日本について年代別にみると、50代及び60代以上の層は他の世代よりも「知っている」と回答する割合が低かった。

上記のアンケート結果から、日本の多くの回答者は、検索やSNSで自分に合わせた情報が表示されるプラットフォームの性質について認識していないことがわかります。また、日本ではSNS等でエコーチェンバー現象が起きやすい仕組み(同じ考え方の情報が表示されやすいこと)について、他国に比べて認知度が低いことがうかがえます。つまり、日本人は他国に比べて、自分達がエコーチェンバーが形成されやすい環境で情報収集していることを認識できていないということになります。

まとめ

総務省のアンケート調査からもわかるように、エコーチェンバーやフィルターバブルの影響を緩和するにはまずプラットフォームサービスの仕組みを理解し、エコーチェンバーやフィルターバブルの存在に気づくことが重要です。さらに、積極的に自分とは異なる意見や情報源に触れ、多様な視点で考えるよう意識する必要があります。エコーチェンバーやフィルターバブルは現代社会が直面する大きな課題の一つであり、それらに対処するためには私たち一人ひとりの努力が必要です。このような情報技術がもたらす問題に対するリテラシーを向上させるためのコンテンツを弊社は提供してまいります。

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