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「やりたいこと、やるべきこと、やれること」――『STAR DRIVER 輝きのタクト』とWill/Can/Mustフレームワーク

 「やりたいこととやるべきことが一致する時、世界の声が聞こえる」

 これは『STAR DRIVER 輝きのタクト』(以下、スタドラ)というアニメで出てきたセリフです。簡単に説明しておくと、スタドラは男女男の三角関係を軸にした青春群像劇&ロボットアニメであり、このセリフは作品のメインメッセージの一つです。「銀河美少年」や「綺羅星」など記憶に残る特徴的なワードが飛び交うのも、このアニメの面白いところです。

 最近、このセリフを思い出したとき、あるフレームワークが想起されました。それは、キャリアプランニングや自己分析の研修等で使われる【やりたいこと(Will)、やるべきこと(Must)、できること(Can)】のフレームワークです。

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 余談ですが、このフレームワーク、誰が言い出したのか少し調べてみたのですが、日本人の大好きな経営学者であるピーター・ドラッカー説と、アメリカ陸軍で洗脳研究を手掛けた後にキャリア研究に移行したエドガー・シャイン説の二つがあるようです(図表含めて田澤2018)。

 さて、このフレームワーク、日本の経営者やキャリアコンサルタントが結構好きなようで、例えば日本最大の企業・トヨタ自動車の顧問兼技監の方が書いた『トヨタの自工程完結』(佐々木2015)という本でも取り上げられています。

 この本の著者は、このフレームワークについて、以下のように解釈して説明しています(図表は佐々木2015)。

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・「やるべきこと(Must)」と「やりたいこと(Will)」が近い人は、使命感の強い人

・「やるべきこと(Must)」と「やれること(Can、できること)」が近い人は、能力の高い人

・「やりたいこと(Will)」と「やれること(Can、できること)」が近い人は、わがままで身勝手な人

 そして、やや乱暴ですが、以下のように言い切ります。

「やれること」と「やりたいこと」をくっつけてしまわないように、 気をつけなければいけないのです。(中略)近年、会社は忙しくなったと言われています。私はこれは、「やりたいこと」と「やれること」がくっついた社員が増えたからではないか、と感じています。だから、忙しいのです。「やるべきこと」をほったらかしているから、忙しくなるのです。

 スタドラに話を戻します。

 このフレームワークを思い出すと、スタドラの「やりたいこととやるべきことが一致する時、世界の声が聞こえる」というセリフは、WillとMustが一致して、使命感に満ち溢れている状態を示しているのだと、理解できます。

 このフレームワークに則って、もう少しスタドラを整理してみます。スタドラには、大きく分けて3つの類型の男性主要キャラクターが登場します。主人公の「タクト」、主人公の(三角関係の)ライバルであり友人でもある「スガタ」、そしてラスボスで悪役の「ヘッド」です。

 物語の詳細には立ち入りませんが、ヘッドというキャラを振り返ると、WillとCanを結び付けた行動を徹底する、わがままで身勝手な奴でした。Mustから逃げ出した、精神が子供のままの打ち倒すべき敵。個人的には、Will, Can, Mustの3つが重なる瞬間はないと諦めているダメな大人の象徴でした。

 ライバルのスガタは真面目君なので、物語の後半、やるべきこととやれること、つまりMustとCanに捕らわれて、やりたいこと=Willを(その思いに反して)諦める行動に出ます。というよりは、MustとWillの二律背反を打開する答えを自分で導き出せないまま、閉じこもろうとします。

 そこに現れるのが主人公のタクト。タクトは一見、ヘッドと同じ、WillとCanの重なるところに生きてきた「王子様」です。が、物語の最終局面、WillとMustが結びついた自分の取るべき行動を見つけます。やりたいこととやるべきことが一致して「世界の声が聞こえる」瞬間が訪れたのです。

 最終話、スガタに向き合ったタクトの結末がどうなるかは、ぜひアニメを見てください。青春です。ロボットの戦闘シーンの作画も凄まじいです。

 ちなみに、タクトが頻繁に使うセリフに「僕にはまだ見えている」という言葉があります。どういう意味かは結局、作中では明確に語られませんが、私は“Will, Can, Must”の3つが重なる可能性を捨てていない、という意思としてとれるんじゃないかな…と思います。つまり若さです。若さの輝きが、この作品のテーマでもあるのです。

 改めて考えれば、ロボットアニメって、やりたいこと(Will)がある若者に、それを実行できる力(Can)=ロボットが与えられることで物語が駆動し、徐々にやるべきこと(Must)を見つけていくという構図だなと思います。やるべきこと(Must)の発見と、“Will, Can, Must”の3つが重なることの困難さ、そして、重なった瞬間の輝き。

 スタドラの制作陣がこのフレームワークを知っていたかどうかは正直分かりませんが、見事に物語に落とし込めていたと思います。


※ここから、ようやく本題というか、実は、このフレームワークで企業の「サステナブル経営」について語りたかったのですが、気づいたらスタドラの記述が膨らみ、スタドラの記事になっていました。なぜだ。サステナブル経営については、関心から外れる読者も多いと思うので、別記事にします。

<参考文献>

田澤実(2018)「 キャリアプランニングの視点"Will, Can, Must"は何を根拠にしたものか」『生涯学習とキャリアデザイン』 15(2), p33-38.

佐々木眞一 (2015)『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結―――リーダーになる人の仕事の進め方』ダイヤモンド社


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