THE 1975 At Their Very Best Japan 2023 @ぴあアリーナMM (2023/4/27)

THE 1975

THE 1975との出会いってどんな感じだったっけか。
パンクロックとそこから派生した音楽を主に好む私にとって最初の印象はただのオシャレなダンスロックバンドといったような具合で、そんな雑でしょうもない個人的解釈を覚えただけで終わっていた気がする。
ただやはり名前が頭に残る。THE 1975。
THEに年号という堂々たる並びは強烈さで印象を残すタイプのインパクトだけではなく、スッと記憶に残る引っかかりの良さも感じる。
記憶力が悪い私にとって、この"残る"というのは音楽やアートワークや言葉の良し悪しを判断する一つの大きな基準となっている。
これは直感に刺さるか否かだけが大事という意味ではなく、数回触れた上で"残る"ものも素晴らしいということ。要するに自分にとって大したことのないものは覚えようとしないと覚えられない。で、努力のできない私は覚えない。そして残らない。それが良い事なのかどうかは自分でも分からない。

書いているうちに思い出してきた。
バンド名の次に"残った"のは『Give Yourself A Try』だった。

先述のようにパンクロックが根底にある私はすぐにピンときた。
UKという土地柄、子供の頃に義務教育のごとくパンクロックを吸収した奴らがフレッシュな感性で音楽を作るという我々にとっては羨ましいあのフローがすぐに見えた。
ある程度聴き込んで気づいたことだけれど、この曲の枠組みは個人的に敬愛するThe Cureの大名曲『Boys Don't Cry』を感じさせるものだと思う。

一定のリズムにパターンの少ないルート進行、メインリフあり、サビはタイトルのフレーズを連呼という。両楽曲を生涯の友とする私にとってこの共通点は嬉しいものであった。

ってことは最初に聴いたアルバムは『A Brief Inquiry into Online Relationships』だったな〜って。思い出してきた。
面白いもんでこうしてそのバンドの魅力に気づいた途端、当初オシャレなダンスロックなんつって聴き流していた楽曲たちも私にとっての輝きを増した。
私はTHE 1975に出会った。

SUMMER SONIC 2022にて

初めてTHE 1975のライブを観ることができたのはSUMMER SONIC 2022の関東公演の1日目であった。
一応コロナ禍として括られていた時期ではありつつも、上手いことフルキャパで海外勢ゴン盛りで開催された最高のサマソニである。

当日私はMrs. GREEN APPLE→WONFU→マキシマムザホルモン→FISHBONE→King Gnu→THE OFFSPRING→THE 1975というマリンスタジアムと幕張メッセの地獄の往復、サマソニ経験者なら過酷さが分かるであろう異常なスケジュールをこなした。
しかもTHE OFFSPRINGとTHE 1975は時間が被っており、移動時間も考慮するとTHE 1975は30分ほどしか観られない。オフスプを途中離脱はどうしてもできなかった。

『Love It If We Made It』の途中くらいに着いた。
そして彼らの中でも珍しいハードな側面全開の曲である『People』 (この曲のApple Music上での解説文にはRefusedやConvergeの名前が挙がっている。ハードコアパンク好きの私にとってこの曲は是非聴きたかったところ)、
そして『I Always Wanna Die (Sometimes)』、続く『The Sound』〜『Sex』〜と来て最後には『Give Yourself A Try』。
大好きな曲の多くが終盤にくるとは思わず、あまりにも最高な時間を過ごした。
ライブに行くことなんてただの遊びであることは重々承知だが、この経験は私の中で「諦めずに行動すれば良い結果が出ることもある」という成功体験の一つとして記憶に残っている。THE 1975は私にとってそういう存在になったのだ。

とは言えその日のセットリストを見たら、前半に演奏されたがゆえに聴き逃した名曲たちがチラホラと。やはり少しだけ悔しくなった帰り道であった。


例の件について

今年の2月、世間にネガティブな話題を振り撒くこととなってしまった例の炎上事件。個人的には許す/許さないという二択を設けることはしたくない。彼のこの件における立ち振る舞いは明らかに間違っていたが、同時にキャンセルカルチャーの恐ろしさも感じている。
これはファンこそ辛い思いをしたところだ。来日の手前でこれとは非常に心苦しい。
過去に笑えない問題発言をしたアーティストは多くいるが、彼がその仲間入りをしてしまったこと、
彼らの音楽への支持を表明することに躊躇いが生まれてしまうこと、
来日ツアーのキャンセルを求める声、
来日ツアーに行くファンを否定する声、

この件について一切の言及を避けることはできなかったためこうして記したが、言うまでもなくここで筆は一度止まった。
仕方のないこと、ではないからこそやるせない。
いろんな意味でこれ以上はご勘弁願いたい。

At Their Very Best Japan 2023@ぴあアリーナMM(2023/4/27) 当日レポート

ライブが近づくにつれ興奮は高まってきた。
前回の来日からかなり短いスパンでの再来日とはいえ、待望の来日ツアーである。
追加公演の東京、横浜2回、名古屋、大阪とかなりしっかりしたツアー。
私は地元横浜の2日目に参加した。

こういう日付入りの看板は嬉しい。

物販

夕方頃に到着し、まずは物販へ。
無類のバンドマーチ(グッズ)類のオタクである私は物販をチェックすることもある意味での本番である。
無断転載とかになったら嫌なので公式が上げているメニュー表はここには載せないが、品数はなかなかの充実っぷりで良い。
Tシャツ類よりキャップの方が安いのよく分かんねえなとか思いつつ個人的な目当て2つは無事にゲット。

色々と理解ってる最高のフーディー。Gildanボディながら値段は¥9,500となかなかの高額だが、バンドのマーチはこのチープさも大事だからかなり良い。
各会場限定Tシャツ。会場ごとにボディの色と下方にプリントされた会場名•日程が違う。
商品画像だとComfort Colorsとかの後染め系ボディのようだったが、
実際はPrintstarのレギュラーカラーそのまんまという、マーチというよりグッズって感じのそれ。
記念になるという点とそもそものデザインが良いため購入。

大人気のクルーネックスウェットは即完。次点で人気のトートバッグも売り切れだったが、他のアイテムはまだあった。

いよいよ入場。
会場内にはフードコーナーがあり、ドリンクや軽食が買える。
正直驚いたのが開演30分前あたりに覗いてみたら驚くほど長蛇の列ができていた。正直私にはワンマンコンサート的なライブではその感覚がなかったため驚いたが、みんなその場を楽しんでいて良いなと思った。
まぁ外で買ったドリンクは持ち込めないしね。

開演が迫り、緊張感が高まるものの19時の開演時間には暗転せず。
当初の開演時間になる瞬間のいよいよ感が一度裏切られたのちに数分間ソワソワし続けるあの感覚はライブによく行く人ならあるあるであろう。
結局10分押した。
いよいよである。

セットリスト

01. Oh Caroline (Matty Solo)
02. I Couldn't Be More in Love (Matty Solo)
03. When We Are Together
04. Looking For Somebody (To Love)
05. Happiness
06. UGH!
07. Oh Caroline
08. Me & You Together Song
09. Medicine
10. If You're Too Shy (Let Me Know)
11. I'm In Love With You
12. Fallingforyou
13. About You
14. An Encounter (Interlude)
15. Robbers
16. Somebody Else
17. It's Not Living (If It's Not With You)
18. Sincerity Is Scary
19. Paris
20. Chocolate
21. Love It If We Made It
22. Guys (Matty Solo/Acoustic/Short ver.)
23. I Always Wanna Die (Sometimes)
24. The Sound
25. Sex
26. Give Yourself A Try

楽曲ごとの感想

・Oh Caroline (Matty Solo)〜I Couldn't Be More in Love (Matty Solo)
ステージ袖で手元の酒をクイッと飲み干したMattyとサポートのキーボーディストのみが大歓声の中ステージに登場してまずは美しい2曲。
・When We Are Together
冒頭のソロ2曲を歌い終えるあたりでギターのAdam、ベースのRoss、ドラムのGeorge、そしてサポートメンバーがステージ袖から登場してフルメンバーが揃う。Mattyがローディにアコースティックギターを持ってくるよう伝え、それを受け取って始まったのは最新アルバム『Being Funny In A Foreign Language』のラストを飾るこの曲であった。静かに、しかしいよいよ本格的に歯車が回り出した。
・Looking For Somebody (To Love)〜Happiness〜UGH!
A-haの『Take On Me』よろしくな80's シンセポップ系の軽快なこの曲で一気に爆発。そこから最新作のイントロ明けを飾る『Happiness』、人気曲『UGH!』で実に華やかで多幸感に溢れた空間を作り上げる。客のスイッチの入れ方が上手だ。
・Oh Caroline
冒頭でソロスタイルで披露されたからバンドではやらないかと思ってたらちゃんとやってくれてよかった。これは聴きたかったでしょうみんな。
・Me & You Together Song
先述のサマソニで聴き逃した曲を回収できた。私がTHE 1975に出会いたての頃にがっつり撃ち抜かれた曲で、MVのユースが集まって大騒ぎ系の映像のポップパンクライクな青春感と甘いモヤ感が最高。クールでオシャレなバンドと思っていたらこんなに甘くて青い曲作れるんだって感じで。ライブ序盤にして私は早速絶頂を迎えるのであった。
・Medicine
スケールの大きな壮大な楽曲の一つ。先ほどまでのパーティー感を一度抑える大会場映えするドリーミーな一曲。こういう地に足つかないグルーヴの楽曲をしっかりと演奏するのは至難の技である。クールさとは裏腹な彼らの努力が見えた。
・If You're Too Shy (Let Me Know)〜I'm In Love With You
みんな大好き『If You're Too Shy』〜新譜の曲ながらすでにアンセムの『I'm In Love With You』と、踊れる曲たち。シンガロングもばっちり決まる。楽しみ方は人それぞれではあるがしっかりとレスポンスを演者側に返せるというのはお互いにとって大事なことだと思う。
・Fallingforyou
正直この曲は知らなかったが、EPと1stFullのデラックスエディションに収録されている曲だったのだな。先程の『Medicine』と同じく壮大なサウンドスケープの曲。
・About You〜An Encounter (Interlude)〜Robbers
U2の大名曲『With or Without You』よろしく壮大な2曲とそれを繋ぐ間奏。大規模な会場でプレイできるレベルのバンドでなければ格好のつかない両曲は個人的に聴きたかったため最高であった。
・Somebody Else〜It's Not Living (If It's Not With You)
ここでまた踊れるグルーヴが戻ってきた。『It's Not Living』はこれまたアンセムって感じでやはり盛り上がりが一段と違った印象。キラーチューン、ビッグチューンの数が多いバンドは強いなと。そしてこの曲終わり後のMCで観客のCheersに反応したMattyがボトルを持って客席に降りてくる事態が発生。ある意味この日一番の盛り上がり。
・Sincerity Is Scary
やってきました大名曲。サビ前にステージに投げ込まれたあのピカチュウ帽をMattyが被る良いハプニングもあり。セキュリティはヒヤヒヤもんの行為だと思うから、一夜限りの最高な事件ってことで。
・Paris
スマホライト点灯曲。彼らのモノクロ演出とスマホの明かりは相性が良く、パリだけにオーシャンゼリゼよろしくな主音からメジャーキーを1音ずつ下がるルート進行も相まって甘く優しい空気が沁みた。
・Chocolate
個人的に1,2を争うくらい好きな最高の楽曲。サマソニでの聴き逃しをこれまた回収。あのテコテコと小気味良く鳴るギターフレーズを弾き始めたと思ったらそのまま楽曲になだれ込むアレンジ。洗練された空気感の曲だけれど、"チョコレート"を隠し持った男女が"I think we better go, Seriously better go"つって街から逃げ出す汚れた青春感が美しくて、泣ける。
・Love It If We Made It
硬質でハードな縦乗りが印象的なこの曲。徐々にライブの終わりへと向かう緊張感のようなものを感じた。終わってしまう寂しさと、まだ聴けていない曲への期待から来る焦り。現場で体感するあの終盤感。
・Guys〜I Always Wanna Die (Sometimes)
ファン人気トップクラスであろう『Guys』を短く簡単に弾き語るMatty。
"The first time we went to Japan, You guys are the best thing that ever happened to me" この歌詞が聴けることには大きな意味がある。やはり普通にバンドセットでやってほしかったりもするが、逆に特別な思いがあるからこそのこのやり方なのかもしれない。
『I Always Wanna Die (Sometimes)』。世界一美しい曲の一つと言いたい。サマソニ振りの再会。こんなタイトルと歌詞は倫理的にはアウトかもしれないが、ほっといてほしい。生きるということはそれほどに辛いから。これは俺たちの歌だと思う。
・The Sound〜Sex
湿っぽく終わるのはらしくないとでも言わんばかりに華やかな名曲2連発。なんて綺麗な光景だろう。これが虚構じゃなく現実であるというのが音楽の素晴らしいところなんだよな。シューゲイズ的モヤ感を情緒ではなく恍惚の表現手段として使用する『Sex』は名曲だ。ポストロック的轟音パートにて膝突き昇天。
・Give Yourself A Try
いよいよ最後の曲。冒頭にも述べたように私にとって生涯の友であろう曲。
最高だ。これ以上はなかなかない。
個人的な話ではあるが、この文章の投稿日を持って私は30歳になった。
この曲の歌詞は29歳のMattyがかつての自分に語りかけて人生への挑戦を促す内容である。私も29歳という年齢をもってそれなりに気づいてしまった現実がある。だけど人生はいつだってこれから次第だ。そう言い聞かせて頑張るしかない。
"Give Yourself A Try"、良い言葉。
私が20代最後に生で聴いた音楽がこの曲であることを今後の誇りとしていこう。



終演後は大会場ゆえの規制退場だったが、周りはそそくさと帰ってしまう。
切り替え早過ぎないか?
その場にへたれ込んでしまった私は呼び出されるまでの数分間がむしろちょうど良いクールダウンの時間になった。

その後外に出ると桜木町駅側に向かう人々と横浜駅側に向かう人々で道が分けられ、それぞれの帰路に着く。
私の自宅は会場から結構な時間はかかるものの徒歩圏内であるため横浜駅に行く必要はなかったが、あえて駅まで続くファンの流れに加わって歩いた。
最後の最後まで現場を感じたかったのだ。


ライブ当日のレポートはここまで。
ここから先は気づいたことや感じたことを少々。

雑感

・音が良い
音が良い。正直驚いた。
自分が割と前方で観ていたというのもあるかもしれないが、本当に良かった。
メンバー、PA、機材スタッフがチームで世界中の大きな会場を回ることで得た技術の結晶というか、真の意味でプロフェッショナルを感じた。
大規模の会場になるとドラムのボワついたキック音とボーカル以外が聴き取りづらかったり、音の迫力が全然ないみたいなことはよくあるし、音というものを考えるとそりゃそうなるよなとも思う。
しかし彼らの音響はとにかくしっかりと届く音だった。それぞれの楽器がはっきりと聴き取れるし、フレーズの細かいニュアンスも感じられる。
彼らの楽曲は全体的に白いモヤがかかったような空気感があるが、そんな質感と大きな会場特有の音が空気を多分に含む感じとの相性の良さも感じた。大会場における本来の悪条件を逆手に取っているようにも思えた。

・大酒飲み
ボーカルのMattyはとにかくライブ中に酒を飲む。
今回のツアーではライブ始まりの演出として出番直前のステージ袖での様子が中継されるというものがあったが、この横浜2日目はその時点で既に1杯引っ掛けていた。
ライブが始まってからもステージ上でワインをボトルから直飲み、スキットルに入っているどうせ酒であろう何かも頻繁に飲む。
この姿は正直生で見るととても興奮するというか、彼の酒が進むにつれてこちらも謎の期待感が上がっていくような、、
ただの飲酒行為なので別に演出とかではないにせよ、あれはずるい。
もしや開演前にフードとドリンクに列を作っていた方の多くはMattyとのCheersを楽しむためだったのか。

・しれっと盛り上げ上手
MCらしいMCというよりかは観客に語りかけるように話したり、時にはコミュニケーションを取ったりと、自然体なトークが魅力だと感じた。
ただ色々話した最後にちゃんとThank You等の分かりやすい言葉で締めることで観客を沸かせるという、英語圏以外でのツアーに慣れている大物らしい技もあり、上手だなと感じた。
あとはやはり挙動がクール。
さりげないダンスやステージセットの椅子でくつろぐ姿がいちいちかっこいい。
演出ではなし得ない真性のアイドル性を感じた。
本物である。


最後に

次に彼らのライブを観ることができるのはいつになるのかとか、そもそも次に観る機会はあるのかとか、考える。
海外アーティストは本人たちがどんなに活動的だとしても次に来日するまでには必ず長いブランクがある。今回のような1年以内の再来日はレアケースだ。現地に行くにしてもその回数を多く設けることは難しいだろう。
それゆえ海外アーティストの来日ライブはその多くが異様とも言える熱気を帯びる。
今回のTHE 1975の来日もまさにそれで、ライブで大いに盛り上がったり物販を買い漁ったりメンバーに強烈なラブコールを送ったりSNSでレポートをシェアしたり。
その光景が私は大好きだ。受け手にも熱量がある文化は強い。

現在進行形の文化に触れていると、自身の実生活以外にも時間の指標ができる。
例えばあの作品が出た頃は自分はまだ学生だったとかあのライブを観た時は○○歳だったとか。
そして未来に対しても次○○が来日する時は自分はいくつになっているのだろうなんて考えたりもする。
で、今の我々はそんな過去の自分から見た未来にいる。

今回のツアーに参加した人もできなかった人も、ファンであれば同じ時間の指標を共有していることになる。
なんかそれってとても素敵なことだと思います。

THE 1975は未来のあるバンドだと思う。
きっと次もあるからみなさんその時までどうか元気で。

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