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『夏とふたり - July.07.2023』

  夏真っ盛りの本日昼下がり。私たちの夏は今日からである。期末テスト最終日。まだ解き終わっただけで、結果なんて返ってきてはいないが来週からは午前授業で、実質今日から夏休みみたいなものだ。
 ここは東京の端の辺鄙な田舎。引っ越してきた時は、本当に住所が東京なのか疑った。私、左貴 都 -Sadaka Miyako- は幼馴染の七星 めい -Naboshi Mei- と近所の駄菓子屋で夏休みの作戦会議中である。今は隣町の私立の高校に通っている。ちなみに七星めいもとい ”めめ” は地元の高校に進学している。

 テストが終われば最寄りの駅で待ち合わせして、そのまま馴染みの駄菓子屋さんまで寄り道。お昼ご飯前にお菓子なんて、おばあちゃんに怒られるかな。道中聞いてみたが、だいじょぶ!だいじょぶ!なんて、めめからは楽観的な返事が返ってくる。めめもきっと、私が分かっていて聞いているのを知っている。

 小学生の頃、まだめめと出会いたての時に、めめのおばあちゃんがうちの親が共働きなのを知って、お昼ご飯を出してくれるようになった。

    今日ぐらいはいける!と、いつも怒られまくっていてもう怖くないのか、めめは寄り道にノリノリである。めめの場合はその今日ぐらいが毎日でしょ、なんてつっこみながらも、そんなめめの様子を見ていたら、私も今日ぐらいは一緒に怒られてみてもいいかも、なんて思ってしまう。

 「ちよちゃん、こんにちはー!」
 あらあら、めいちゃん、とめめのバカでかい声に答えてお店の奥から出てきてくれる駄菓子屋アオイ商店の店主、蒼井ちよさん。小さい頃から通っているということ以上に、めめの最強コミュ力のおかげでこの関係が成り立っていると思う。私もこんにちはと挨拶をして、いつも買うお菓子と約束のラムネ( https://twitter.com/Ritsu_0814/status/1621795696289660930?s=20 )、かき氷をちよさんにお願いする。めめはといえば、お目当てのラムネを買ってすぐに店前のガチャガチャを物色している。このあたりは子供が少なすぎて、ガチャガチャのラインナップも買い手が選べたりする。ちよさんと仲良しのめめなら尚更。今回は今絶賛はまっている、”まゆくまくん”というクマのマスコットをリクエストしたらしい。おそらく狙い目はシークレットなんだろうなぁ、なんて外のめめを眺めているとみやちゃん、できたよ〜、とちよさんが、かき氷を持ってきてくれる。今日も一番お気に入りのいちご練乳。それを持ってお店の外のベンチの方に行けば、まだガチャガチャ前に座り込んでいるめめ。座って私はかき氷を食べながら、早く回しなよって催促した。したところですぐに回さないのなんて分かってる。
 「まだなの!儀式中!これやんなきゃひけない!」
 ほらね。いつになく真剣な顔でのレスポンスに、学校の勉強にもそんな顔をしたらいいのにと思う。ちなみにそれは、じゃんけんの必勝法じゃないか?

    先に食べておこうと、店前のベンチに座る。いつも通り粗めに削られたかき氷。少し前に流行ったふわふわのも大好きだけど、お祭りとか駄菓子屋さんで食べるかき氷の方が親しみがあって、まだ高校生なはずなのに懐かしく感じるこの安い味が好き。噛み締めながらめめの様子を見ていれば、なんだか神妙な面持ち。やっぱり外したのか、と思った次の瞬間、やったー!と奇声をあげられてびっくりしてしまう。
    「え、当たったの?」
    「出た!自引き!やりました!」 
    ひゃー!なんて小学生みたいなテンションではしゃいでいる。みて!みて!ってベンチに乗り出して中身を見せてくる。5歳児か。カプセルの中には、浮き輪に乗って麦わら帽子を被ったまゆくまくん。これは、可愛いかも。めめは、喜びの勢いに乗せて勝利の1杯と言わんばかりに、ラムネをグイグイ飲んでいる。
   「ぷはぁっ!夏のはじまりに景気が良すぎる!!」
   「そうだねぇ!今年もめいっぱい遊ぼうね。」
   当たり前!なんて言って残りのラムネを飲み干すと、ちよちゃーん!ごちそうさまー!と、また大声でめめは、瓶を返しに行く。高2の夏も楽しくなりそう。


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