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クロスカントリー日本選手権展望④ 田村兄弟

2年連続2・3位の田村和希・友佑兄弟が今年も対決
兄は五輪代表へ、弟は兄超えへのステップとしたいレース

 日本選手権クロスカントリーは2月27日、福岡市の海の中道海浜公園で4部門が行われる。シニア男子(10km)では19年、20年と連続2位の田村和希(住友電工・25)が優勝候補筆頭に挙げられる。19年の日本選手権10000m優勝者で、昨年の日本選手権でも3位に入り、27分28秒92の日本歴代3位をマークした。元旦のニューイヤー駅伝3区でも区間賞と好調を続けている。
 トラックでは兄との差があるが、弟の田村友佑(黒崎播磨・22)もクロスカントリーでは負けていない。今大会では19年、20年とも兄に次いで3位に食い込んでいるのだ。
 2人とも万全の調整で臨むわけではないが、兄は地力の高さで優勝したい大会だ。弟は兄に勝つチャンスである。兄弟対決は今年も大会を盛り上げそうだ。

●26分台も視野に入れ始めた兄

 田村和希の口から「26分台」という言葉が出たのは、今年の元旦だった。ニューイヤー駅伝3区(13.6km)で37分39秒の区間タイ、18人抜きを達成した後のことだ。21年の強化方針を問われて次のように答えた。
「相澤(晃・旭化成・23)君に比べて僕は体の線が細い。フィジカルが課題なので、そこを強化するトレーニングを取り入れていきます。26分台を出すため、練習の質も上げて行ければ」
 1カ月前の日本選手権10000mで日本歴代3位と好走したが、優勝した相澤が27分18秒75の日本新を、2位の伊藤達彦(Honda・22)が27分25秒73の日本歴代2位をマークした。その2人が東京五輪参加標準記録の27分28秒00を破り、相澤が東京五輪代表に内定。田村和は標準記録に0.92秒届かず悔しさを顕わにした。
「日本選手権前は、日本記録(当時27分29秒69)を更新する戦いになると思っていましたが、26分台までは見ていなかった。相澤君のタイムを見て、26分台を目指せるようにならないといけないと思いました」
 日本選手権で快走した選手で、1カ月後のニューイヤー駅伝と箱根駅伝で力を発揮できなかった選手が多かった。その点、田村和は「思ったほどダメージがなく、しっかり練習ができた」という。それ自体は望ましいことだが、「悪く言うと120%が出せていない」と、改善の余地も感じている。ニューイヤー駅伝3区についても、渡辺康幸監督は「区間記録を30秒更新できた」と見ている。
 詳しくは後述するが、五輪最重要選考会である5月の日本選手権に向けて、今回は練習の一環で出場する。その状態でも勝つことができれば、120%の走りができたときに日本記録更新が可能になる。

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●練習のレベルを上げている弟

 弟の田村友佑のこの1年は、成長の伸び率が鈍ったようにも見える。
 19年の日本選手権10000mは9位と入賞に迫り、優勝した兄・和希とも32秒差だった。九州実業団駅伝1区(12.9km)でも区間賞を取っていた。当時の取材で「兄は勝ちきることができる選手。そこはすごいと思います。自分もしっかり上を見て、兄に勝てるようにしないと」と話していた。
 しかし昨年12月の日本選手権は28分25秒74の自己新で走ったものの、兄との差は57秒と広がった。ニューイヤー駅伝3区でも直接対決し、22秒前でスタートしたが逆転され、1分6秒もの差をつけられた。
 澁谷明憲監督にその点を質問すると、「僕も本人も気にしていません」と明るい声が返ってきた。入社後3年間で体もできてきたので、4年目(20年)から一段階上のレベルの練習をするようにしたからだという。
「練習でゆとりを作れば試合でもう少し走れるのですが、タイムなど練習強度を上げて、さらに上を目指しています。今はステップアップするための停滞期間ですが、それでも(5000mからハーフマラソンまで全部の種目で)自己新は出しているのです。兄をかなり意識していますが、もっと自分のことを見てやっていけばいいと思いますよ」
 力を完全に発揮している状態ではないが、澁谷監督は「脚力があるので起伏のあるコースにも強いですし、もともと試合での集中力は高い選手です」と、クロスカントリーの田村友に期待する。

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●鍛錬期の兄に、レース期の弟が挑む

 兄の田村和の今大会出場の目的は、「5月3日の日本選手権10000mで標準記録を破って勝つための練習の一環」(渡辺監督)だ。
「ニューイヤー駅伝後は鍛錬期に入って、今もそうです。日本選手権クロスカントリーは現状のチェックができればいいかな、と思っています。27分30秒より高いレベルで走るために、下半身強化用のウエイトトレーニングや動きづくりも、多く取り入れています」
 レースのための調整はしないが、故障などの不安はなく、練習自体は積み重ねられている。「(追い込んでいるので)体はキツいと思いますが、その状態でも勝ちきるレースができれば」と渡辺監督は期待している。
 田村和は五輪代表をつかむため、アップさせている地力で勝ちきるつもりだ。
 それに対して弟の田村友は、2週間前に全日本実業団ハーフマラソンを走り、自己新記録をマークしている。長期スパンで見れば練習の負荷を上げて結果に結びついていない時期だが、試合期間で動きは兄よりも研ぎ澄まされているだろう。主催者アンケートの目標欄にも「優勝」と書き込んだ。
 一昨年は兄と1秒差の3位、昨年は10秒差の3位。タイム差が開いたが、田村友自身は昨年の方がレース内容は良かったという。
「2年前は兄と優勝した坂東(悠汰・富士通)さんに先に離されてしまって、最後に追いついての3位でした。昨年は最後まで先頭集団についての3位でしたから」
 昨年の方が風が強く、雨で足元の状態も悪かった。その状況でもタイムを7秒縮められたことに、手応えを感じられたという。
 今大会のシニア男子が10kmの距離になって3年。過去の優勝者と田村兄弟のタイムは以下の通りである。
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18年・29分53秒:大迫傑(Nike ORPJT)
19年・29分36秒:坂東悠汰(法大4年)
   田村和希29分40秒、友佑29分41秒
20年・29分18秒:浦野雄平(國學院大4年)
   田村和希29分24秒、友佑29分34秒
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 スローな展開なら、兄弟のどちらが先に仕掛けるかが注目点になるだろう。ハイペースなら、兄弟のレベルアップを考えれば、28分台も期待できる。

TEXT & 写真 by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

27日(土)午後3時30分 TBS系列
『クロスカントリー日本選手権』


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