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Honda、富士通、トヨタ自動車、黒崎播磨が4強。そして大迫“参画”のGMOインターネットグループに注目【ニューイヤー駅伝展望コラム第1回】

 23年最初の全国一決定戦であるニューイヤー駅伝は、ハイレベルの戦いが予想されている。前回優勝のHonda、2年前優勝の富士通、戦力充実が著しいトヨタ自動車、九州大会優勝の黒崎播磨が4強と言われている。そこに大迫傑(Nike・31)が“参画”するGMOインターネットグループも加わる勢いだ。
 前回3位で20年大会まで4連勝した旭化成、前回4位で6区途中までトップを走った三菱重工も優勝を狙ってくるだろう。
 新春の上州路を賑わす有力チームの戦力を紹介する。

●伊藤&青木の代表コンビでトップに立ちたい2連覇を狙うHonda

 個人では21年の東京五輪、22年の世界陸上オレゴン日本代表だった以下の選手たちがエントリーした。
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Honda:伊藤達彦(東京五輪&世界陸上オレゴン10000m)、青木涼真(東京五輪&世界陸上オレゴン3000m障害)
富士通:松枝博輝(東京五輪5000m)、坂東悠汰(同)
トヨタ自動車:服部勇馬(東京五輪マラソン)、西山雄介(世界陸上オレゴン・マラソン)
GMOインターネットグループ:大迫傑(東京五輪マラソン)
コニカミノルタ:星岳(世界陸上オレゴン・マラソン)
住友電工:遠藤日向(世界陸上オレゴン5000m)
愛三工業:山口浩勢(東京五輪&世界陸上オレゴン3000m障害)
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 前回優勝のHondaには伊藤達彦(24)と青木涼真(25)の代表コンビがいる。2人そろって2年連続代表というのはHondaだけ。世界へ挑戦するパワーが駅伝でも威力を発揮している。前回は2区終了時に23位と出遅れたが、4区の伊藤が区間5位で14位から5位に浮上し、5区の青木が区間2位で3位に進出。2人は6区の中山顕(25)がトップに立つための流れを作った。
 今季のマイナスは中山が故障で、11月3日の東日本実業団駅伝に出場できなかったこと。7区区間賞だった土方英和(25)が移籍をしたこと。
 逆にプラスは、前回メンバー入りできなかった小袖英人(24)が東日本大会1区区間賞を取ったこと。前回1区区間13位の川瀬翔矢(24)が10000mで27分台に入ったこと。さらには前回3区区間8位の小山直城(26)が、2度のマラソン出場で持久力をアップさせ、東日本大会7区区間賞と駅伝のスピードも戻してきた。
 インターナショナル区間の2区で大きく出遅れないことが前提になるが、今年は3、4、5区に出場する青木と伊藤の2人でトップに立つのが理想だろう。
 さらに小川智監督は、東日本大会後に後半区間への期待も口にした。「(東日本大会に出なかった)中山と設楽がいる」と、前回の区間賞ランナーと、マラソン元日本記録保持者の復調の可能性に言及したのだ。
 駅伝は全選手が額面通りの力を発揮できるわけではない。各選手のプラスマイナスをどうカバーし合えるか。今回のHondaは代表コンビの力が発揮されれば、全体が上手く機能すると思われる。

●分厚い選手層を誇る富士通とトヨタ自動車、旭化成

 2年前の優勝チーム富士通は今回、中村匠吾(30)と鈴木健吾(27)のマラソン・コンビをエントリーしなかった。来年の世界陸上ブダペスト大会、再来年のパリ五輪と続くスケジュールも考慮した結果だが、その2人を欠いても選手層は厚い。
 松枝博輝(29)と坂東悠汰(26)の東京五輪5000m代表コンビに塩尻和也(26)と、トラックの代表経験選手数はナンバーワンだ。松枝は今季の日本選手権10000m6位と10kmの距離に自信を深め、坂東は10月に5000mで13分21秒94とシーズン前半の不調から脱した。
 順当なら松枝と坂東で1区と3区を分担し、最長区間の4区は塩尻が候補となる。塩尻は10月、11月と27分50秒前後のタイムで2カ月連続走った。
 東日本大会4区区間賞の横手健(29)も今季は3~5区候補だが、本番が近づき調子が上がっている。4区の可能性も十分ある。
 2年目の塩澤稀夕(24)も東日本大会6区で区間賞と1秒差の区間2位と好走し、駅伝でも実績を残し始めた。浦野雄平(25)はマラソンがメインの選手だが、2年前の7区区間賞選手で今回の駅伝も走る。半年以上故障でレースから遠ざかったが、12月10日の5000mレースで故障明けながら5000mの自己新をマークした。
 浦野は「ユーティリティー性を売りで駅伝は戦っている」と自負する。箱根駅伝では國學院大3年時に山登りの5区で区間賞を取った。松枝、坂東、塩尻、横手らが順調なら、向かい風となる5~7区に登場するだろう。
 中村&鈴木抜きの陣容でも、富士通の選手層の厚さは今大会一、二を争う。
 トヨタ自動車も選手層の厚さでは負けていない。
 5位だった前回はインターナショナル区間の2区に日本人を起用せざるを得ず、8年ぶりに3位以内を逃した。だが4区の西山雄介(28)は今季、世界陸上オレゴンのマラソンで13位に入り、3区区間2位の太田智樹(25)は日本選手権10000mで5位。2本柱は強力だ。
 前回1区区間8位だった田中秀幸(32)は中部大会7区区間賞。元は1500mランナーだが、年々長い距離の力も付けている。大石港与(34)は10月に10000m日本人最年長27分台となる27分57秒32をマークし、過去4年間駅伝メンバーに入れていない宮脇千博(31)も、中部大会5区で区間新と快走した。
 新加入した丸山竜也は9月のベルリン・マラソンで2時間07分50秒と自己記録を大幅に更新し、駅伝でも中部大会1区で区間2位に23秒差をつけた。そして東京五輪マラソン代表だった服部勇馬(29)も、練習ではケガから完全復活している。
 3区の太田と4区の西山は前回と同じで、田中と丸山が1区と6区を分担する可能性が高い。大石、宮脇、服部、西山和弥(24)の中から調子が上がった選手が5区と7区に入りそうだ。
 いずれにしても全員が10000m27分台の自己記録を持つことになり、トヨタ自動車の選手層はチーム史上最高に厚い。「(チーム全体で)しっかり状態を作っていけば優勝争いできる」と、初の陣頭指揮をとる熊本剛監督は手応えを感じている。
 旭化成も、10000m日本記録保持者の相澤晃(24)こそ故障で欠くことになったが、選手層の厚さでは富士通、トヨタ自動車に匹敵する。鎧坂哲哉(32)、市田孝(30)、大六野秀畝(30)、村山謙太(29)と4区経験選手をこれだけ多く擁するチームは珍しい。
 前回5区区間賞の小野知大(23)、1区の区間上位常連の茂木圭次郞(27)、6区で区間賞3回の市田宏(30)と多士済々のメンバーだったところに、前回7区区間賞の土方も加入した。どんなオーダーでも組めるし、どこでトップに立ってもおかしくないチームだろう。

●黒崎播磨と三菱重工は主要区間のメンバーが強力無比

 九州大会に初優勝した黒崎播磨と、前回4位の三菱重工は主要区間の3、4、5区選手がほぼ確定している。黒崎播磨は故障や体調不良がなければ3区・田村友佑(24)、4区・細谷恭平(27)、5区・土井大輔(26)と、前回と同じ顔ぶれになりそうだ。同様に三菱重工は3区・林田洋翔(21)、4区・井上大仁(29)、5区・山下一貴(25)と、こちらも前回と同じメンバーになる可能性が高い。
 得意種目という視点で見たときのメンバー構成も、両チームは似ている。3区候補の田村と林田はトラックのスピードランナーで、ハーフマラソンでも1時間0分台の自己記録を持つ。前回は区間3位の林田、区間4位の田村とも区間新で、林田はチームを5位からトップまで押し上げた。
 細谷と井上はマラソンでともに2時間6分台を持ち、日本代表にもなった(細谷のアジア大会は延期に)。細谷は前回4区区間賞でチームを2位に押し上げ、井上は19年、20年大会の連続区間賞選手で、前回は区間3位でトップをキープした。
 そして土井と山下はチーム内のマラソン・ナンバー2のポジションで、スタミナ型である。前回はともに区間4位タイだった。
 黒崎播磨の澁谷明憲監督は「2区、3区で順位を上げて4区でトップに立つ」と、勝つためにはその展開しか考えていない。
 大迫を3区か4区に起用するGMOインターネットグループも、「大迫君でトップに立つ」(亀鷹律良監督)展開を期待している。そのためには1区候補の10000m前日本記録保持者の村山紘太(29)や、3、4、5区を担う吉田祐也(25)や今江勇人(24)が、他チームと互角の戦いをする必要がある。
 吉田はマラソンで2時間7分台を持ち、20年の福岡国際マラソンで優勝しただけでなく、今年の東日本実業団駅伝でも6区区間賞を取った。スピードのある塩澤を10km強の区間で破ったことは自信になっただろう。
 さらに今季は今江勇人が入社。千葉大大学院卒という異色の経歴だが、11月には10000mで27分50秒93をマーク。5000mも13分34秒58のスピードがある。
 5~7区にも強力な選手を残し攻勢に出られる富士通&トヨタ自動車に対し、Hondaは伊藤か青木の区間で、GMOインターネットは大迫の区間でトップに立ちたいと考えている。黒崎播磨と三菱重工も4区でトップに立つ展開に持ち込むことに勝機がある。
 どのチームが勝ちパターンに持ち込めるか。今回のニューイヤー駅伝はそこに注目したい。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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