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クロスカントリー日本選手権 男子レビュー

順大1年生・三浦と順大OB松枝が大激戦のワンツー
2人ともトラックの東京五輪につながる快走

 日本選手権クロスカントリーは2月27日、福岡市の海の中道海浜公園で行われ、シニア男子(10km)は順大1年の三浦龍司(19)が29分10秒で優勝。2位には同タイムの接戦を繰り広げた順大OBの松枝博輝(富士通・27)が入った。三浦は昨年日本歴代2位(8分19秒37)をマークした3000m障害で、松枝は昨年の日本選手権で2位となった5000mで、東京五輪代表入りを狙っていく。

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●3000m障害につながるクロスカントリー

 今大会の顔ぶれと指導者たちへの事前取材から、順大勢(三浦&松枝)vs.田村兄弟(和希・住友電工&友佑・黒崎播磨)の構図が予測できたが、大学1年生が勝ちきったのには驚かされた。
 激戦を制した三浦は、自身の成長が確認できた点として以下の内容を挙げた。
「脚力作りというか、バネの強化をしてきたことが今回のクロカンに生きました。日本選手権も欠場することになった11月のケガで、走り込みが足りていませんでした。トラックが始まる春までに高負荷の走り込みをしているのですが、それが今回生きましたね」
 昨年まではクロスカントリーに苦手意識があった。足元がしっかりと固定できないため、自身のリズムで走れない感覚があったのだ。
「今年は意外とリズムが崩れませんでした。クロスカントリー・コースで多く練習したことが生きたのかもしれません」
 長門俊介駅伝監督は、三浦の言葉を次のように裏づけた。
「トラックの周りのクロカンコースも走りますが、東大検見川グラウンドがトレーニングに適したコースで、今回も2週間前から検見川に行ってクロカンに慣れさせました」
 三浦の本職は昨年7月に日本歴代2位で走った3000m障害である。適用期間外だったため突破したことにはならないが、東京五輪の参加標準記録(8分22秒00)も上回った。クロスカントリーで強化したことが、3000m障害のどこに生きるのだろうか。
「シニアに方たちと障害を跳ぶとき、(集団の中になるので)完全に自分のリズムで跳ぶことは難しいのです。そこからリズムを立て直すとき、そういったフィジカルの部分が生きると思います」(三浦)
 昨年、日本歴代2位を出したときは、「大学の4年間で出そうと思っていた記録」と三浦本人も驚いたが、今は日本記録(8分18秒93)更新を本人もイメージできている。

●長門駅伝監督の語る三浦の可能性

 その三浦の優勝を予想していたのが長門駅伝監督だった。クロスカントリーの練習だけでなく、スタミナ系とスピード系の練習実績から、「勝てると思っていた」と言う。
「走り込みをしている期間なのでスピードが出ないのが普通なのですが、そのなかで質の高いメニューを入れてもパッとできる選手なんです。3000m障害だけでなく、5000mでも日本記録(13分08秒40)を狙うくらいの状態に、学生時代のうちにもっていければいいですね」
 3000m障害は順大の得意種目で、日本歴代10傑中5人を順大出身選手が占める。日本記録も現在、順大OBの岩水嘉孝(当時トヨタ自動車。現資生堂ヘッドコーチ)が持つ。
 今回驚かされたのは、トラックのラスト勝負に強い松枝に、三浦がラスト勝負で競り勝ったことだ。長門駅伝監督は以前から「ラストの切り換えは下手な方」と、そこだけは評価していなかった。
「クロスカントリーの起伏がアクセントとして利用して、切り換えられたのかもしれません。昨年11月の全日本大学駅伝1区、そして今回のクロカンとラスト勝負で勝ちました。スピードはもともと持っていたのですが、やっと切り換えができるようになってきましたね」
 ラストスパートは国際大会の予選を勝ち上がったり、入賞争いを制したりするとき、大きな武器となる部分だ。三浦は記録だけでなく、勝負にも強い選手に成長していきそうだ。

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●2種目日本記録を目指す松枝

 2位となった松枝博輝は、内心の悔しさを押し殺していたのか、後輩の強さに半ばあきれていたのか、少し複雑な表情を見せていた。
 松枝は日本選手権の5000mで2回(17、19年)優勝した選手で、ラストスパートの強さは日本でも一二を争う。ラスト100~200mなど短い距離だけでなく、500m以上のロングスパートもできるタイプである。
「自分としては良い走りができたと思います。残り1周で勝負する形にできて負けたので、相手を素直にリスペクトしたい。強いて言えば、クロカンが得意ということもあり、先頭に出たり下がったりをしたところに慢心があったかもしれません」
 富士通は順大と同じ千葉県を拠点とするチーム。クロカン練習を行う場所は近くにある。富士通が優勝したニューイヤー駅伝に向けても、起伏を使った練習を積極的に行ってきた。
 どちらかというと記録より、日本選手権などの勝負強さが先行してきた(5000mの自己記録は13分24秒29)。ワールドランキングのポイントは日本人でトップに位置している。しかい確実に出場資格を得るには、13分13秒50の五輪参加標準記録を切っておきたい。
 日本長距離界には記録ラッシュの波が近年押し寄せている。10000mでは相澤晃(旭化成・23)が昨年、27分18秒75と標準記録を上回る日本記録を出した。松枝もその波に乗り、標準記録を破るつもりだ。
「五輪標準記録を狙うためにニューイヤー駅伝(1区区間賞)、全日本実業団ハーフマラソン(1時間01分29秒の自己新)、日本選手権クロスカントリーとセットで出場しました。トラックの準備期間として、良いトレーニングになったと思います。3月はスピードを研き、4月は1500mで日本記録に近いタイムで走り、5月は5000mで標準記録をしっかり狙います。あわよくば2種目で日本記録を出せたらいいな、と思っています」
 1500mと5000mの組み合わせで日本記録保持者となった選手は過去50年間、1人もいない。厳密に言うと1971年5月29日まで、やはり順大OBの澤木啓祐が持っていた。澤木は順大が強くなり始めた時期に活躍し、68年メキシコ五輪と72年ミュンヘン五輪に出場したレジェンドだ。
 指導者となってからは順大を箱根駅伝優勝に6回導いただけでなく、日本インカレの総合優勝も10回果たしている。駅伝だけでなく、トラックを重視する姿勢が強いのが順大という大学である。スピードランナーが多く育つ土壌を持つ大学なのだ。順大のそういった部分が、今年の日本選手権クロスカントリーにも現れた。

TEXT・写真 by 寺田辰朗

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