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【東京五輪陸上競技2日目(7月31日)注目選手】

ママさんハードラーの寺田は家族の応援を感じながら予選突破へ
走幅跳の橋岡、日本選手団主将の山縣らも予選突破へ

 東京五輪陸上競技2日目が7月31日、東京・国立競技場で行われる。女子100mハードル予選にはママさんハードラーの寺田明日香(ジャパンクリエイト)が登場。家族の応援を“近く”に感じて予選突破を目指す。89年ぶりの決勝進出を目指す多田修平(住友電工)と山縣亮太(セイコー)、小池祐貴(住友電工)の男子100 mトリオも予選に臨む。メダルを目標とする男子走幅跳の橋岡優輝(富士通)は、予選から8m15以上のレベルの高い跳躍を見せてくれそうだ。

●オリンピックに出られなかった第1次陸上選手期

 午前中の注目は女子100mハードル予選に出場する寺田明日香だ。5組が行われ各組4着と、5着以下のタイム順で上位4人がプラスで準決勝に進出できる。夫でマネジャーの佐藤峻一さんによれば、「予選で12秒9台、準決勝で12秒7台を出して決勝に」というのが、寺田が描いているラウンドの進め方だ。
 直近の世界大会である19年世界陸上ドーハ大会では、13秒08までプラスで準決勝に進んでいる。12秒9台を出せば予選突破は有力だ。今季12秒96、12秒87と日本記録を更新し、12秒台を4回出している寺田にとって高いハードルではない。
 寺田は09年世界陸上に出場し、10年アジア大会では5位入賞したが、その後相次いだケガや摂食障害などでパフォーマンスが落ち、目標としていた12年ロンドン五輪代表入りができなかった。競技を続けるのが苦しくなり、13年に引退した。
 結婚、大学進学、出産を経て16年夏に7人制ラグビーに競技転向する形で競技生活を再開した。18年12月に陸上競技への復帰を表明し、翌19年の8月には13秒00の日本タイ、9月には日本人初の12秒台となる12秒97をマークした。世界陸上にも10年ぶりに出場した。
 五輪出場は「第1次陸上選手期」(寺田)にできなかった大目標。そのオリンピックに出場するだけでなく「復帰するなら世界で戦いたい。決勝進出が目標」という寺田にとって、地元開催の東京五輪は大きなチャンスである。家族など支えてくれる人たちの応援を受け、力を発揮する絶好の舞台になるはずだった。

●家族の存在をプラスに

 残念ながら東京五輪は無観客開催となってしまったが、家族の存在は平常心を保つ意味でも大きい。佐藤さんによれば寺田は、娘の果緒ちゃんの夏休みの宿題を一緒にやっていたという。精神状態も、日本選手権前ほどピリピリしたところはなかった。
 いつもとの違いは、開幕したオリンピックをテレビで見ているときにあった。「普段はあまり他の競技は見ないのですが、今回は柔道などの金メダル獲得シーンを見て、『スゴいな』と刺激を受けていました」
 7月26日までは都内の自宅から練習に行き、27日の朝にナショナルトレーニングセンターへ向かい、選手村には30日に入った。普段は自宅の玄関で見送る家族が、マンションの1階まで降りてタクシーに乗り込むところまで見送った。果緒ちゃんもいつもと違い、「投げキッスをしていました」(佐藤さん)
 佐藤さんと果緒ちゃんはスタンドで観戦することはできなかったが、国立競技場の目の前に場所を確保し、そこでテレビやネット中継を通じて寺田の走りを応援する。直接応援することはできないが、互いの存在を間近に感じることで、何かしらのプラスがあるかもしれない。

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●男子100 mは五輪史上2回目の3人第1ラウンド突破の可能性

 男子100mは予備予選(標準記録を突破していないが参加を認められた選手が出場するレース)が午前中に行われるため、スタートリストがまだ出ていない。世界陸上ドーハ大会では10秒23(-0.3)まで準決勝に進出しているので、今季9秒95(+2.0)の日本新を出した山縣、10秒01(+2.0)の多田は通過するのは間違いない。小池が10秒13(+2.0)なので記録的には若干の不安もあるが、接戦に強い選手なので大丈夫だろう。
 最速男を決める男子100 mに日本が3選手をフルエントリーし、3人が最初のラウンドを突破したのは1936年ベルリン五輪ただ一度だけ。五輪史上2度目の3人同時突破を期待したい。
 男子走幅跳の橋岡は、6月の日本選手権に8m36(+0.6)の日本歴代2位で圧勝した。今季世界7位の記録だが、世界3位は8m39で3cmの差しかない。国際大会にも強く18年のU20世界陸上で金メダル、19年のアジア選手権に優勝、同年のユニバーシアード優勝、同年の世界陸上ドーハ8位入賞と、期待を裏切らない成績を残してきた。
 29日の入村時には「予選をどういうふうに自分にとっていい形で終われるかが、勝負になってくる。『予選から、いい形でいい流れをしっかりつくる』というところを心がけてやっていきたい」とコメントした。
 期待したいのは、1回目の跳躍で予選通過記録の8m15以上を跳ぶことだ。今年は助走が進化したことでファウルが多くなっている。1回目で跳べばファウルへの不安も小さくなり、ケガのリスクも低くなる。もちろん、2回目以降に修正する能力も重要だが、決勝の1回目でしっかり記録を残せば、2回目以降の試技でさらに修正を加えて記録を伸ばしていける。
 2日後の決勝でメダルを狙うためにも、予選の1回目は大切にしたい。
 決勝種目は女子100 mと、今大会から新たに行われる男女混合4×400mリレーの2つが行われる。女子100 mは1日目に予選が行われ、10秒78(-0.3)のM・J・タルー(コートジボアール)、10秒82(+0.1)のE・トンプソン(ジャマイカ)、10秒84(+0.3)のS・A・フレイザー・プライス(同)が3強と言える走りを見せた。
 タルーの10秒78はアフリカ新記録で、風も向かい風だったことを考えると評価が高い。しかしフレイザー・プライスは08年北京、12年ロンドンと五輪2連勝の実績があり、今季10秒63(+1.3)の世界歴代2位と好調だ。そしてトンプソンはリオ五輪金メダリストである。
 三つ巴の激戦は必見だ。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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