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【日本選手権10000m②女子は廣中と安藤が東京五輪代表内定】

4月の金栗記念の戦いをグレードアップさせたことで2人が標準記録突破
前半攻めの走りを見せた廣中と、後半“自分に勝った”安藤

 日本選手権10000mが5月3日、静岡県のエコパ陸上競技場で行われた。男子は五輪参加標準記録を突破していた伊藤達彦(Honda)が優勝して代表に内定。女子は優勝した廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)と2位の安藤友香(ワコール)が、ともに五輪参加標準記録の31分25秒00を突破。そろって東京五輪代表に内定した。廣中はチャレンジした結果が、安藤は自身に勝った結果が、レース展開に現れた。2人が出場した4月の金栗記念とレース内容を比較すると、2人の成長ぶりがよくわかる。

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●廣中の攻めの走りで5000m通過は15分28秒

 廣中と安藤の2人そろっての標準記録突破は、ともに力を出し切ったレース展開を見せた結果だった。
 2人は廣中の初10000m出走となった金栗記念(4月10日)にも、揃って出場していた。2000mでペースが遅いと判断した廣中が先頭に出て、3500mからは安藤とマッチレースを展開。5000mで安藤が先頭に立ってペースダウンを防ぎ、8000mから廣中が猛スパートを見せた。標準記録には約5秒届かなかったが廣中が31分30秒03、安藤も31分46秒80と好タイムを残していた。
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金栗記念と日本選手権の1000m毎スプリットタイム比較
     金栗   日本選手権
1000m 3分13秒  3分06秒
2000m 3分20秒  3分05秒
3000m 3分12秒  3分05秒
4000m 3分06秒  3分05秒
5000m 3分08秒  3分07秒
6000m 3分10秒  3分08秒
7000m 3分12秒  3分11秒
8000m 3分11秒  3分13秒
9000m 3分00秒  3分11秒
10000m 2分58秒  3分01秒
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前半   15分59秒  15分28秒
後半   15分31秒  15分44秒
フィニッシュ  31分30秒03 31分11秒75
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 今回の日本選手権は、金栗記念をグレードアップさせた戦いになった。廣中は金栗では2000mまで様子を見たが、今回はスローになると判断できた200 m(39秒通過)で躊躇わずに先頭に立った。金栗よりも速い3分05~07秒ペースを重ね、金栗では15分59秒だった5000mを15分28秒で通過した。
 標準記録の31分25秒00を破るには、後半5000mを15分58秒で踏みとどまればいい。5000m通過時点で標準記録突破に向けて貯金ができた。
 だが、見ている側にはそう感じられても、選手とすればこのハイペースは楽ではない。昨年5000mの種目で、15分28秒以内で走った日本人選手は13人しかいないのだ。簡単に破れる標準記録ではなかった。

●「自分に勝てた」安藤も標準記録突破

 だが5400mで安藤が、廣中に代わって先頭に立った。廣中は「5000mを過ぎて一段階キツさがあったとき、安藤さんが前に出てくれたので、付かせてもらいました」と、そのシーンを振り返った。
 上の表からわかるように、9000mまでの1000m毎は金栗記念と同レベルだが、前半を速く走ったなかでそのペースを維持した。後半の走りも2人はグレードアップさせたことになる。
 廣中のスパートは8800mだったが、8000m手前から安藤の後ろではなく、横に並びかけて走っていた。「出るタイミングをうかがっていました」と廣中。8000~9000mのタイムは金栗記念より遅いがレベルが下がったわけではなく、展開に応じた走りをした結果だった。
 8900mから廣中がリードを奪い始めたが、後半を引っ張った安藤が、離されてからも粘り抜いた。金栗記念では廣中に16秒77の差をつけられたが、日本選手権では6秒43にとどめた。安藤の走りもグレードアップしていたことを示している。
「残り2000mでラップを見て、このまま落ちたら標準記録を破れないんじゃないか、と思ったので、廣中さんの背中が離れないように追いかけました。いつもだと、そこで自分に負けてしまうんです。今回も弱い自分が出たら標準記録を切れなかったかもしれません。今日は絶対に負けられない、と思って走りました。多くの人の支えがあったんです。今日は、自分に勝てたと思います」
 終盤の走りを振り返る安藤から、高揚感と充実感が伝わってきた。
 レース後の2人は手を取り合って互いの健闘を称えた。
 一緒に取材したわけではないが、2人は同じ言葉を口にした。
「『安藤さんありがとうございました』という気持ちでした。私ひとりではこのタイムを出せなかったと思います。先輩の胸を借りて切磋琢磨できてよかった」(廣中)
「廣中さんの胸を借りて走らせてもらいました。廣中さんがいなかったらこのタイムと順位はなかったです」(安藤)
 代表枠が2つ残っていたからできたことなのかもしれないが、気持ちの良い戦いを見せてくれた。

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●5000mでも代表入りを目指す廣中

 廣中は5000mを「本命種目」と位置づけている。5000mは昨年12月の日本選手権で田中希実(豊田自動織機TC)に敗れ、代表入りを逃していた。「10000mは5000mのためのスタミナ作り」という位置づけで取り組み始めた種目だった。6月に行われる日本選手権5000mで、2種目目の代表入りに挑む。
 一方の安藤は5000mは考えていないが、おそらく五輪後には、駅伝などを経てマラソンに再チャレンジするだろう。17年には2時間21分36秒の初マラソン日本最高タイムを出し、同年の世界陸上ロンドン大会にも出場した。昨年の名古屋ウィメンズマラソンでは五輪代表になった同僚の一山麻緒(ワコール)には敗れたが、2時間22分41秒の好タイムで走っている。
 初マラソン以降は大きな試合で勝てないパターンが続いていた。今回の日本選手権も「負けですよ」と笑いながら話したが、「弱い自分に勝った」ことで、一段階成長した安藤がマラソンでも見られるかもしれない。それを確実にするためにも、東京五輪という大舞台で力を出し切る走りを期待したい。
 廣中の5000mは、昨年9月の全日本実業団陸上で出した14分59秒37が自己記録。日本歴代3位で昨シーズンの世界19位のタイムである。持ち味は前半からのハイペースだが、昨年の日本選手権はラスト3000mを8分50秒台前半で上がっている。残り400 mを切ってからのスピードでは勝負できないかもしれないが、残り1000m以上のロングスパートの力はつけ始めている。
 それを日本選手権の前に試すことができるのが、5月9日のReady Steady Tokyo(東京2020テストイベント )だ。10000m代表の新谷仁美(積水化学)もエントリーしている大会である。
 昨年の全日本実業団陸上では14分55秒83の日本歴代2位で走った新谷が、廣中に3秒54差をつけた。そのレースでは先頭をハイペースで押すタイプだった新谷が、廣中の後ろについて走り、最後のスパートで勝つパターンを体得した。だが廣中も、12月の日本選手権5000mや4月以降の10000mの走りで、走力と経験値をアップさせている。
 2人のReady Steady Tokyoでの激突は、注目の大一番となる。

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TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

9日(日)よる6時30分 TBS系列生中継
「Ready Steady Tokyo陸上」
東京2020オリンピックテスト大会


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