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日本選手権展望②世界ランキングで代表が決まりそうな種目

田中希実は女子1500m日本人初代表なるか
2強対決の男子走高跳と女子100mハードルでも代表入り有力

 6月24日から27日までの4日間、大阪市のヤンマースタジアム長居で行われる第105回日本選手権。今年は男女34種目が、東京五輪の最終最重要選考会として行われる。3位以内に入った選手が適用期間内に標準記録を破っていれば、日本選手権の順位が確定した時点で東京五輪代表が内定するが、標準記録を破れなかった選手にもチャンスはある。日本選手権3位以内の選手が7月1日に世界陸連が発表する世界ランキングで、各種目の出場人数枠に入れば7月2日以降に2次発表という形で代表入りが決まる。男子走高跳の戸邊直人(JAL)など、標準記録は破っていないが国際大会での実績は十分ある。世界ランキングで出場が決まりそうな種目と選手を紹介していく。

●多くの狙いがあった田中の12試合16レース

 5000mですでに五輪代表に内定している田中希実(豊田自動織機TC)が、女子1500mで日本人初の五輪代表入りに挑戦する。参加標準記録は4分04秒20。田中が昨年出した日本記録の4分05秒27との差は1秒07。可能性がないわけではない。
 今季のトラックは3月後半から6月6日のデンカチャレンジまで、12試合16レースを走ってきた。昨年12月に5000mの五輪代表を内定させたので、長期的な視野でトレーニング効果を狙っての連戦だが、レース展開やペース設定を試す狙いもあった。速いペースやスローペース、最後1周など距離を決めてスパートしたりした。
 田中は日本選手権の目標を「理想としては五輪参加標準記録。最低限昨年に続いて優勝すること」だと話した。優勝すれば世界ランキング(標準記録突破者も含めて1カ国3人カウント)で、この種目の五輪出場人数枠の「45人」に入る可能性があるのだ。田中の23日時点の順位は37位である。
 昨年のトラックシーズンは、標準記録も世界ランキングも適用期間外。田中と父親の田中健智コーチは今季のトラックレースをどう活用するかを考え、自己新は出せなくても4分10秒前後のタイムを出し続ければ、タイムによるポイントを積み重ねることができ、世界ランキングを上げられると考えた。3~6月の16レース中1500mは7レースに出場し、ここ5レースはすべて4分9~10秒台を出している。
 日本選手権は大会カテゴリーが国内大会では高く、順位ポイントが高い。外国選手の結果次第の部分もあるが、日本選手権のタイムが極端に遅くならなければ、優勝することで世界ランキングが上がるはずだ。
 日本選手権を走った直後に代表内定とはならないが、優勝すれば女子1500m初の五輪代表入りが実現する可能性が大きくなる。

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●戸邊と衛藤の最終決戦がバーを上げ続けるか

 男子では走高跳日本記録(2m35)保持者の戸邊直人(JAL)と、リオ五輪代表だった衛藤昂(味の素AGF)が今季そろって好調だ。5月の静岡国際とREADY STEADY TOKYOの2試合で、2人とも2m30を跳んでいる。昨年2m31に成功した真野友博(九電工)も含めた3人に、2m33の五輪標準記録を期待できる。
 ただこの種目は、風が強かったり、風向きが変わったりすると助走が影響を受けやすい。ちょっとした風のいたずらで記録は吹き飛んでしまう。世界ランキングはそうした不運を、ある程度カバーできるシステムだ。
 23日時点の世界ランキングで戸邊は26位、衛藤が26位につけている。この種目の出場人数枠は32人。戸邊は今年5月のREADY STEADY TOKYOや19年のダイヤモンドリーグで1300点以上を積み重ね、日本選手権で仮に敗れても安全圏と言われている。
 衛藤も19年のアジア選手権2位とREADY STEADY TOKYOの3位で1300点前後を獲得してきた。日本選手権2位でも可能性はあると言われているが、衛藤としては優勝して代表入りを確実にしたいところだ。
 世界ランキングを意識してのバーの上げ方もするだろうが、2人ともピットに立てば勝負を最優先に考える。2人は10年前の11年日本選手権で戸邊が優勝し、衛藤が2位になって以来、この種目を引っ張り続けて来た。記録や国際大会成績では戸邊がリードしているが、日本選手権の優勝回数では戸邊の3回に対し衛藤は4回。五輪も、衛藤が16年日本選手権で標準記録を跳んで代表入りを決めたのに対し、戸邊は一度も出場していない。
 2m30の自己タイを今季2度も跳んでいるので惜しむ声も多いが、2月に30歳となった衛藤は今季限りでの引退を決めている。日本選手権ではライバル対決の最終章となるのだ。
 衛藤は走高跳という種目の面白さとして、「他の選手たちがどんどん跳んでくると、自分もその高さが通過点という意識になる」ことを挙げる。2人が競い合ってバーを上げていけば、日本選手権史上初めて複数選手が2m30以上を跳ぶこともできるだろう。
 そうなればポイントも上がって2人そろっての五輪代表入りを実現できる。

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●女子100mハードルは世界ランキングなら1人だけの可能性

 今季日本記録を出している寺田明日香(ジャパンクリエイト)と青木益未(七十七銀行)の2強対決が、注目も期待もされている。
 昨年までの自己記録は寺田が12秒97(日本記録)、青木は13秒02だった。東京五輪参加標準記録の12秒84は難しいと思われたが、寺田が4月の織田記念で12秒96と日本記録を0.01秒更新すると、6月の木南記念では12秒87と日本人初の12秒8台をマーク。記録更新の勢いから標準記録にも手が届くと期待できるようになった。
 そして布勢スプリントでは寺田と青木が直接対決。織田記念とREADY STEADY TOKYOでは力んでハードルに脚をぶつけていたが、布勢では「力まず寺田さんについて行ければ」と考えた。ハードルに近くなっていた踏み切り位置を微調整することにも成功し、12秒87と日本タイ記録で12秒89の寺田を破った。
 2人そろって12秒84の標準記録を切ることができれば言うことはない。
 世界ランキングでも可能性はあるが、2人そろって入れるかというと、その点は男子走高跳より厳しそうだ。
 女子100mハードルの標準記録突破者と世界ランキングの1カ国3人カウントでの順位は、寺田が36位(1217点)、青木が38位(1213点)、木村文子(エディオン)が41位(1209点)である。この種目の出場人数枠は40人。
 日本選手権は大会カテゴリーがBで、優勝者と2位選手は、順位ポイントが20点違う。この時期はヨーロッパでも国際大会が多く行われるようになっているので、日本選手権優勝者だけが世界ランキングで出場人数枠に入ることも予想されている。
 2人とも日本選手権優勝だけは譲れないところだが、青木は「2人で高め合って世界に行きたい」と言う。予選、準決勝で2人とも標準記録を破ることができれば、決勝は代表入りを気にせず勝負に集中できる。
 他にも世界ランキングで代表入りしそうな種目がいくつかある。男子では400m、5000m、棒高跳、やり投、女子では3000mSCで出場人数枠に日本人選手が入っている。
 その中でも確実と言われているのが男子400 mのウォルシュ・ジュリアン(富士通)だ。出場人数枠48人で、23日時点で34位。日本選手権は欠場するが、49位以下に落ちることはないと踏んでの判断だろう。
 男子5000mは42人枠で松枝博輝(富士通)が39位、服部弾馬(トーエネック)が44位。服部が内定すれば、マラソンの服部勇馬(トヨタ自動車)と兄弟代表が実現する。
 男子棒高跳は32人枠で山本聖途(トヨタ自動車)が31位、江島雅紀(富士通)が34位。やり投も32人枠で小南拓人(そめQ)が29位。女子3000mSCは45人枠で吉村玲美(大東大)が45位。
 以前のオリンピックではJOCから、陸上競技としての出場人数枠を設定されていたため、出場資格があっても代表に選ばれない選手が生まれていた。リオ五輪から競技別の枠は指定されなくなり、陸連は出場資格がある選手は1種目3人の制限はあるが、全員選ぶ方針に変わっている。
 選手の頑張りや可能性に、優劣をつけなくてもよくなっている。1人でも多くの選手が出場資格を獲得し、五輪という檜舞台に立ってほしい。

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TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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