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初めての試みをした世界陸上オレゴンで連続入賞を逃した橋岡。帰国後第1戦で来年の世界陸上ブダペスト参加標準記録も視野に【全日本実業団陸上2022プレビュー④】

 男子走幅跳の橋岡優輝(富士通・23)が全日本実業団陸上(9月23~25日・岐阜メモリアルセンター長良川競技場)に、10位だった世界陸上オレゴン後の初戦として出場する。昨年の東京五輪は6位と健闘し、19年の世界陸上オレゴン大会も8位に入賞した。シーズンベストも19年・8m32、20年・8m29、21年・8m36、22年・8m27と、世界トップレベルで推移してきている。それを考えるとオレゴンで入賞を逃したのは悔しい結果だった。だがオレゴンの橋岡は、メダルを狙うために昨年までとは違う試みをしていた。全日本実業団陸上で同じ試みはできないが、メダルを狙って行く戦いへ再スタートを切る。

●ブダペストの選考を楽にするために

学生時代から橋岡を指導する日大の森長正樹コーチによれば、橋岡の全日本実業団陸上での主な目的は世界陸上ブダペスト代表入りのプロセスを楽にすることだ。8m25の参加標準記録を跳んだり、世界ランキングのポイントを少しでも積み重ねておく。
 昨年は東京五輪で痛みが出たとこともあり、五輪後はそのままオフから冬期練習という流れにしたが、今年の春も故障があり、世界ランキングに必要なポイントを取った試合が少なかった反省がある。
 今年は6月の日本選手権で8m27を跳んでオレゴンの参加標準記録(8m22)を超えたが、シーズン初頭はそんな心配もしていた。ブダペストも標準記録を早く跳んでおくに越したことはないし、最悪ポイントをしっかり取っておきたい。
 だが橋岡の状態はトップコンディションではない。世界陸上で足首への負担が大きかったこともあり、帰国後約1カ月間、グラウンドでの練習は行わなかった。森長コーチによれば「日本選手権や世界陸上の頃の筋力には戻っていない」という。
 それでも、世界トップレベルで戦い続けている橋岡である。出場するからには最低でも8m10前後は跳んでくるだろう。8m25の標準記録を突破する可能性もあると、森長コーチも期待している。
 代表は来年の国内選考会を経て決まるが、今年のうちに世界陸上の参加資格を得ておけば、来年のシーズン前半で海外転戦など思い切ったことに挑戦できる。


●本気でメダルを狙う段階に入った橋岡

オレゴンの橋岡はメダルを現実的に狙うため、予選ではなく決勝にピークを合わせた。
 ともに入賞した19年世界陸上や21年東京五輪は、予選通過を最優先した調整を行った。これは橋岡に限らず、室伏広治(男子ハンマー投04年アテネ五輪&11年世界陸上テグ大会金メダリスト)を除けば、日本のフィールド選手全員に当てはまることだ。だがそれでは、予選が終わってどこかに痛みが出たり、体力が落ちたりして決勝では記録が下がる。
 だが予選のパフォーマンスを少し抑える調整をすると、予選落ちのリスクを伴う。そこにオレゴンの橋岡は挑戦した。
 森長コーチが説明する。
「これまでは前日にしっかり体を動かして予選に臨んでいましたが、オレゴンでは完全休養にしました。予選は体が動ききらない状態で臨んだのです。それで8mくらいになったら予選落ちするかもしれない」
 しかし橋岡は予選で8m18(+0.4)を跳び、全体トップ記録で決勝に進んだ。“抑えたつもり”ではなく、橋岡は本当に抑えていた。「間違いなく底上げができていた」と森長コーチも感じていた。翌日の決勝は「これまでの橋岡は必ず『重いです』と言っていましたが、オレゴンの決勝は完璧に動いていた」と、狙い通りの状態に仕上げていた。
 だが決勝の1本目はファウル。11.2cm(公式発表)、踏切板をオーバーしてしまった。2本目は20cmスタート地点を下げたが、5.2cmのファウル。3本目は踏切板の25.2cmも手前から踏み切って7m86(+0.4)に終わる。3回目の実測距離は8m11だったことになるし、「1回目も2回目も8m20~30の距離は出ていた」(森長コーチ)という。
 状態が良いのに正確な助走ができなかったのはなぜか。橋岡はオレゴンで、「疲労感があったなかでも体が動く状態は初めてで、その状態に対応できなかった」と説明した。
「ウォーミングアップではドーハ、東京と比べても体は動いていました。疲労があるなかで体のコンディションが良い状態を今まで経験していなかったので、1本目、2本目は予想以上に助走が進んでしまい、最後、さばききる段階で、自分では『さばききれた』と思ったのですが、10cmから5cmくらいの感覚の差が実際に出ていて、その結果、ファウルになってしまった」
 この課題は例えば、8m20以上が跳べる体のコンディションで連戦しなければ、シミュレーションすることはできない。世界各地で行われるダイヤモンドリーグは、開催間隔が1週間以上空くことが多い。だがダイヤモンドリーグと小さな国際試合を組み合わせれば、中1~2日で連戦ができるかもしれない。それを来年のシーズン前半で行うには、国内の代表選考を、今年のウチに少しでも楽にしておくことが望ましい。
 橋岡にとって全日本実業団陸上は、オレゴンで生じた課題を来季試すことにつながっていく試合である。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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