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【プリンセス駅伝レビュー①】

狙い以上の走りをした資生堂がクイーンズ駅伝でも上位候補に
代表経験のある木村と高島が区間新で存在感をアピール

 資生堂が予定した以上のレース内容で圧勝した。プリンセス駅伝は10月24日、福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmのコースに31チームが参加して行われた。1区の木村友香(26)の区間新でリードした資生堂が、2区で一度2位に後退したが、3区で首位を奪い返すと4区以降は独走。2時間16分41秒の大会新記録で、2位に1分21秒差をつけて優勝した。
 2位には天満屋が、東京五輪マラソン代表だった前田穂南(25)を欠きながらも、2時間18分02秒で食い込む健闘を見せた。3位にはクイーンズ駅伝への連続出場が昨年途切れてしまった第一生命グループが、2時間18分32秒で入った。
 20位までがクイーンズ駅伝(11月28日宮城県開催)への出場権を得て、前回8位までのチーム(クイーンズエイト)と女子駅伝日本一を争う。12位の岩谷産業、15位のダイソー、17位のニトリ、19位の埼玉医科大学グループの4チームが、クイーンズ駅伝に初出場する。

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●5区・高島が故障明けでも快走できた理由は?

 勝負を決したのは5区(10.4km)。資生堂の高島由香(33)が区間記録を24秒も更新する区間賞の走りで、2位を走る天満屋に2分20秒差とした区間だった。高島が予定していたペースは「3分20~25秒(/km)で押して行く」こと。3分20秒で5区の10.4kmを走り通せば35分00秒だが、高島は34分18秒で設定を大きく上回った。
 快走の理由を高島は次のように話す。
「1区から後輩たちが良い勢いでタスキを持ってきてくれて、行けるところまで行こうと思って走ったことが、区間賞と区間新記録になりました」
 高島は昨年のプリンセス駅伝は6区で区間2位だったが、クイーンズ駅伝は「左の座骨の痛み」でレース2日前に欠場が決まった。
「2区を除く全部の区間を変更することになって、チームにすごく迷惑をかけてしまいました。練習を再開したのは8月からで、しっかりした練習は9月の終わりからでした」
 レース出場は9月の3000m記録会1本だけ。記録は9分22秒91で、復調にはまだまだ時間がかかると思われた。岩水嘉孝監督は「(本格的なレースは)1年も時間が空いています。駅伝は確実に走る選手なので、プリンセスできっかけをつかんでほしい」という期待の仕方だった。
 その高島がいきなり快走できたのは、「思ったより体が動いたことと、みんなが良い流れを作ってくれたこと」が理由だった。
 この1年は代表復帰よりもまず、「駅伝でチームの力になりたい」と考えて頑張ってきた。それがプリンセス駅伝の予想以上の走りとなって現れ、チームも圧勝でのトップ通過という形になった。

●新人の樺沢が2区への起用に、佐藤もエース区間への起用に応えた走り

 資生堂はトップ通過や大会新記録を狙っていたわけではなく、クイーンズ駅伝に向けて戦略的に2つの目的を持って臨んでいた。1つは新人選手にチャンスを与え力をつけさせること。もう1つは昨年の駅伝で失敗した代表経験選手2人にリベンジさせ、存在感をアピールすることだった。
 代表経験選手2人はその期待通りの走りを見せた。1区(7.0km)の木村は19年世界陸上ドーハ5000m代表だったが、昨年は故障明けのためプリンセス駅伝は5区区間19位、クイーンズ駅伝は6区区間20位。今回は残り300 mでスパートして区間1位、21分44秒と区間記録を38秒も更新する快走を見せた。
 2位の第一生命グループに7秒、3区に東京五輪代表の萩谷楓(20)のいる3位のエディオンには32秒の大差をつけた。
「後ろとの差をできる限り広げたい、と思っていました。駅伝、ロードに怖さがあったので、今日はそれを払拭したいと思っていました」
 代表経験選手2人は狙い通りに、リオ五輪代表だった高島に関していえば想定以上の走りで、プリンセス駅伝のテーマをクリアした。
 2区と4区には新人選手を起用。2区(3.6km)の樺沢和佳奈(22)は第一生命グループ・櫻川響晶に逆転されたが、区間6位で2位を確保。トップとは5秒差で3区に渡した。1500mでは実績があるが、3.6kmの距離には多少の不安が持たれていたが、合格点の走りを見せた。
 3区(10.7km)の佐藤成葉(24)は入社2年目で、昨年は両駅伝とも1区。区間4位&7位と好走していたが、10km区間へは初の出走だった。岩水嘉孝監督が「エース区間でどこまで戦えるかを試したい」と起用した。区間賞の萩谷に続く区間2位で、トップに立った走りはエース区間への起用に十分応えたといえる内容だった。
 1区・木村の区間新からスタートし、2区でトップを譲ったが3区で奪い返した。岩水監督は「前半で崩れなかった」ことを勝因の1つに挙げた。

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●昨年優勝の積水化学に続き、資生堂がクイーンズ駅伝で上位候補に

 そしてインターナショナル区間の4区(3.8km)も新人のジュディ・ジェプングティチ(18)を起用。、全日本実業団陸上5000m優勝の実績をすでに挙げているが、「経験の少ない駅伝でどこまで力を出せるか」(岩水監督)というテーマを与えられていた。独走のなか区間4位、区間賞とは11秒差の走りはやはり合格点だった。
 そして5区の高島が勝利を決定的にする快走を見せ、急きょアンカーに起用された前田海音(21)が大量リードを確実に守りきり、2時間16分41秒の大会新でフィニッシュした。
 昨年優勝の積水化学も、1区の佐藤早也伽、2区の卜部蘭、3区の新谷仁美で大量リードを奪うことをプリンセス駅伝のテーマとして臨み、3区終了時に2位に1分58秒の大差をつけることに成功した。その戦い方をクイーンズ駅伝にも持ち込み、チーム最高順位の2位という結果につなげてみせた。
 今年の資生堂もプリンセス駅伝でテーマをクリアし、クイーンズ駅伝に臨むのは同じ。代表経験選手はクイーンズ駅伝でも区間賞争いに加わる力を示し、佐藤もエース区間をつなぐ役割は果たせる力を示した。今回は起用しなかったが、昨年の両駅伝で3区を区間2位と区間6位で走った五島莉乃(23)、2区を区間2位と区間7位で走った日隈彩美(24)もいる。
 ちなみに積水化学の野口英盛監督と資生堂の岩水監督は、順大の同学年で4年間同じ釜の飯を食べた間柄だ。
 岩水監督はクイーンズ駅伝への手応えを質問されると、「自分たちのコンディションを上げて、力を出し切れば強いチームだと思います。予選会からのチームですが、虎視眈眈と狙いたい」と答えた。資生堂がクイーンズ駅伝でも、上位に食い込む力を示したプリンセス駅伝となった。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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