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【日本選手権クロスカントリー2022プレビュー④富士通勢】

前回同タイム2位の松枝が順大後輩の三浦とリターンマッチ

トラックシーズン後半で絶好調の塩尻も優勝候補の一角

 2月26日、福岡市の海の中道海浜公園で行われる日本選手権クロスカントリー。シニア男子(10km)には、昨年のニューイヤー駅伝優勝の富士通から強力選手が多数出場する。前回2位で東京五輪5000m代表だった松枝博輝(28)、同じく5000m東京五輪代表で19年大会優勝者の坂東悠汰(25)、16年リオ五輪と19年世界陸上(欠場)3000m障害代表だった塩尻和也(25)、17年世界陸上3000m障害代表の潰滝大記(28)、新人の塩澤稀夕(23)の5人。「全員が世界陸上(オレゴン。7月開催)を目指すメンバー」(富士通・高橋健一駅伝監督)だ。前回優勝者の三浦龍司(順大2年。3000m障害東京五輪7位入賞)との争いが最大の焦点だが、チーム内の勝敗も「どこかで意識している」(同監督)。塩尻は世界陸上を狙う種目選択も注目されている。

●松枝は集団の中で動かないレース展開か

 松枝は昨年の今大会で、優勝した三浦と同タイムの2位だった。自身が得意とするラスト勝負に持ち込んで敗れたのだから、相手の力を認めるしかない。三浦はその後、東京五輪で入賞するまで成長した。一発屋的に調子が良かったわけではなかったのだ。

 昨年のレース後、松枝は次のように話していた。

「自分としては良い走りができたと思います。残り1周(2km)で勝負する形にできて負けたので、相手を素直にリスペクトしたい。強いて言えば、自分はクロカンが得意ということもあり、先頭に出たり下がったりをしたところに慢心があったかもしれません」

 そして今大会に向けたテレビ取材に対しても「前回“あっぱれ”みたいな感じで負けてしまったので、今回は勝負に徹して勝ちに行きたい」と話した。

 今年の松枝は集団の中でじっくりレースを進めるだろう。

 レース展開だけでなく、松枝の走力もアップしている。1500m&5000mタイプの選手だが、昨年11月に10000mで27分42秒73をマークした。高橋駅伝監督も「順調に走り込みができたからです。ここまで練習が途切れずに来ました」と認めている。

 そしてトラックで見せる走りから、松枝の勝ちパターンは2つイメージできる。

 1つは集団の中で力を貯め、ここと思ったときに一気にスパートする。もう1つは、終盤で多少先行されても、最後で(トラックなら残り1周=400mで)一気に追い上げて逆転する。

 どちらかのパターンで、順大の後輩に対してリベンジに行くはずだ。


●同じタイプの戦いになる坂東と松枝

 坂東は3年前の今大会に優勝している。当時は法大の4年生。全区間20km以上の距離がある箱根駅伝では好成績を残せなかったが、今大会ではその年の日本選手権10000mに優勝する田村和希(住友電工・26)に4秒差で快勝した。坂東にとって全国大会初優勝で、その年(富士通入社1年目)の日本選手権10000m2位とトラックの好成績につなげた。

 入社2年目の日本選手権5000mに優勝し、3年目の昨年は6月の日本選手権で東京五輪代表入りを確定させた。7月の1500mでは3分37秒99の日本歴代6位と、日本トップレベルのスピードをアピールした。

 塩尻も加えた富士通3選手の各種目自己記録は以下の通り。

     1500m       5000m       10000m

松枝:3分38秒12(8位) 13分24秒29(23位) 27分42秒73(20位)

坂東:3分37秒99(6位) 13分18秒49(9位) 28分20秒72

塩尻:3分47秒15     13分16秒53(7位) 27分45秒18(29位)

( )内は日本歴代順位

 松枝も1500mで3分38秒12のスピードを持つ。10000mの記録は松枝が上だが、駅伝の中間区間の実績では坂東も21年東日本実業団駅伝4区区間賞など負けていない。距離適性やレースパターンは、5000mの代表2人は似ていると言っていい。

 3年前の今大会に優勝しているように、坂東もクロスカントリーで実績がある。「クロカンの練習をときどきやりますが、坂東も上りは強いですよ。適性はあります」と高橋駅伝監督。

 東京五輪5000m代表コンビ同士の争いもヒートアップしそうだ。

●5000mか10000mで世界陸上を狙う塩尻

 富士通勢では塩尻も有力な優勝候補。3000m障害の五輪2大会連続代表入りは逃したが、昨年のトラックシーズン終盤は5000m、10000mとも上記の表にある自己新をマークした。五輪代表2人に劣らない成績を残しているのだ。特に5000mは21年シーズン日本2位で、世界陸上オレゴン標準記録にも3秒と迫った。

 塩尻も三浦や松枝と同じ順大出身で、クロカンを得意とする選手の1人である

 ただ、三浦と松枝ほどラストスパートのキレがない。その代わり自身が先頭に立ち、中盤でハイペースで押していく力を持つ。箱根駅伝2区(23.1km)でも順大4年時に日本人歴代最高記録(当時)で走るなど、その特徴を発揮していた。

「塩尻はラストでは2人に勝てないので、できるだけ早い段階で引き離しにかかるでしょう」(高橋駅伝監督)

 松枝が今年は集団の中で落ち着いた走りをする予定でも、塩尻がハイペースに持ち込んだら集団の数は絞られる。レース中盤で主導権を握るのは塩尻の可能性が高いが、松枝もそれに対応するしかない。

 塩尻は22年シーズンは3000m障害を封印し、フラット種目の5000mと10000mを中心に出場していく方針だ。世界陸上オレゴンもその2種目のどちらかで狙う。世界陸上参加標準記録は5000mが13分13秒50で3秒03差に、10000mは27分28秒00で17秒18差に迫っている。

 10000mはすでに田澤廉(駒大3年)が標準記録を突破し、相澤晃(旭化成・24)と伊藤達彦(Honda・23)も適用期間前ではあるが、標準記録以上のタイムで走ったことがある。5000mの方が標準記録突破選手は少ないことが予想でき、出場選手枠も多い(5000m42人、10000m27人)。1国3人までカウントされる標準記録突破者数が42人に満たなければ、世界ランキングの上位者が追加代表に入ることができるのだ。

 塩尻本人は10000mで手応えを感じているが、5000mの方が可能性が高い、という指摘も出ている。今回のクロスカントリーは10kmの距離。どちらで狙うかはトラックシーズンの深まりとともに決めていけばいいことだが、今大会も判断材料の1つにできるかもしれない。

 塩尻も5000mで世界陸上を狙うことになれば、遠藤日向(住友電工・23)も有力候補だが、富士通勢3人で代表を独占する可能性も出てくる。富士通チームとしての動向も、日本選手権クロスカントリーで注目しておくべきだろう。

TEXT by 寺田辰朗


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