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【東京五輪陸上競技8日目(8月6日)注目選手】

女子やり投の北口が入賞するために必要なことは?
男子4×100mリレーは北京、リオに続くメダルに挑戦

 大会8日目(8月6日)は早朝スタートの男子50km競歩に川野将虎(旭化成)、丸尾知司(愛知製鋼)、勝木隼人(自衛隊体育学校)の3人が出場。19年世界陸上金メダリストの鈴木雄介(富士通)は体調が整わずに代表を辞退したが、メダルを狙えるメンバーが揃った。
 イブニングセッションの男子4×400mリレー予選と男子4×100 mリレー決勝に日本チームが登場。男子4×100mリレーは金メダルが目標だが、1走から多田修平(住友電工)、山縣亮太(セイコー)、桐生祥秀(日本生命)、小池祐貴(住友電工)のメンバーで臨んだ予選は1組3位。着順通過を果たしたが、38秒16のタイムは予選全体で8番目とよくない。予選のデータを収集・分析して、修正することでどこまでタイムを短縮できるか。
 そして女子やり投決勝には北口榛花(JAL)が、女子1500m決勝には田中希実(豊田自動織機TC)が駒を進めている。田中は準決勝で日本人初の3分台(3分59秒19)を出したとき、「ある種のゾーンに入っていた」という。入賞は難しいが、挑戦する気持ちは忘れずに走る。
 北口は予選全体でも6位の記録(62m06)で通過した。入賞に手が届く位置にいる。

●予選記録を上回れないフィールド選手

 北口が入賞するためには、予選で投げた62m06を上回る記録を決勝で出すことが必要になるのではないか。
 これまでの五輪&世界陸上の成績を見ると、予選突破をしても決勝で入賞できない日本選手がかなりの数にのぼる。12人には入れても8人には入れない。そういった例のほぼ全てが、予選よりも決勝の記録が落ちている。
 やり投でいえば16年リオ五輪の新井涼平(スズキ)が、予選は84m16を投げたが決勝では79m47で11位。予選の記録を決勝でも投げていたら5位に入ることができた。12年ロンドン五輪のディーン元気(ミズノ)も同様で、予選の82m07を決勝で投げていたら7位に入賞していた。新井は15年世界陸上北京でも予選は84m66だったが、決勝は83m07の9位と入賞を逃した。
 それに対して男子ハンマー投の室伏広治は、金メダルの04年アテネ五輪、5位に入賞した08年北京五輪と決勝で記録を伸ばしている。その室伏でさえ、シドニー五輪は決勝で2m弱記録を落として9位だった。
 もちろん、もとのレベルが高ければ、多少記録を落としても入賞できる。09年世界陸上ベルリンで銅メダルを獲得した村上幸史は、予選が83m10で決勝が82m97。今五輪男子走幅跳6位の橋岡優輝(富士通)も予選の8m17(+0.4)で決勝が8m10(±0)だった。
 走幅跳は予選が夜で、決勝は2日後の午前中の実施。ただでさえ午前中は記録が伸びない時間帯だが、予選と決勝で異なることで輪がかかった状態だった。それは全選手が同じなのだが、橋岡は予選が全体で3番目とレベルが高かったから、決勝で記録を落としても6位に入賞した。

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●笑顔の北口が見られれば

 決勝で記録を上げようと思って上げられるなら、誰も苦労はしない。それができないのは、室伏のように予選通過が絶対と言える日本選手が少ないからだ。予選で全力を使わなければいけないため、翌日や2日後の決勝にはピークを合わせられず、記録を落としてしまう。力のない選手がふるいにかけられる形になる。
 単純に力をつければいいが、決勝までの過ごし方や、疲れがある中での体の動かし方で、工夫できる余地はある。選手本人だけでなく、コーチやトレーナーなど、チームとしての力も問われる。
 女子やり投の五輪&世界陸上至近3大会の8位記録は、16年リオ五輪が62m92、17年世界陸上ロンドンが62m84、19年世界陸上ドーハが61m12。風の影響を大きく受ける種目なので一概に言えないが、北口が予選の62m06から記録を伸ばせば入賞はかなり高い確率になる。
 予選の後に北口は以下のように話している。
「1投目から62mを投げられたのは収穫です。中2日空くのでリカバリーをしっかりして、(予選より)強くなって決勝の舞台に臨みたいです」
 予選の1投目の後には北口らしい良い笑顔が見られたが、「決勝も笑って試合ができるように頑張りますよ」
 笑顔の北口を国立競技場のフィールドで見ることができたら、予選よりも記録を上げて57年ぶりの入賞を実現しているだろう。

●山縣の走りは決勝で「もっとよくなる」

 5日の男子4×100mリレー予選。1組の日本は38秒16で3位。着順で通過できる3位に入り、00年シドニー五輪から6大会連続の決勝進出を決めた。ただ、予選のタイムは全体8位ということで、客観的に見れば厳しい戦いになる。北口と同じように、予選から決勝でどれだけ記録を縮められるかで、メダルに届くかどうかが決まる。
 決勝で記録を短縮できる要素はいくつもある。予選はスタートする目印を、ベストのときより1足長(シューズ1足分で約30cm)短くした。確実に渡るバトンパスを心がけた結果で、決勝では一番攻めた足長で行う。それをどのチームも行えば条件は一緒で、予選の順位を逆転することはできないが、攻めのバトンはリスクも伴うので実行するには高い精度が求められる。その点で日本は、世界的に見ても秀でている。
 30cm(1足長)を、バトンパスを行う3箇所で縮めれば、それだけで90cm、約0.1秒の短縮ができる。それにプラスして予選の動画を解析し、どこのバトンパスが十分に加速できていなかったかを明確にする。そのためのスタッフを日本は国際大会で帯同させている。加速が不十分だった箇所は、足長の変更や、飛び出し方の変更を行い最速スピードのバトンパスができるように調整する。
 データが出て対応策が決まっても、本番と同じ条件で練習をすることは、疲れを考慮しないといけないので無理である。決勝レースで初めて行い、成功させなければならない。それができるかどうかは、練習をどれだけやってきたかや、各選手の理解度、対応力にかかっている。

●シドニー五輪以降、決勝でタイムを上げている日本

 日本はほとんどのオリンピックで、以下のように決勝のタイムを予選よりも上げている。
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00年シドニー五輪:38秒52→38秒31→38秒66(6位)
04年アテネ五輪:38秒53→38秒49(4位)
08年北京五輪:38秒52→38秒15(2位)
12年ロンドン五輪:38秒07→38秒35(4位)
16年リオ五輪:37秒68→37秒60(2位)
20年東京五輪:38秒16→??秒??(?位)
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 シドニー五輪までは準決勝が行われていて、今よりラウンドが多かった。決勝でタイムを落としたのは、3走の末續慎吾が終盤で肉離れをしながら走ったためだ。
 ロンドン五輪もタイムを落としているが、決勝で足長を広げて攻めのバトンをしたつもりが、失敗を怖れてゆっくりスタートを切ってしまった。ロンドン五輪で4走、リオ五輪で2走を務めた飯塚翔太(ミズノ)は、「ロンドンでは予選から2分の1足長伸ばしたのですが、思い切りスタートができなかったので、リオでは伸ばす距離を4分の1足長にして、その分思い切りスタートしました」と2大会の違いを話した。
 具体的な足長は予選をどのくらいの安全策で行っているかによって違うので、参考程度に考えてほしい。いずれにしても、ロンドンとリオの経験で、日本は最適な足長を判断できる。そういったノウハウの継続性も日本が優れている部分だろう。
 しかし各選手の走りが上向かないと、最速のバトンパスをしようと思ってもできない。個人種目の100mを走った時点では、その点で明らかにビハインドを背負っていた。
 山縣を指導する高野大樹コーチは4×100mリレー予選の走りを見て、「100mで課題だった2次加速の局面も、テレビ画面からタイムを測定したら悪くありませんでした。後半も減速することなく、100mを通して上手く走れていた。決勝はもっとよくなる」と期待している。
 全員の走りについては陸連が動画からタイムを測定して判断する。この選手の走りでは金メダルに届かない、と判断すれば、デーデー・ブルーノ(東海大)や山下潤(ANA)の投入があるかもしれない。走順の入れ替えはバトンパスの精度を高めるためにしない方針だが、どうしてもということであれば行うかもしれない。
 予選の走りではメダルには届かない。蓄積してきたノウハウを駆使しながら、攻めの姿勢でチャレンジするしかないだろう。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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