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【東京五輪陸上競技6日目(8月4日)注目選手】

予選では4分02秒33と世界レベルに迫る日本新
田中希実が女子1500m準決勝突破にチャレンジ

 大会6日目(8月4日)に日本選手が出場する種目は、午前中に男子110mハードル準決勝と男子やり投予選が、夜には女子1500m準決勝が行われる。男子110mハードルで日本人が決勝に進出すれば五輪初の快挙。今季13秒06の日本記録を6月にマークした泉谷駿介(順大4年)、4月に当時日本記録の13秒16をマークした金井大旺(ミズノ)に可能性がある。
 女子1500m準決勝には予選で4分02秒33のスーパー日本新をマークした田中希実(豊田自動織機TC)が出場する。準決勝突破に向け、田中はどんな戦い方をしようとしているのだろうか。

●予選で日本新を出せた背景は?

 予選で日本新を出した直後、田中はインタビューに「ずっと1500mにこだわってきました。ただ出場するだけでなくて、しっかり前を見据えて準決勝に駒を進めるレースをする。そこを目指してきて、実際にそういうレースをすることができました。今までの取り組みの成果が、やっと出てきているのではないかと思います」と話している。
 田中はものすごい数のレースに出場している。レース毎にテーマを持って臨み、速いイーブンペースを試したり、残り何周と距離を決めてラストスパートを試したりしている。
 今大会の予選では400 m(1周)が1分05秒7、800 mが2分11秒4の通過だった。7月17日のホクレンDistance Challenge千歳大会1500mで4分04秒08の日本新を出したときは、400 mが1分05秒、800 mが2分10秒と五輪予選よりも少しだけ速かった。そのペースに慣れていたことで余力が生じたし、後半は前に出た外国勢の力を利用して千歳大会より速く走ることができた。
 父親の田中健智コーチは次のように説明する。
「1周目は集団の中より、前を走ることになっても自分のリズムで走った方が燃費がよくなると判断しました。2周目は前に出てくれる選手がいてもよかったので、少し抑えることになり千歳より遅くなりました。国内大会では最後が1人になって力を絞り出す走りができなかった。そこを外国勢と競り合うことで、妥協のない走りができたのだと思います」
 3周目は千歳大会より約1秒、ラストの1周は3秒近く速いタイムで走り切り、日本記録を1.75秒も更新することができた。
 ラスト1周は62秒23である。田中は「スローペースのレースで61秒5」(田中コーチ)で上がったことがあるが、速いペースでは昨年8月に日本記録を更新したときの62秒90が過去最速だった。

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●5000m予選と1500m予選の間の2日間の練習メニューは?

 田中は大会初日に5000m予選に出場しているので、中2日で1500m予選を走っていた。
 5000mは14分59秒93(2組6位)と自己新で走ったが、1組10位の選手に0.38秒及ばず決勝に進出できなかった。2組の上位5人が強く、残り200mから引き離され、最後の直線に入ったところでは7~8m差をつけられてしまっていた。最後で絞り出すことができれば予選通過はおそらくできた。田中コーチは1500m予選後に「5000mの反省を生かすことができました」と話している。
 その5000m予選から1500m予選までの中2日間、田中はどんな練習をして連続自己新で走ることができたのだろう。5000mの走りで中・長期的な流れが問題ないことは確認できている。あとは直前の微調整だが、5000m予選翌日は早朝のジョグを選手村で行った。距離やペースなど走り方は、田中自身が決めた。午後は田中コーチも見守る中で40分ジョグ。「疲労を抜くこと。体を動かすことで老廃物を出すイメージで走る」ことが目的の練習だった。
 その翌日、つまり1500m予選の前日は、400m×3本の予定を変更して、500m×2本を100mジョグでつないで行った。
「400m3本はつなぎのジョグも入れると2000mになります。当初は1500m予選の夜に5000m決勝を走る予定だったので、5000mへの刺激として行うことに加えて、1500mの動きも入れるための練習でした。それが5000mはなくなったので、1500mの入りの500mと上がりの500mのイメージを作ろうとしました」
 500m2本を100mジョグでつなぐとトータルで1100m。レースの1500mより1周少ないが、スタート位置は同じで、最後の500mは第4コーナー(100mのスタート位置)からフィニッシュ地点までを走ることになる。本番をより具体的にイメージできるメニューで前日練習を行った。
 中2日のメニューより東京五輪を迎えるまでの数週間から数カ月、さらには数年間の取り組みで基本的な力はできているが、直前に何をやるかも詰めの部分で影響する。

●1500m準決勝を突破するための走り方は?

 1500m準決勝はどんな走りをするのか。田中コーチは「ラスト1周を60秒に近づけることが理想」だと言う。前述したように予選のラスト400mは62秒23だった。
 直近の世界大会である19年世界陸上ドーハ大会では、準決勝1組目はトップが4分14秒69で通過した5選手は57秒8~58秒7でラスト1周を上がっている。準決勝2組のトップは4分00秒99で通過した7選手のラスト1周は61秒5から62秒3である。ドーハの準決勝2組と、今大会予選の田中の組が似たタイムだった。
 つまり田中に準決勝突破のチャンスは十分ある。それは確かだが、3000m障害7位の三浦龍司(順大2年)がそうだったように、外国勢の本気のラストは数字以上の迫力がある。
「最後のスプリントだけでは太刀打ちできないので、スローにならないような展開にしたいですね。予選のように1周目でやりたいペースに持ち込むと思います。2周目以降は抜かれてもいいので、ラストに備えるために位置取りが大事になる」
 ラスト1周を60秒で走るためには、「周りのスパートに合わせず、トータルで60秒で走ることがベスト」だと田中コーチは考えている。外国勢のスパートにすぐに対応してしまうと、残り1周の後半で脚が止まってしまう可能性があるからだ。残り1周でスパートする外国勢に4~5m離されても、あきらめずに追う田中の懸命の走りが見られるはずだ。
 田中本人は準決勝への意気込みを次のように話した。
「予選もチャレンジしたからこその結果なので、準決勝も、どんな結果になってもいいので、とにかく今の自分の力を出しきりたい。もう1回自己ベストを出すくらいの、このままの勢いでいけたらいいなと思う」
 田中の武器であるチャレンジ精神が活路を開く。

TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト

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