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【全日本実業団山口ハーフマラソン2021女子レビュー】

安藤に届かずも筒井が2年連続2位
3位の原田はハーフ2大会連続の好走

 第49回全日本実業団ハーフマラソン大会が2月14日、山口市の維新みらいふスタジアムを発着点とする21.0975kmのコースで行われ、女子は安藤友香(ワコール・26)が1時間09分54秒で優勝した。筒井咲帆(ヤマダホールディングス・25)が昨年に続いて2位。3位に原田紋里(第一生命グループ・22)が続いた。
 3月の名古屋ウィメンズマラソン出場が判明している選手では、松下菜摘(天満屋・26)が4位、福良郁美(大塚製薬・23)が5位、小原怜(天満屋・30)が10位に入った。
 また、各チーム上位3人の合計順位で争われる団体戦は、九電工が合計順位「50」で優勝した。

●終盤で立て直した筒井は東京五輪に意欲

筒井咲帆@全日本実業団ハーフマラソン2021

 安藤が勝負に出た15km手前で引き離されたが、筒井咲帆は冷静な対処ができていた。
「脚が動かなくなっていたタイミングだったので、無理して動かそうとせず、少し待ってリズムを作り直してから追いつこうとしました」
 筒井本人は「立て直せたかわからない」と言うが、原田、松下と並走している間に、徐々に前に行こうとする動きになった。17~18km付近で「安藤さんに離されないことを意識して」走っていると、自然とペースが上がって2人を引き離した。
 だが、この日の安藤は強かった。筒井は20kmからの1.0975kmで差を4秒詰めたが、余裕で逃げ切られた。筒井は落胆した表情でフィニッシュした。
「悔しかったですね。今年こそ優勝する、という気持ちで練習に取り組んできましたから」
 筒井は全日本実業団ハーフマラソンで以下のような成績を残してきた。
17年・2位(1時間10分55秒)
18年・7位(1時間13分06秒)
20年・2位(1時間09分14秒)

「次こそは優勝します。勝つまでこの大会に出ます。コースも起伏がちょうど良くあって、景色も変わって、いつもは応援も多くて好きな大会ですから」
 来年のリベンジを誓ったが、その前に大きな目標がある。安藤と同様に筒井も、東京五輪に10000mで出場することを狙っている。昨年12月の日本選手権は31分36秒19の自己新で7位。8位の安藤に1秒52差で競り勝った。五輪参加標準記録の31分25秒00も手が届く範囲に来ている。
「日本選手権のタイムは自信になりました。今まで遠くにあったオリンピックが近づいています。今年5月の日本選手権では東京五輪を狙う戦いに加わりたいです」
 安藤との戦いも、3カ月後に舞台をトラックに戻して最終ラウンドを迎える。

●原田が最後まで崩れなかった理由は?

原田紋里@全日本実業団ハーフマラソン2021

 若手注目の原田紋里が1時間10分17秒で3位に入った。目標の1時間9分台は達成できなかったが、昨年12月の初ハーフ(1時間10分21秒)に続く好走だった。原田の安定した結果は、“急成長中”であることを示している。
 15km手前で安藤がペースを上げたとき、原田1人が「少し反応できたので」と食い下がった。「キツさはありましたが、ここで離れたらもったいない。せっかくなら挑戦してみよう」
 15.5km付近で引き離され、その後は筒井、松下と3人の集団になったが、筒井にも17~18kmで前に行かれてしまった。最後は松下とトラック勝負になり、ラスト100mで1秒競り勝ち3位を確保した。
「目標タイムには届きませんでしたが、最後まで崩れなかったのは収穫です。途中、キツさを感じましたが、折り返し手前で少し楽になったり、ハーフならではの感じも味わうことができました」
 苦しくなってから立て直せたのは、トレーニングの成果もあった。体幹トレーニングや練習前の動的ストレッチなど、地味なメニューも丁寧に行うことができる選手である。
「腰が反りすぎることで出ていた痛みが少なくなって、キツくなってからも少しは粘れるようになりました」
 昨年までトラックでは5000mが中心で、10月のプリンセス駅伝も1区(7.0km)を任されてきた。そのプリンセス駅伝でクイーンズ駅伝出場を逃した後は、チームの主力として10km区間も担う自覚が芽生えた。
 12月の山陽女子ロード、そして今大会とハーフマラソン2大会で、21.0975kmを走りきる確かなものを原田は体得した。ロードの10kmは33分13秒の自己記録を持つが、今季は初挑戦が予想される10000mのタイムにも注目したい。

●松下が4位。天満屋からまた有望選手

 ちょうど1カ月後の名古屋ウィメンズマラソンを予定している選手が多数出場した。その中でトップを取ったのが初マラソンを控えた松下菜摘で、1時間10分18秒の4位。トラック勝負で原田に1秒競り負けたが、後半の競り合いでは「積極的に前で走ることも頭に入れて行けた」と収穫があった。
「1週間前まで徳之島の実業団連合合宿でマラソン練習をしていました。その流れで、練習の一環としてハーフを走り、自己記録も約30秒更新できました。名古屋につながる走りだったと思います」
 天満屋は00年シドニーから21年東京まで、五輪6大会中5大会に代表を送り込んできた強豪中の強豪チーム。現コーチの山口衛里さんがシドニーで最初の代表になり、その山口さんが環太平洋大の監督時に育てたのが松下である。
 現在は山口さんを育てた武冨豊監督と山口コーチが一緒に、松下の指導にあたっている。名古屋の目標は2時間28分切りだったが、武冨監督は今大会の走りを見て、2時間25分台も狙えると松下に話したという。強豪・天満屋からまた1人、楽しみな選手が誕生した。
 マラソンで実績のある選手では、19年MGC3位で東京五輪候補選手(従来の補欠選手)となっている小原怜(天満屋・30)が10位、加藤岬(九電工・29)が11位、田中華絵(資生堂・31)が25位、岩出玲亜(東日本実業団連盟・26)が41位、リオ五輪代表の伊藤舞(大塚製薬・36)は42位だった。
 伊藤はリオ五輪時もそうだったが、五輪以降も座骨や足首の故障が続き、名古屋が4年ぶりのマラソンになる。練習は7位に入賞した15年世界陸上の「9割くらい」(河野匡監督)ができていたが、今大会はまったく走れなかった。
 だが、どの選手にもいえることだが、今回の出場が無駄だったわけではない。伊藤の収穫は「試合に合わせるところが、前と一緒のことをやっていてはダメだとわかった」こと。名古屋までの1カ月で、新たな調整方法を模索していく。

●マラソンに手応えを得た川内と夫婦ランナーの話題

川内夫妻@全日本実業団ハーフマラソン2021

 昨年12月の防府マラソンで2時間10分26秒と復調の兆しを見せている川内優輝(あいおいニッセイ同和損害保険・33)は、1時間03分21秒で81位だった。着順はよくないが、タイムで言えば自己記録の1時間02分18秒(12年)と約1分差。過去2年3カ月では最高タイムで、上り調子にあると判断できる。
「あわよくば1時間2分台を、と思っていましたが、昨年のびわ湖(2時間14分33秒)前のハーフより2分近く良いタイムでした。びわ湖では最低でも、サブテン(2時間10分未満)はいけます。上手くはまったら2時間8分台も」
 サブテンを実現すれば2年前のびわ湖以来2年ぶり。2時間8分台なら自己記録の2時間08分14秒を出した13年以来、8年ぶりになる。川内にとって全日本実業団ハーフマラソンが、大きなきっかけとなったかもしれない。
 妻の川内侑子(あいおいニッセイ同和損害保険。旧姓・水口)は、右足首の痛みで練習不足だったこともあり、1時間17分04秒で65位と振るわなかった。
 侑子はデンソーのクイーンズ駅伝3連勝(13~15年)に主力選手として貢献するなど、実業団選手としてトップレベルだった。14年以降は駅伝と並行してマラソンにも注力したが、6シーズン連続で2時間31~34分台と伸び悩んだ。今後も2時間30分切りを目標に走り続ける。
 今大会は12kmの折り返し後に男子と女子がすれ違う。男子日本人トップの市田孝(旭化成・28)が、女子の先頭集団とすれ違った際に妻の西田美咲(エディオン・29)に声をかけた(その時点で西田は集団にいなかったようだが)。そのエピソードを妻から聞かされた川内が次のように話していた。
「声をかけるくらいの余裕がないとダメなんだと思います。すれ違って相手を見つけられたら、(一瞬でも)苦しさを忘れることができ、リズムに乗れることがあるんです」
 今回は西田・市田夫妻、川内夫妻とも奥さんの成績が良くなかったが、次回は夫婦そろっての好成績も期待できそうだ。実業団トップレベルの大会でも、家族のストーリーが紡がれていく時代になった。

TEXT・写真 by 寺田辰朗


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