【READY STEADY TOKYO② 男子400mハードル3選手が五輪参加標準記録突破】
標準記録突破者最多の激戦種目になった男子400mハードル
法大からまた現れたホープ、黒川が五輪有力候補に
東京五輪のテスト大会であるREADY STEADY TOKYOの陸上競技(5月9日。東京・国立競技場)で、新たな五輪出場資格を得た選手が現れた。男子400mハードルで優勝した黒川和樹(法大2年)、2位の山内大夢(早大4年)、3位の豊田将樹(富士通)が東京五輪参加標準記録を突破。国内選考を勝ち抜けば、3カ月後に同じ国立競技場のトラックに立つことができる。
●前半型のレースパターンの黒川
黒川和樹が前半から積極的なレースを展開した。
6レーンに黒川、1つ内側の5レーンに参加選手中最高記録(48秒68)を持つ安部孝駿(ヤマダホールディングス)が入った。安部は前半から飛ばすスタイルで世界と戦っている選手で、世界陸上でも17年ロンドンと18年ドーハの2度、準決勝に進んでいる。
その安部を黒川が1台目からリードし続け、ホームストレートに入ったときは2位争いをする安部、豊田、山内を3~4mリードしていた。9台目以降で山内と豊田が追い上げたが、黒川が1m少しの差で逃げ切った。
黒川48秒68、山内48秒84、豊田48秒87と3人が東京五輪参加標準記録の48秒90を突破した。「標準まで切っているとは思わなかったので、喜びを爆発させてしまいました」と黒川。「風が(前半は)追っていたので、行くしかないと、流れを作って走ることができました」
今回は49秒45と終盤でスピードダウンしたが、すでに48秒80と突破済みの安部を加え、4人が東京五輪出場資格を持つ種目になった。
東京五輪から出場資格に世界ランキングが併用され、突破人数が少なくなるように、標準記録が以前より高く設定されている。代表が決定済みのマラソン・競歩種目を除けば、男子では100mと走幅跳、女子では5000mと10000mが3人だったが、今大会の結果で400mハードルが最多人数になった。
6月の日本選手権で3位以内に入った選手が代表に内定するが、標準記録突破選手が1人以上は代表入りできない激戦種目になった。
●為末大先輩の法大記録を目標に
黒川の急成長には、法大チームの環境が背景にありそうだ。この日3位で19年世界陸上代表だった豊田や、ロンドン五輪代表だった岸本鷹幸(富士通)、110mハードル日本記録保持者の金井大旺(ミズノ)らと同じグラウンドで練習する。
「冬期から47~48秒台を想定して前半を走る練習をしてきました。48秒68は今できる範囲では上出来だと思いますが、今日は9、10台目で(やりたい)形が崩れてしまった。そこを崩さずに走れれば47秒台も見えてきます」
47秒台は47秒89の日本記録保持者で、世界陸上銅メダルを2回獲得した為末大と、47秒93の歴代2位を持つ成迫健児の2人しか出したことがない記録である。そこを大学2年生の黒川がイメージできるのは、法大の先輩が為末47秒89(4年間では48秒47)、岸本48秒41、斎藤嘉彦48秒68と、在学中に47~48秒台を出してきたからだ。
黒川は為末の、1台目と2台目のタッチダウンタイム(リード脚の接地で計測する1台毎の通過タイム)を参考に練習しているという。
ハードル間の歩数は5台目までが13歩で、6、7台目を14歩(逆脚踏み切りが1回)、8~10台目を15歩と、為末と同じである。前半型の日本トップレベルの選手に多いパターンだが、6~7台目まで13歩を使う選手もいる。
「5台目のタッチダウンを21秒2か3で入って、14歩への切り換えもスムーズに行いたいと考えていて、今日はそこが決まりました」
為末は20秒8~21秒1で5台目を通過していたので、それよりは多少遅いが、為末と同じレベルに達したら世界と戦えるわけである。
上記の法大3人の学生時代のベスト記録はすべて4年時で、3年時までに48秒台を出したのは黒川が初めてになる。ちなみに斎藤の48秒68は日本人初の48秒台だった。93年日本選手権で開催場所は旧国立競技場である。それとまったく同じタイムを28年後に、新国立競技場で黒川が出した。
斎藤が48秒68を出したレースで一緒に、48秒台を出したのも法大OBの苅部俊二(当時富士通)で、現在は法大監督として黒川らを指導している。
「法大の練習をしていけば47秒台は出せると思う。自分も(強い)法大の波に乗って、その法大で一番強いのは自分だと胸に刻み、為末さんの法大記録(日本記録)を超えたいと思います」
法大の2年生で48秒台を出した黒川には、こう話す資格がある。
TEXT by 寺田辰朗
写真提供:フォート・キシモト