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"1日1万件" 韓国 最大級のPCR検査機関(2020年5月12日 JNNニュース)

徹底的なPCR検査の実施で感染者数を減らしてきた韓国。人員をかけずに検査を実現する「完全自動化」されたシステムとは?海外輸出も視野に入れた”検査キット”製造の最前線も取材しました。

「完全自動化」されたシステム

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防護服を装着する取材陣

ここは、23万7000件(5月10日現在)のPCR検査を実施してきた韓国最大級の検査機関。防護服に着替えて中へ入ります。

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”1日1万件”の検査を可能にするのは、自動化されたシステムです。

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「これでプレートに検査試薬を注入しています。1つのプレートで96人分を同時に処理できます」(シージェン医療財団 イ・ソンファ医師)

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スポイト状の装置がプレート上に96個ある"くぼみ"の一つ一つに自動で試薬を注入。続いて8本の“スポイト”が同時に動き、検体から抽出したウイルス遺伝子96人分を振り分けていきます。

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これを検査機にかけると・・・

「3つの遺伝子項目で全て陽性だと感染している」(シージェン医療財団 イ・ソンファ医師)

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表の1列目、2列目、3列目すべてが陽性(赤)だと感染

96人分の検体を同時に解析できる装置が、この施設だけで55台。1日に1万件の検査が可能で、かかる人手はわずか27人です

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こうした自動化された検査システムの活用を推し進めてきた人物がー

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「速やかに検査を受けてこそ、本人だけでなく家族や同僚、社会や共同体の安全を守ることができる」(5月10日 清州市)

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新型コロナ対策の司令塔、チョン・ウンギョン中央防疫対策本部長(54)。当初は黒髪で、顔もふっくらとしていたのが、最近は白髪が増えて、やつれた印象に変わり、本部長の激務ぶりを物語っています。

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チョン本部長は感染症対策の専門家でPCR検査の徹底などを進言し、ドライブスルー検査の導入などにも関与。献身的な働きぶりと着実な成果で韓国市民からの信頼が厚く、海外メディアも「韓国の“英雄”」と報じています。

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専門家の目線から必要な対策を迅速に取り入れ、感染者の減少につなげた韓国。しかし、人々の外出が増えたことで、ソウル市内のクラブで再び集団感染が起きるなど今も感染の“第2波”への懸念は続いています

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韓国内のこれまでの集団感染 計206人(5月21日正午時点 韓国中央防疫対策本部 発表)


「最も恐ろしいのは油断だ」。韓国で良く聞くこの言葉は、日本にも無縁ではありません。 

 PCR検査に欠かせない試薬を自国で生産 

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PCR検査に欠かせないのが、検体と混合して反応を起こし陰性・陽性を判断するための「試薬」です。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で入手が困難となっている試薬を韓国は国内で大量に生産し、確保しています。

韓国国内のPCR検査試薬シェア70%を誇る製薬会社「シージェン」。韓国で最初の感染者が確認された翌日(1月21日)から検査試薬の開発に着手し、韓国政府の承認を受けた2月中旬以降、24時間体制で量産を続けています。

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1か月あたりの製造量は、約2000万人分。そのわずか5%で国内需要を賄えるため、残る95%は海外向け。感染が広がるアメリカやイタリア、ブラジルなど62か国に計1200万人分を輸出してきました。

日本からも毎日数件の問い合わせがあり、日本政府が試薬に対する承認を出せば、すぐにでも対応できるといいます。

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製薬会社「シージェン」イ・デフン研究所長インタビュー

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製薬会社「シージェン」 イ・デフン 研究所長

Q.製造している試薬の95%を海外に輸出しているとのことですが、韓国国内向けの試薬は不足していないのでしょうか。

当初は人手と試薬原料の確保に苦労し、1週間あたりの製造量は20万人分でした。今は全く問題ありません。製造量も20倍以上に増え、十分に余裕があります。

Q.試薬の性能はどうですか。

国ごとに検査法や試薬の規格が違うので、他の国の検査試薬に比べて優れているかどうかを私たちが判断するわけにはいきませんが、感染症検査薬の開発を支援する非営利国際基金「FIND」の性能評価で、最高ランクの評価を得ています。

Q.各国からの輸出に関する問い合わせは多いのでしょうか。

沢山あります。政府から直接の場合もありますし、大使館経由、自治体、民間企業からの問い合わせもあります。

Q.日本から問い合わせはありますか。


毎日2、3件の問い合わせがあります。日本政府の許可がないと販売できませんが、許可がおりればすぐにでも輸出できます。試薬だけでなく、自動化された検査システムも合わせて提供しますので、大量のPCR検査実施が可能となります。

過去の教訓から生まれた"韓国の英雄"

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鄭銀敬(チョン・ウンギョン)中央防疫対策本部長は、医学部出身の保健官僚で韓国の感染症対策の第一人者です。

韓国政府が政治家ではないチョン本部長を司令塔に据えた背景には、2015年のMERS=中東呼吸器症候群の流行で38人が死亡、「迅速な検査が行われなかったことで感染の拡大を招いた」との批判をあびた苦い経験があります。その教訓から今回は、国内で新型コロナウイルスの感染者が確認された直後に、チョン本部長を抜擢。専門家の目線で必要な対策を矢継ぎ早に打ち出し、感染者の減少という成果につなげました。

そのチョン本部長、韓国市民からの人気も抜群です。記者会見で「睡眠は取れていますか?」と聞かれると、「1時間以上は寝ています。防疫対策本部の職員は、激務の中で良く耐えています」と回答。部下を気遣う姿に韓国市民の多くが共感し、チョン本部長が会見のたびに訴える「感染対策の徹底」を実践するようになったとも言われています。「チョン本部長の声は低く、物静かな語り口は、聞いた人に落ち着きと安心感を与える」との分析(音声分析専門家、忠北道立大チョ・ドンウク教授)まで出ています。


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取材:曽根英介 ソウル支局長

韓国では今、文在寅大統領の支持率が急上昇、今月上旬の世論調査では70%を超える支持を集めています。その理由が新型コロナ対策。「ドライブスルー検査場の導入」や「監視カメラや携帯電話の位置情報を用いて収集した感染者の移動経路の公開」など"韓国ならでは"の対策が話題となりましたが、その根幹を成すのが「徹底的なPCR検査の実施」です。「なぜ韓国は大量の検査をできるのか?」という素朴な疑問から取材要請を続け、ようやく取材許可が下りたのが4月下旬。検査の一部始終を目にして何より驚いたのは、わずか27人で1日1万件の検査を可能とする、自動化された検査システムでした。この検査能力を背景に、韓国政府は感染者と接触した可能性のある人は熱などの症状がなくてもPCR検査を受けるよう呼び掛けています。感染の芽を着実に摘む方法で感染者を減らしてきた韓国。それでも外出自粛要請の解除後にクラブで集団感染が起きるなど、感染の"第2波"への懸念が続いています。緊急事態宣言が全面解除された後、日本はどう対応するべきなのか。国によって事情は異なるとはいえ、各国の感染対策の現場を「見て」「知る」ことは重要ではないでしょうか。

プロフィール

2005年入社。政治部、社会部、経済部、Nスタ、報道特集を経て2018年夏から現職。



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