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感染者を看続ける介護施設の苦悩

コロナ渦の中、集団感染が起きた介護施設の訴えです。入院できる病院が足りず、感染した高齢者を、施設の中で看続けざるを得ない状況に追い込まれていました。(JNNニュース 5月29日放送)

ここは関東地方にある介護老人施設です。

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感染拡大前、入所者が、食事やレクリエーションなどをしていたスペースは、いま、がらんとしています。

「密接」を避けようと極力、個室から出ないようにしているためです。家族の面会も禁止。今回の取材も撮影は施設長が自ら行いました。

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介護の職員も完全防護の態勢で臨んでいます。

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おばあちゃん:
じっとしてると寒いんです。

介護士:
それで歩いてらっしゃたんですか。

入所者の中には認知症の人も少なくありません。

頻繁に鳴るナースコールで職員は利用者の元へ。職員はおむつの交換などにも追われます。

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この施設で、新型コロナウイルスの集団感染がおきました。陽性が確認されたのは、利用者と職員合わせておよそ20人。事態をいっそう深刻化させたのは病院が足りないという問題でした。

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施設長:
(保健所から)なんとか施設の中で封じ込めなさいと。入院で看ることは、ベッドの数的に厳しいので難しいですという話で。

感染した高齢者を、この介護施設で見続けるしかない状況に追い込まれたのです。

感染した人は、部屋の名札に赤いテープで目印をつけ。

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他の入所者が立ち入らないように、ホワイトボードなどでバリケードを作りゾーン分けを行いました。

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この介護施設にも医師や看護師はいますが、人数は少なく、医療が専門ではない介護職員が多くの対応に当たらざるをえませんでした。

施設長:
特に食事のときはむせたりして(二次感染の)危険性があると。トイレの排泄物の処理とかは便の中にもウイルスがあるといわれている。

そして、こんな状況も。

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施設長:
陽性者が出たことで、外部の業者がどんどん手を引いていくわけです。清掃業者がそこは清掃できませんと入ってこなくなったり。シーツとか着た物のクリーニングとか普段と同じようにできなくなってしまって新たな業者を探すとか、どんどんやる作業が増えていった。

最初の感染判明から20日以上が経って半数は病院に移ることができました。残った人の中には、陰性が確認されて、一般のスペースに戻った人もいますがいまも2人が隔離されたままです。

施設長:
ここがレッドゾーンの入り口。

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机で作ったバリケードの奥にその2人の部屋があります。

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そして、重い事実が・・・。

死亡したのは5人。このうち4人は入院先が見つかる前に亡くなりました。年齢や持病などを考えると入院できれば助かったとまではいえないとしながらも・・・。

施設長:
職員にしてみると下手すると自分の家族よりも長い時間を一緒に過ごしていた可能性があるんですね。自分の家族を亡くしたよりもつらかったというかですね。そのようなことで泣き崩れている姿を見て。

来たるべき第二波に備えて入院先の確保を急いで欲しいと施設長は話しています。


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(写真:右上がテレビ電話をつなぎリモート取材中の岸記者)

今回の取材は感染拡大防止の観点から私やカメラマンは施設の中に入らず、私と施設長を携帯のテレビ電話で繋ぎ、撮影を施設長に行ってもらうという「リモート取材」でした。記者は自分自身の足で現場に入るのが基本です。しかし、それができない。すごくもどかしくもありましたが、このような状況でも施設の現状をしっかりと伝えるために考えた末の決断でした。施設長は仕事の合間を縫って撮影の時間をとってくれました。途中、電波状況が悪くなり映像が映らないハプニングも・・・。しかし、どう撮影すればいいか、どのようにすれば伝わるのか相談し合い、何度も何度もやり直しをしながら撮影しました。慣れない中でも必死に撮影を行ってくれた施設長、そこには現状をなんとしても伝えたいとする思いがあったからだと思います。私自身もその思いになんとか応え、見る人に施設の現状を理解してもらおうと必死に取材を行いました。

今回行ったリモート取材のように、コロナで取材方法も大きく変わりました。しかし、このような状況の中で発見もありました。

リモート取材で私は職員が利用者を介護する様子の撮影をお願いしました。施設長が携帯のカメラを向けたのは、おむつ交換などの介護の様子ではなく、フロアを一人で歩いていたおばあちゃんに介護士が声をかける様子でした。カメラをむけた施設長と介護士とおばあちゃんの何気ない会話です。
介護士の手はそっとおばあちゃんの肩や腰に添えられていました。施設長は「利用者と意思疎通して寄り添う。それが介護」と話しました。介護士と利用者が寄り添う映像、施設長が撮影をするからこそ、このやりとりは撮影できたのかもしれません。

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取材 岸克哉記者

1987年生まれ。大阪府出身。2019年、TBSテレビ入社。社会部・司法クラブ担当(今回は新型コロナウイルス取材応援として協力)

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