見出し画像

今さら聞けない「イギリスのEU離脱」

「そもそもEUって?」

ヨーロッパ28か国の連合です。ヨーロッパ大陸は、二度の世界大戦で国土が荒廃、夥しい死者が出たことから「ヨーロッパを“一つの国”のように統合して、争いを無くす」という考え方が出てきました。いくつかの「前身組織」のあと、1993年に発効した「マーストリヒト条約」をもって、この「統一ヨーロッパ」の考え方を現実にしたものがEUです。

(現在の加盟国:フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、イギリス、アイルランド、デンマーク、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、スウェーデン、フィンランド、ポーランド、チェコ、スロバキア、スロベニア、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、マルタ、キプロス、エストニア、ラトビア、リトアニア、クロアチア)


「EUの単一市場って?」

28か国を、一つの国ように扱って、人の行き来や物の売り買いを簡単にしようというシステムです。

EU加盟国の間では、人・物・お金・サービスの4つの「移動の自由」の原則があります。

人・・・たとえばポルトガルの人がデンマークに引っ越してそこで働く、といったことは自由にできます。引っ越し先の加盟国の社会保障を受けることもできます。

物・・・加盟国の間での輸出入には関税はかかりません。例えばスペイン産のトマトをイギリスに輸入する際にも関税はゼロです。

お金・・・他の加盟国への投資や送金、現金の持ち出しなどに制限がかかりません。

サービス・・・サービス業は加盟国をまたいで開業し、サービスを提供することが自由にできます。例えばドイツの旅行会社がポルトガルに事務所を開いてツアーを売ることが自由にできます。


「なぜイギリスはEUを離脱することになったの?」

2016年6月に実施された国民投票で「離脱」が51.9%と、「残留」の48.1%を上回ったためです。


「なぜ国民投票をしたの?」

保守党内の対立に決着をつけるためだった、とも言われています。キャメロン首相(当時)はEU残留派でしたが、保守党内には以前からEUに対して批判的な「EU懐疑派」と呼ばれる人々がいて、ことあるごとに党内の対立が問題化していました。その一方でEUや移民に批判的な「イギリス独立党」が支持を伸ばしていました。

2015年の選挙を前にキャメロン首相は、この「イギリス独立党」に保守党の票が奪われる、との懸念もあって、公約の一つに「EU離脱を問う国民投票」を掲げ、EU嫌いの有権者の支持を取り付けようとしました。

この選挙で勝ったキャメロン首相は公約通り国民投票を設定して、自らは「EU残留」を訴えて党内の議論に終止符を打とうとしました。ところが結果は「離脱」が多数となりました。キャメロン首相の目算が狂ったわけです。


「なぜ離脱が多数になったの?」

イギリス国民の様々な不満が溜まっていたからです。一つは移民の増加。
EU内は人の移動が自由です。EUが東ヨーロッパ諸国に拡大するにつれて
EU圏内の平均所得が低い国からイギリスに働きに来て、お金を稼ぐ人たちも増えました。それにつれてイギリスでは、「低い賃金で働く移民が大量に入ってくることで職が奪われたり、平均賃金が下がったりする」「移民労働者たちがイギリスの社会福祉・教育など公的サービスを吸い取っている」
といった論調が増えてきました。

もう一つは「主権」がないがしろにされている、という不満。EU加盟国はEUが決めた法律(EU法)に従わなければなりませんが、「なぜ(EUの本部がある)ブリュッセルで決められたことにイギリスが従わなければならないのか」という不満も、溜まっていました。

加えて、「残留」を呼びかけたキャメロン首相やオズボーン財務相(当時)への反感、という面も見逃せません。キャメロン首相らは2010年の就任以来、財政再建のために緊縮策を続け、様々な公的サービスを削減してきました。これに対する不満の表明、つまり「保守党エリートのやること」に対する“反乱”という動機から「離脱」に投票した国民も多かったとされます。

地理的・世代的な差もありました。首都ロンドンでは残留支持が多数派でしたが、イングランドの地方では離脱支持が多数を占めました。若者は残留を支持しましたが、高齢者は離脱を支持しました。


「メイ首相の立場は?」

メイ首相は2016年の国民投票の際にはEUへの残留を支持していました。
現在は、EU離脱は「国民の意思」だとして、離脱のためのEUとの交渉を進めています。「残留」に投票した人々を中心に、“EUとの交渉がまとまった段階で、その結果をもう一度、投票にかけるべき”との意見も根強くありますが、メイ首相は否定的です。一方、保守党内の強硬派は、「メイ首相の離脱案は弱腰で不十分」と批判しています。


「イギリスはいつ離脱するの?」

予定通りなら、2019年3月29日午後11時(日本時間30日午前8時)をもって、イギリスはEUから離脱します。現在、離脱後にEUとどういう関係を結ぶかについて交渉中ですが、何らかの合意に達すれば、1年9か月(2020年12月31日まで)の「移行期間」が設けられることになります。交渉がうまくいかなければ、イギリスは3月29日をもって単なる「非EU国」になります。


「離脱すると何が変わるの?」

今、まさにイギリスとEUが交渉しています。イギリスはEUから来る移民の数を制限しつつ、別に自由貿易協定などを単一市場へのアクセスを何らかの形で維持したいのが本音ですが、EU側は「いいとこ取りは許さない」というスタンスで、どう決着するかは予断を許しません。

イギリス政府は「合意は可能」としつつも、合意できなかった場合に何が起きるか、についてのガイダンスを出し始めています。「これまで不要だった通関手続きが必要になる」といった基本的なことから、「旅行でEU加盟国に行く際、クレジットカード手数料や携帯のローミング料金が高くなる可能性がある」といったことまで解説されています。