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舞台挨拶『アフガン・ドラッグトレイル』 須賀川監督「まるでマッチポンプ。紛争地域や貧困地域を取材するたびに、自分たちが作った問題を自分たちで撮りに行くような感覚に襲われる」

昨年劇場公開された『戦場記者』の須賀川拓監督による最新作『アフガンドラッグトレイル』は、タリバン政権下のアフガニスタンで行われる薬物中毒者の取り締まりと同国の闇に迫る。
 
映画祭初日に上映を迎えた本作の上映後には、中東調査会主任研究員の青木健太、政治評論家のナザレンコ・アンドリー、TBSテレビ外信部長の秌場聖治、そしてイギリスからリモートで須賀川拓監督が舞台挨拶を行った。

青木氏は本作について「印象的だったのは『希望が見いだせない』と言っているところ。タリバン政権下では女性は小6を過ぎたら教育制限をされるなど、未来を見通せない。しかし前政権時も状況が良くなっていないという意味では、この国の歴史的背景や歴史的背景を知ってみるとより深みを持って見られるはず」とアピール。
 
ウクライナ出身のナザレンコ氏は「戦争報道を見るとミサイル攻撃などの物理的戦いが映るが、戦争とは病死、凍死、PTSD、障害、貧困、麻薬普及をもたらす。この作品はいかに戦争が社会構造に害を与えるものなのか、とてもよく表していました。そして同国での麻薬問題は根深く、根本的解決をしなければと痛感しました」と絶賛していた。
 
一方、秌場氏から「一番緊張した瞬間は?」と問われた須賀川監督は「夜の摘発の際には暗くて人の表情が見えないが、明るいところに行って改めて人々の表情を目の焦点が合っていない。こちらを襲ってくるのか、襲ってこないのか…。その心がまったく読めない。薬物がもたらす底知れぬ恐怖を突き付けられた気がした。彼らを救うにはどうすればいいのか?考えても答えが出ないのが苦しかった」と打ち明けた。
 
青木氏は「タリバン政権下ではけし栽培は全面禁止だが、その活動資金の多くが薬物であるとの報告もあり、国として4億ドルくらいの収入になっているようだ。しかもけしは換金作物と呼ばれ、簡単に育てられて現金収入にも繋がる。そうなると農家は続けたい。しかしタリバンの最高指導者は禁止だという」と同国が抱えるジレンマを紹介。
 
須賀川監督も「青木さんの仰る通り、農家の現金収入は薬物で彼らにはそれ以外の収入がない。言葉は悪いが、彼らからそれを奪うと多くの人が職を失い、路頭に迷い、死んでしまう。しかもタリバン政権は麻薬に変わるものを提供できずにいる。それだけ薬物のシステムが根深いということ」と解説した。
 
最後に須賀川監督は「アフガンは帝国の墓場と言われている。西側諸国が来てメチャメチャになった国を蝕む薬物は西側に流れ、我々は西側諸国が作ったカメラを持って取材に訪れる。これではまるでマッチポンプだ。紛争地域や貧困地域を取材するたびに、自分たちが作った問題を自分たちに撮りに行くような感覚に襲われる」と明かし「我々先進国の人間ができることは、そういった国の問題は他人事ではないと捉え、いい方向に導くようにするのが大切だ」と訴えていた。
 

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