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その声は、父であり、恋焦がれるものでもあった

年の瀬という意識も強く、今年というものをふと考え直す。
残念ながら明るいとは言えなかったこの一年で思い浮かぶのは、命である。

身近で初孫が生まれた家族がいた。私もそんな報告をしてもおかしくない年齢なのだな、とも思うが、子供を育てる重みを背負えるだけ私に力があるのかはわからない。だからそんな報告もまだまだ先なんだろうけど、体力が有り余る子供の相手をするなら若いうちに子育てをしたほうが良いとも思う。なんにせよ子供は可愛い、とは思うが、我が子となるとそれだけでは済まないのだろうな、と漠然と考える。

誕生の喜びの声もあれば追悼の涙も当然ある。

著名人でいえば、志村けんさん。コロナで惜しくも帰らぬ人となってしまった。また、三浦春馬さん、芦名星さん、竹内結子さんなど、コロナで拍車がかかった鬱屈とした世の中の深淵を覗いてしまったのか、生きる道からは離れてしまった。

私が印象深かったのは声優・藤原啓治さんの死である。藤原啓治さんの声は物心つく前から聞いていたかもしれない。『クレヨンしんちゃん』に登場する野原ひろしはやんちゃ盛りのしんのすけの父、なんてのは日本中の常識かもしれない。足が臭いことが代名詞?のひろしを演じていたのが藤原啓治さん。野原ひろしと私は同じ秋田出身で、それを知ってからより身近に感じた。いつだかの映画のパンフレットには出演声優陣の写真が載ってて、声優という存在を意識する前に中の人というものを知ったきっかけにもなった。あと、今のパートナーが熊本出身なのでこれで結婚とかしちゃったら逆野原一家だなあ、と思ったりもした。

すぐ思い当たる役は野原ひろしくらいしかないけど、藤原啓治という名前は知っている、という状態がオタクになる前の私だった。そんな私は、環境の変化とともにオタクとなり、2011年に数々の作品と出会う。

ひとつは『TIGER & BUNNY』。通称・タイバニと呼ばれる作品は、自身に備わった異能力を使って街を守るヒーローたちの物語。2011年4月から放送されたが、私が視聴を開始したのは評判を聞きつけてからだったので2ヵ月くらい遅れての視聴開始だった。タイバニで藤原さんは敵のジェイクを演じている。野原ひろしとは違う圧倒的悪役、強そうな、悪そうな印象にゾクゾクした。これでしっかり声優・藤原啓治を認識できたと思う。

もうひとつは『青の祓魔師』。通称・青エク。悪魔が蔓延る世界でサタンと人間のハーフとして生まれ、サタンの炎を宿しながら悪魔を祓う祓魔師(エクソシスト)になるべく学び戦う少年の物語。藤原さんは主人公・燐とその双子の弟・雪男の父親・獅郎を演じている。しがない神父かと思いきやその実、「聖騎士(パラディン)」の称号を得た最強の祓魔師。だがその強さをサタンに狙われ、憑依されてしまう。我が子を守ろうとサタンに奪われつつある意識の中で自害を選ぶ。登場時は茶目っ気の強いおっさんなんだけど最期がかっこよすぎる。そんな振り幅は藤原さんだからナチュラルに聞こえるのかもしれない、と思った。

これらの作品で、父親のような包容力もありながら、鋭い悪役もこなし、男性としてもかっこいい演技を魅せてくれる、という印象を藤原啓治さんに持った。

藤原さん出るじゃん見なきゃ!!と思った作品も多数。『BACCANO!』、『荒川アンダー ザ ブリッジ』、『デュラララ!!』、『HUNTER×HUNTER』、『ジョジョの奇妙な冒険』、『進撃の巨人』、『血界戦線』、『監獄学園』、『ダンガンロンパ3』、『Back Street Girls -ゴクドルズ-』、『Dr.STONE』など、挙げたらキリがなかった。

アニメだけじゃなく、アプリでも。
『夢王国と眠れる100人の王子様』っていうパズルゲームがあるんだけど、そのおっさん王子枠に藤原啓治さんのキャラがいて。欲しくてめちゃくちゃガチャ回したし、育成もすごいした。

あと、PSPで発売された『ファイナルファンタジー零式』。このゲームが好き!!というのは以前の記事でも触れている。

このゲームを手に入れたいと思った理由はキャスティングが大きい。小野大輔さん、神谷浩史さん、杉田智和さん、中村悠一さん、花澤香菜さん、沢城みゆきさんといった当時大好きだったキャラクターがメインキャラの声だったし、神谷さん演じるキャラの兄が藤原さんだった。その兄が物語の発端となる。オープニングムービーとして彼の姿を見ることができるのだが、冒頭からボロボロ泣ける。この演技がまた素晴らしい。はあ、やっぱ好きだわ、と思った。

洋画の吹き替えでも活躍されていた。ロバート・ダウニー・Jr.の吹き替えと言ったら藤原啓治さんだった。アイアンマンのトニー・スターク。アイアンマンを観ていない私でさえ知っている。

訃報を聞いてから、母も私以上にオタクのため親子で意気消沈した。しばらくは作品に触れることもできなかった。しかし、1ヵ月程経ってからだろうか。どうも藤原さんの声が聞きたくて、でも声を聞いて元気になりたいわけでもなくて、クレヨンしんちゃんのロボとーちゃんを母と見た。内容も相まってクライマックスは泣きっぱなしだった。

6月に入ってからだろうか。コロナのせいで公開が延期になっていた『ドクター・ドリトル』が放映となり、あまり映画を見に行かない私だったが予約を入れた。当然吹き替え。パンフレットも購入して、観客がまばらな映画館で、動物たちとの面白おかしいやりとりで軽妙にストーリーが進んでいくのを眺めながら静かに涙していた。共演されている声優さんたちも他のアニメだったりで共演歴のある方ばかりで、映画を見ながら違う作品の印象深かったシーンとか思い出したりして、もう新しいものは見られないんだな、聞くことができないんだな、と涙が止まらなかった。

不意打ちで月刊アイアンマンのCMをみたり、たまたま見ていた『無能なナナ』で藤原さんの声が登場したり、どれが最後なのかわからないほど、最後の最後まで声優でいてくださいました。あくまでいち視聴者としての感覚でしか述べられないのが悔しいくらい、声優として、役者としての痕跡を日を経るほどに感じます。

本当に、いろんなキャラクターを輝かせてくれてありがとうございました。
これからもいろんな作品を通して、いろんなキャラクターを通して、藤原啓治さんという素晴らしい役者さんを深く愛していきたいと思います。

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