縦型『映画』についての考察
Tiktokの広報にて、映画会社の東宝がTiktok社と提携して、縦型動画の映画祭を実施することが発表されています。
縦型動画向けの映画祭は過去にすでに登場しています。ロサンゼルス映画祭や、日本でも短編映画の映画祭で有名な「Short Short Film Festival」が前田裕二氏のシアターアプリ「smash.」と提携して実施されています。
また、縦型動画への映画人の参入という意味では、LINEがLINE Newsをプロットフォームとして提供している「VISION」があります。VSIONでは、若手の映像作家や、「リリィ・シュシュ」や「スワロウテイル」で有名な岩井俊二氏が参加し、縦型動画を活かした映画を公開しています。
そんな中、日本映画会社の中で最大の東宝が、縦型動画に進出してきたことは、今後、映画の形態として今後縦型が進んでいくことを確実にしています。
今回は、そんな縦型に撮影された映画について、上記LINEのVISIONの作品を見て感じた特徴を記載します。
画面の真ん中に人物を配置することに違和感がない
横型の画面の映画の場合は、人物はど真ん中に置かないことがセオリーでしたが、縦型では逆にど真ん中に置くこと肖像画やファッション雑誌の表紙のような美しい絵になります。
また、役者の全身をカメラが寄った状態で映すことができるので、身体表現として体全体を利用した表現が重要になってくる気がします。そうすると役者の身長も重要になってくるかもしれません。
(カメラの特性上、ズームアップすると横も縦も画角が狭くなる。そのため、横型で役者単体のアップの場合、全身を写すことはなかったかと思います。)
俯瞰のアングルは美しい
縦型の表現として絵画については、昔からありましたが、その絵画の技術をふんだんに使える構図が俯瞰になると思います。
俯瞰であれば、奥行きが作れない一方で、平面上には物理的な制約をほとんど気にせず、モノが自由に配置でできるためです。
そのため、俯瞰の絵については、まるで絵画のような美しい画が描けます。
縦型映画で、美しい映像を撮るために、絵画技術を活かした俯瞰構図が有効的に使われると考えます。
役者を横に並べて配置できない
こちらは映画作りにおいてかなり強い制約になると思います。画面の横幅が狭いため、事物をバストショットで収めるなら一人ずつになってしまいます(密着した状態なら二人)
なので、会話劇は必ずカットバックになり、自然な会話や静かなテンポの会話は描きづらくなります。
常に画面に映るものに注目する
人間の視野は横に広いため、いくら画面が縦に伸びようが横幅が狭いと、画面にに映るものに「注目」してしまいます。
今まで映るものに注目させるための撮影技法がズームアップでしたが、縦型映画は、常にズームアップしているような状態になってしまうのではないでしょうか。
カメラパンが使いづらくなる
三脚を軸に、カメラを横に振る撮影方法をパンといいます。
カメラパンは、画に動きを出して視聴者を飽きさせないためや、登場人物の視線を描いたり、視聴者の視点を誘導して、その動いた先に意外な自分を登場させて驚かせる、などを表現するために使われます。
ただ、縦型動画の場合、横幅が狭いので、ちょっとした移動でかなり画面が動いてしまいます。
結果として、人の視点には近く臨場感が出るが、動きが激しくなり視聴者が画面酔いをする可能性があると思います。
そう考えると、今までの映画のように多用することは少しむずかしいかなと思います。舞台の全体像を映す場合は、パンよりは、ドリーによるカメラの並行移動などが主体になっていくのではないでしょうか。
他にも横型との違いはたくさんありますが、上記特徴によって縦型映画は、「より臨場感の高い映画、登場人物が少なく狭いセカイが舞台の映画」になるのではないかと思います。
そう考えると、あまり長尺の映画は作られないかもしれません。視聴者が疲れちゃいますものね。
当たり前の話かもしれませんが、そもそも映画や舞台の作品が横型しかないのは、今まで物理的なプラットフォームが横型しかなかったからと思います。(映画のスクリーンの比率のがどのように移り変わってきたかは下記記事が参考になります。)
そこにスマートフォンという媒体が登場して、縦型動画が多く出てきて、映画業界もそれにあやかりに来ている状態になります。
横型映画に縦型映画が取って代わるとは思えませんし、今から縦型の箱(劇場)を作る投資効果もあまり想像できないで、しばらくの間は、映画といえども、やはり主戦場はスマートフォンになるのかなと思います。
(VR/ARによって目の前に自由に巨大スクリーンが出せるようになれば、また縦型動画、もしくはもっと様々な画面の形の映画の可能性は広がってくると思います)
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