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溶ける地方創生マネー喰われる自治体(週刊東洋経済)を読んで思ったこと

週刊東洋経済(5月11日発行)のテーマが「溶ける!地方創生マネー喰われる自治体 コンサルが行政を支配 地方創生の虚構」でした。これは地域界隈ではちょっと話題になっていましたが、これについて僕の考えをまとめてみました。

僕は”地域のことは地域でやるべき論者”です。その理由を3つにまとめました。
①     都市部の企業よりも地方の企業が受託したほうが“乗数効果”が高い
②     効果が小さくても知見が地域に溜まり長期で回収可能
③     地域自決権を最大限に行使する地域が増えてほしい


①  都市部の企業よりも地方の企業が受託したほうが“乗数効果”が高い

 行政予算が効率よく使われているかを計る指標に“乗数効果”というものがあります。自治体が何かを支払った場合、その直接の支出だけでなく、それが地域内で再循環することでさらなる経済活動が起こり、初めに自治体が支出したお金以上の需要が発生する現象をいいます。そしてこの乗数効果は都市部の企業に発注するとほとんど発生しません。例えば地方の自治体が観光PRの仕事を1000万円で東京の広告代理店に発注するとします。そうするとまず地域からまると1000万円の経済が失われます。時々出張で来て宿泊や飲食に使ったとしても地域で使われるお金は50万円にも満たないでしょう。スタート時点で950万円が地域から消滅します。その後、業務の中でPR動画や広告のバナー制作を担うのも都市部のクリエーターになります。なぜなら東京の広告代理店には地域のクリエーターとネットワークが無いためです。つまり地方自治体から消失した1000万円は東京周辺の関係者を潤わせ最終的には会社の利益と東京都への納税に落ち着きます。

 しかし、この仕事を地元の広告代理店が受託するとまず1000万円が地域に残ります。制作物は地元のクリエーターに発注され、地元の印刷会社に発注され、地元飲食店で打ち上げが行われます。社員の給料は地元スーパーでの買い物や子育て資金にまわります。最終的には地元企業の利益になり、法人税住民税や住民税、(軽)自動車税、固定資産税などの地元税収として回収されます。

 つまり乗数効果は都市部の企業に発注した時点でほぼゼロですが、地元企業に発注した時点で1以上の効果が発生します。

②  知見が地域に溜まり長期で回収可能

 2つ目は知見やノウハウが地域に蓄積されることです。どの事業でも言えることですがうまくいくこともあればそうでないこともあります。仮に想定通りに進まなくてもプロジェクトの過程で生まれる知見やネットワークにも価値があります。地元企業が受託して良い結果とならない場合はその反省が次に活きます。
 例えば地域でのプロジェクトではローカルルールの把握は必須です。一つの観光地を取り上げる場合はもう一つの観光地も取り上げないといけない、とかあの団体のあの人には事前に話をしておかないとプロジェクトが止まる、みたいな超ローカルルールを踏まえたプロマネは現地の知見の賜物です。東京の代理店はそもそもそんなルールが存在することすら想像できません。 

  地域はずーっと昔から未来に向けて連続的につながっています。1年だけであれば地元企業でも、都市部企業でもどちらが受託しても大きくは変わりませんが、むこう100年を見た場合、地域内にプロジェクトの知見・ノウハウが貯まるかどうかは大きな要素です。ローカルルールを把握できる地元企業の役割は大きいのです。

③    地域自決権を最大限に行使する地域が増えてほしい

3つ目は地域のことは地域で決めるべきだという僕の勝手な想いです。
地域の観光戦略策定を東京の企業に外注したり、もっと言うと地域の総合計画まで外注したりしている地域に未来は無いよね、と思ったりしています。もちろん戦略の作り方のアドバイスや、データ分析の一部を委託することは現実的には仕方ない部分もあります。しかし地域の戦略策定をまるっと任せて、出来上がった戦略書(っぽいもの)にお金を払っている地域によい未来が待ってるとは思えません。自分たちの地域がどうありたいのか、そのために何をすべきで、逆に何をすべきでないのかを徹底的に考え尽くして議論して、時には地域内でハレーションが起ころうとも作り上げる過程にこそ価値があると信じています。

 民族自決主義という概念があります。「各民族・人民が,みずからの意志によってその運命を決定するという政治原則(Wikipediaより)」とあります。これは地域でも同じことが言えると考えています。自分たちの地域の計画から戦略までを丸投げして無批判に受け入れている地域はもはや植民地ではないでしょうか。ちゃんと独立しましょう!自ら植民地の道を選ぶような地域に発展する未来はありません。

地域経済の循環を高めるために大事な”輸入置換”

 10年前から始まった地方創生予算は60%ほどが都市部のコンサルに還流していきました。しかし都市部コンサルの成果物を見た地域の人達、Uターンした人が「この程度のクオリティなら私でもできるんじゃね?」と思って自ら受託するケースが最近増えてきているように感じます。これまで外注していたものを地域内で内製できると地域の経済循環率が上がり、経済発展で重要な“輸入置換”が起こります。

数年前に「地元が好きで地元の魅力をPRしたいから東京の広告代理店に就職します!」と言って大手広告代理店に就職した大学生がいました。地元が嫌だから東京に行くのではなく、地元が好きだからこそ東京に行かざるを得ない状況を目の当たりにして「せめて地元が好きな人が地元に残れる環境を作ろう」と思い会社を経営してたりもします。

最近は心ある自治体職員から「昨年、東京の会社に委託した結果ひどいことになっているから来年の公募にでてほしい」と”密告”いただくことも増えてきました。(ホントありがとうございます!)

2013年に「消滅可能性都市」が発表されその反響の大きさから地方創生事業が始まりました。2024年にも第二弾が発表されました。地方創生パート2が始まるかどうかは分かりませんが、この10年で地域内で事業が遂行できるように変われた地域か、それとも都市部のコンサルに丸投げせざるを得ないままの地域かが地元の未来の分水嶺ではないかと思っています。

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