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選挙で組織票が機能しなくなった背景をまとめてみたよ

 2022年の宮崎県知事選挙は全国から注目を集める選挙となりました。4期目を目指す現職、元タレントで圧倒的知名度を誇る元職、ワン・イシューで臨む奇抜な新人の3人が立候補しており、誰が当選するかは最後まで読めない状況でした。

これまでの選挙は「組織を固める」ことが定跡でした。「組織を固める」とは政党の地元支部や地元業界団体を味方につけることで、政党の県連を通して党員に投票を呼びかけたり、業界団体に属する会社の朝礼で従業員に政策を訴える時間をつくってもらいます。今回の宮崎県知事選挙では現職知事には与野党!?の宮崎県連や経済系団体が支持を表明する盤石な組織選挙戦を築きました。

しかし、今回の選挙ではその定跡が機能しませんでした。実はお隣の鹿児島県知事選挙、鹿児島市長選挙でも与党が公認し、大きな業界団体も支援した候補者が落選する事態が立て続けに起こりました。なぜ組織票が機能しなくなってきたのでしょうか

 理由は大きく4つあるのではないかと思います。2009年と2021年のデータを比較してみます。本当は過去30年くらいの変化で比較したかったのですが、適当なデータが見つからず、13年というなんとも微妙な期間での比較になりました(苦笑)

① 引退した人の投票割合が増加している

まずは、そもそも投票に行く人働く世代が減少しているという事情です。以下の図は2009年と2021年に行われた衆議院選挙での各年代の全投票数に占める割合です。

総務省選挙部の公開データを筆者が編集

2009年は現役世代の投票が全投票数のうち2/3を締めていましたが、直近の2021年では半分強となっており、このたった13年で約10%が引退した世代の票になりました。
 引退したということはつまり会社や組合等から投票要請は(正式には)来ません。また業界が恩恵を受け自分の給料が増えることもないので個人が自由に投票できます。よって組織票は弱くなります。

② 政治と結びつきの強い業界で働く人が減っている

建設・土木業界や一次産業は政治との結びつきが強いと言われています。受注のほとんどが公共事業という建設・土木会社も多いですし、一次産業には国や県から補助金や給付金など様々な形で支援があります。しかしこれらのシャン業従事者も大きく減少しています。
例えば、建設業をみてみましょう。宮崎県の経済コンサスによると2009年に宮崎県内で建設業で働く人は41,494人だったのに対し2021年は34,134人と7,360人の減少、割合にして約22%が減少しています。1次産業も従事者の減少が問題になっています。そもそも組織票を支える従業員(とその家族)事態が大きく減少していることがわかります。

③ 雇用環境の変化

2009年10月の宮崎県の有効求人倍率は0.38でした※。それに対し2012年10月のそれは1.48となっており圧倒的人手不足になっています。人手不足ということは労働者は仕事を選びやすいということです。昔は「会社が倒産したら自分と家族は路頭に迷う、、、。業界を保護してくれる候補者になってもらわないと困る。」と危機感がありました。しかし今は人手不足であり自社が倒産しても転職はできそうだな、と感じるでしょう。また転職も一般的になりました。そのような環境であれば会社や組合からの投票要請に縛られず自分の意思で投票することができます。(もしくは投票に行くこともないかもしれません)
※2009年はリーマンショックで景況感が落ち込んでいたこともある

④ 候補者の発信を直接知ることができる

選挙が近くなると「〇〇候補者が当選したらウチの業界は冷や飯を食わされる」「△△候補者はどこどこの業界から膨大な献金を受けている」等々の噂が”正式な文書”として業界団体の中で回覧されることは日常風景でした。ウチへの仕事が無くなれば困るでしょ?だから××候補者に当選してもらわないといけない、と不安を煽り従業員に投票させることもありました。インターネットやSNSが無い時代は従業員はその情報の真偽を確かめる術がありませんでしたが、最近はSNSで候補者が直接発信していることもあり、噂を否定したり、修正したりすることができます。昔は業界団体や経営陣が意図を持って噂を流布できていたのが、SNSの登場によってそれらはかなり抑制されることになったのです。(社長が従業員に流した噂を、候補者がSNSできっぱり否定していたら社長の面目も丸つぶれですからね)

これらの理由により組織票をベースとした選挙では昔に比べて勝ちにくくなっているのです。これらの数字はたった13年の変化です。過去30年で見るとこの傾向は更に顕著でしょうし、10年後は投票の半数は引退した人たちが占めており、組織票自体がマイノリティになっていることも十分に考えられます。シルバー民主主義と揶揄されることもありますが、逆に特定の組織のための選挙は行われにくくなります。

今回のまとめ

ということで今回のnoteをまとめると
そもそも組織票を形成する働く世代の投票割合が小さくなっている。
・建設土木、一次産業等政治と近い産業の従事者は更に減っている
・有効求人倍率が爆上がりし、転職も一般的になり、業界の栄枯盛衰と自分の生活が必ずしも一致しなくなってきた
・SNS等で候補者の声を確認できるようになり、何らかの意図を持って流された噂の威力が弱くなってきた

ということでした!
選挙は終わりましたが、また産学官一体となって宮崎県が盛り上がっていくことを期待して、よい年末をお過ごしください!

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