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そろそろ”医療の正義”の話をしよう⑥

私たちはコロナ前の世界に戻れるのか?(中編)

   前回は新型コロナにより、社会の医療ニーズが変化している可能性についてお話ししました。今回は、コロナは医療者の心理まで変えてしまったのではないか?という内容です。これは『不安の時代に、ケアを叫ぶ(川口有美子/新城拓也著青土社)』という本を読んで気づかされたことを元に、私が考えたことです。

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 新型コロナに対応してきた医療者の心理は、戦いの2年間で変化したのではないかと思います。コロナ診療では適切に入院ができて治療できれば上出来です。それ以上のことはあまり要求されません。それは「非常時の医療」だからです。大きな不安と恐怖を感じながら未知のウイルスと戦う「非常時の医療」に邁進していたその間に、私達は「平時の医療」において大切にしていたものを失ってしまったのではないのでしょうか?

 それは、医療の質です。コロナが感染拡大している間、患者さんのケアを疎かにしていなかったか?と自問自答をしています。その最たるものが入院患者さんの面会制限です。患者さんにとって家族に会えないことがどれほど心細いか、コロナ診療で高揚し続けていた私には想像する余裕がありませんでした。また、患者家族の目が入らない環境においては、医療の質を担保する機能が低下する可能性があります。

 私たちはコロナを言訳に、大切なものを手放してしまったのではないのか?コロナ診療のストレスが減じてきた今、「不安の時代(コロナの時代)に、ケアを叫ぶ」という本を読むことで、やっと自分の危うさに気づくことができました。 

 前回、社会の医療ニーズが変わり、病院離れが進んでいることをお話ししました。私達の検討で、入院医療ではなく在宅医療を希望する人が増えていることが示されたのです。この変化は、入院医療の質の低下(面会制限も含めて)を敏感に感じた社会の、当然の反応なのかもしれません。この考察が正しければ、コロナの為に社会が変わったのではなく、私たち医療者が変わったために社会が変わってしまったことになります。

 コロナにより社会の医療ニーズが変わってしまったこと、変化の直接の原因は私たち医療者がコロナ診療を言訳に「医療の質」を高めることを忘れていたためではないか?という危惧について話させて頂きました。では、私たちはコロナ前の世界に戻れるのか、次回に今の私の考えを述べさせて頂いて、このテーマを終えたいと思います。

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