逃げるということ

小池一夫さんの「だめなら逃げてみる」という本を一時持ち歩いていた。
そんなこと言われなくても逃げているつもりだったが逃げることすらきちんとできていないことを読んで分かった。

逃げているふうでは目を伏せているだけで身体はそこにいるままだったのだ。
身体がそのままだと同じストレスは受け続ける。
視界だけ救われてもなにも解決はしなかった。
「だめなら逃げてみる」を読んで自分の逃げ方がだめだったし、逃げるにしても逃げていることに自責の念を持っていては本末転倒なこともわかったし、なによりも逃げることをよしとしてくれる人生の先輩がいることに感謝した。

今、このコロナ禍で、やる気、というものをどこかに置き忘れてきたようである。もともと忘れっぽいのにさらに近年忘れレベルが底上げされていっているのでやむをえないといえばやむをえない。忘れる対象が物に止まるとは限らない。
コロナの真っ只中に都会から逃げて郊外の町に越してきたので、もしかするとあの部屋にやる気をまるごと置き忘れてきたのだろうか。引越しの際に姿見を持ってき忘れた。遠いのもあり珍しくわざわざ大手の引っ越し屋に頼んだ引っ越し(普段赤帽のおじさんと自分でやってきた)だったのに、結局はえげつなく重い、今や猫しか使っていない姿見を自力でヒーコラヒーコラ言いながら県を跨いで運んだ。あの時落ちてたやる気には気づかなかったか。他には何もないか、二度とこないために確認を入念にしたからなかったに違いない。
ならばおそらく見えないところにしまい込んだのだ。しまい込んで逃げているふりをしているのだ。また目を伏せられるように。ということを最近になって少しわかってきた。
どこかでやる気の出ない自分を責めているし、やる気のある人たちをSNSで見てしまっては他の人たちはすごいなあと比較なんてしていないと言いながら心のどこかで完全にしている。
どんどん自責の念に駆られどんどん内向的になりどんどん一人で生きているつもりになっていく。
コロナ禍で人を誘えないという理由をつけてどんどん自分のことを閉じ込めていっている。
逃げれていない。逃げているふりだから。そして逆に幽閉されている。自分に。

なんと不器用でなんと弱い人間なのだ。
今まで器用で割と強い人間だと思ってきたのに。
15年来よくしてもらっている先輩の家に遊びに行った時に、

「何言ってんの?あなたを器用だと思ったことなんてこれまでいっちどもないよ。いっっちどもない。何言ってんの?びっくりした!」
と言われて驚きのあまり「ええ?!!」って叫んで、目が天になった。点ではない。

「器用っていうのはね、◯◯◯◯◯みたいな人のことを言うんだよ。わかる?」
脳みそが明瞭にクリアになる名前だった。◯◯◯◯◯さん。
器用というか自己プロデュース能力に長けている、噂によればコミュニケーション能力もずば抜けて素晴らしく、いまやトップを走る方の名前だった。
納得いきすぎて、そうか、私はずっと生意気でありながら弱虫で引っ込み思案で職人気質のおじさんみたいなようで内弁慶のこどもだったのだから、そこにイコールなはずがない、と気づかされて笑った。
何をどうして自分を器用だと思い込んでいたのだろう。
肩の力が抜けて人に見えている自分と自分の認識する自分のギャップが甚だしいのかもしれないことを思った。俳優をやっているのに見えていないことや、見ようとしてこなかったことを思った。
先輩にも最近またやっと会い始めた。
最近までは家族もいるし忙しそうだしこんなことで相談なんて迷惑だろうし、などと拗ねた子どものようになっていたのだ。
様々な逃げたかったことから逃げているふりをしたきたことを、きちんと逃げたり、逃げきれないことをわかったり、もう逃げなくてよくなったりしながら少しずつ向き合うことをし始めた。

そんな時間はないとかもったいないとか言う人もいるけれどそうしかできなかった人を、そう生きた人を否定しない世の中であってほしい。

小池一夫さんに救われたように、自分みたいなそういう不器用な人を少しでも元気づけながら生きれたらいいなと思う。
結局は自分でわかるしかないんだけれど、時間がかかったって今辛くたってだいじょうぶだよ。
逃げたりもがいたりしながら、自分だけでないことだけ忘れずに、本や逃げた先で出会った誰かや景色や海や空気や生き物や様々に触れて、できるようになったら誰かと話してみて、いろんな考え方の人がいて自分もその中のひとりで、受容するしないはどうでもよくて、それが世界であるということだけ、そうだね、って思えれば、いつかどうにかなると信じて、逃げながらそのうち向き合ったりもしながら生きれたらそうやってやっていける気がしてくるよね。
ってそうどこかで受け取ってくれるかもしれない誰かを思いながら発信をしていく。
劇もそれ以外も。
逃げながら。
逃げるだけをやめていく。

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