真説佐山サトルノート round 20 変人・ミスター・キグチ
【この原稿は二〇一六年八月から二〇一八年四月まで水道橋博士主宰「メルマ旬報」での連載を修正、加筆したものです。秘蔵写真も入っている全話購入がお得です】
その日は朝から不思議な天気だった。
第三京浜を走っていると、ローバーミニのフロントガラスに細かな水滴が落ちてきた。前方の空は灰色の雲で埋め尽くされていた。ぐずついて、泣き出す直前の子どもの顔のような空模様だった。横浜新道を進み、戸塚料金所を降りた。のろのろと国道一号線を走り、江ノ島の海が見える頃には、からりとした青空となっていた。
取材場所に指定されたのは、海沿いのファミリーレストランだった。夏の土日には海水客やサーファーでごったがえしてする店も、十二月の平日、それも午前中はがらんとしていた。藤沢橋あたりでひどい渋滞にはまり、約束の時間を数分過ぎていた。小走りで中に入ると、窓際のテーブル席にぽつんと野球帽を被った男が座っていた。
からんという扉につけられていた呼び鈴で、人が入ってきたことに気がついたのだろう、彼は立ち上がると「こっちだよ」と手を挙げた。
「私、いつもここを使っているんだ。ここは陽当たりがいいから日焼けして帰ることになるぞ。雨あがって良かったな」
黒縁の眼鏡を掛けた木口宣昭さんは人なつっこい笑顔を見せた。
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