見出し画像

テーマ:理想のロールモデルを主人公にしたお話

 私、支倉純がアロマンティックアセクシャルだと気付いた時、一番始めにしたことはSNSでの仲間探しである。
恋することが当たり前。
現実世界ではそんな価値観が充満しているのか、私は息苦しかった。
#アセクシャルさんと繋がりたい 
アカウントを作った時に見つけたタグが、息苦しかった世界からの解放と共に特別な仲間との出会いとなるきっかけとなった。
私のアカウント【クラハセ】のフォローとフォロワーの数字が0から変化したことに安心感を覚えたのはきっと気のせいじゃない。
私以外に同じような人がいたことに喜びを感じたからだ。
【ムニエルさんにフォローされました】
タグに反応してくれたのでフォローしたらフォロバされた。
ムニエルさんは同じ県で趣味が似ていることもあり、仲良くなるのには時間が掛からなかったユーザーさんである。

「ムニエルさん、よかったら今度ご飯行きません?」
「いいですね!一回クラハセさんと推しについてめちゃくちゃ語りたかったんですよ!」
私もムニエルさんもアニメとアイドルが好きで、気が付いたらアニメや推しが出ている番組を見る度、DMで語りあっている仲になっていた。
「そういえば、ムニエルさんに会ったことないな」
ふとそう思った時、既に指がムニエルさんをご飯へ誘う文章を打っていた。
拒否されなかったことに安心したところで、ムニエルさんと会う日の予定を組んでいく。
今週の土曜日大宮駅に待ち合わせ、カフェでお茶することになった。
「当日はよろしくお願いします。」
私の一言はDMのラリーに終止符を打った。
学生時代の友人とも会わなくなった今、人と会う約束したのは久しぶりだ。しかもネットで知り合った人と会うのは初めてである。
不思議と緊張はなかったのは、SNS上で沢山絡んでいるからだろうか。

結論から言うと、今日のカフェは楽しかった。
当日になって緊張がやってきたが、ムニエルさんとは馬が合うようで話が盛り上がった。時の流れが短く感じたのはいつぶりだろうか。
久しくなかった気がする。
「そういえば、なんでムニエルって名前なんですか?」
「頭に浮かんだんですよねぇ~~」
SNSで話していて知ってはいたが、ムニエルさんはやっぱり面白い人だった。
会った第一印象はそんな面白い人とのギャップがあり物腰柔らかく、おっとりとしている人であった。人は会わないとやっぱり分からない。
趣味の話以外には互いの話をした。
ムニエルさんは本庄、私は赤羽に住んでいることを伝えた。
「電車で1本じゃないですか! またご飯行きましょうよ!」
「ご飯以外にも遊びに行きたいですねぇ~」
「え、本当ですか?アニカフェも一緒に行きません??」
また会う約束をして私たちは別れた。


「クラハセさんって引っ越しとか考えていたりする?」
「あーそろそろ契約更新だった…」
「提案があるんだけど、一緒に住まない?」
初対面から、ムニエルさんとはたまにご飯を食べたり、オタ活したりするようになっていた。
冒頭の言葉を聞いたのは何度目の対面だったか。
ムニエルさんも私も20代後半で一人暮らしである。
そんな共通点が分かってからは仕事のことや、家族の話もするようになっていた。家族の話は結婚の2文字が脳裏に横切るからか互いに積極的にはしなかったが。
「私、転職で引っ越しするんだけど赤羽近くに住もうと思っているんだよね」
2LDKで家賃生活費と家事折版、どうかな。
ムニエルさんは言った。
気が付くと彼女は一緒にいて落ち着く人であり無言も平気な人になっていた。
しかも家賃と生活費の折版は一人暮らしにとってありがたい。
「一緒に住んでみようか。」
私とムニエルさんが実質パートナーとなった会話はあっさりしたものだった。

「へぇーそれで今も一緒に住んでいるんですか?」
「そうですね!一応生活リズムとか合わなかったらやばいので、引っ越す前に試しに週末にどっちかの家に泊まったりしましたけど」
ムニエルさんとパートナーになってから2,3年経った。
私はアセクシャルのオフ会にも顔を出している。
今日は私の他に3人とご飯を食べている中でパートナーの話になり、私はムニエルさんとの交流を思い出しながら話をしていた。
「一緒に住めるような関係性、うらやましいです。」
「私は運が良かったと思いますよ。私も相手も自分のペースがあるので、相手が私のペースを邪魔する人じゃなかったのが本当に大きいですね。」
もちろん今でも一緒にご飯を食べたり、オタ活したりもしますよ。
「参考になりますわ!!」
「私は一人暮らしの方がいいなぁ」
同じセクシャリティだろうが、人であるので私の話を聞いた方々の反応は様々だった。私はそれも新鮮に感じたところでオフ会は終わった。

ドアを開けると1足の靴が置いてある。
「洋ちゃん、ただいまー。」
ムニエルこと田中洋ちゃん。一緒に住むと決めた時お互いに本名を明かして名前で呼ぶようになっていた。
「純、お帰りー。ご飯作っておいたからねぇ~。」
今日は私がオフ会に行くことを洋ちゃんに伝えていたので、
彼女がご飯を作ってくれていた。彼女が仕事で忙しい時は私がご飯を作る。
家事は折版だが、料理は助け合いだ。
洋ちゃんの言葉に私は荷物を自室に置いて、2人の生活に戻っていくのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?