印象に残っている痴漢7選とそれよりもさらに怖かった1人

以前、大学の図書館前で男性に声をかけられた。
なんでも彼は半年前わたしに構内の道案内を頼んだそうで(そういえばそんなこともあった)、以来半年間、大学の図書館前でわたしを探し続けたのだという。

その人に悪意がないのはわかったが、ストーカーぽくてシンプルに怖かったし、人には歴史がある。
本が大好きで、図書館でやばい人に出くわしたことのあるわたしは、
図書館前で見張られたことに強い怒りを感じた。
大学の図書館という場所だけは侵害しないでほしかった。

図書館で安心して本が読めて、勉強できる人のことをとてもうらやましく思っている人もいるのだと、知ってほしかった。

といったって、わたしがその体験を人に言わない限り、察してくれというのは無茶な話だ。

そこで、昔出くわした痴漢の中でも印象に残ってるのを書き出してみた。
痴漢の定義に身体的接触が含まれるなら痴漢とは言わないものも入っているかもしれないが、広義の、公共の場で赤の他人から受ける「軽い」性犯罪ということで。
それに、後述するが、痴漢がもっとも損なうのは人の尊厳と社会に対する安心・信頼であり、身体の苦痛のみにとどまらないのだ。

①千葉県立中央図書館で隣の席でオナニーされた(高3)

当時、受験勉強という名目で和歌文学大系に会いに行っていた。そしたら

本棚の隙間から見られる→図書館内を追い回される→隣の席でオナニーされた(その間ひたすらガン見される)

という流れ。

怖すぎて硬直。だって尋常の神経でできることではないし、目つきがやばすぎた。目しか覚えていない。

こういうとき恥ずかしさが先に立つのか、ただパニクっていたのか、図書館の人にいうという選択肢は頭に浮かばず、一人で息を殺していた。

帰り道どうしようか、自分より明らかに体格のいいこの人をまくのは無理だ、諦めさせないと絶対にやばい。
図書館は駅から遠い上に人通りの少ない住宅街にあった。交番がどこにあるかも知らない。携帯を出して隙を見せるのが怖い。
2時間経ってもこの人は席を離れないし、誰も気づかない。

ほんとに怖くてプルプルしてたところ、鞄に定期券をぶら下げている中年女性が本を片付けているのを見つけた。本当に申し訳ないけどバリケードはそのまま置いて、その人の後ろにくっついて歩いた。

あの女性には後をつけるような真似をしてしまい申し訳なかったけど、ものすごく救われた。

②先に謝ることで告発の道を封じるスタイルの痴漢(高1〜2)

学校帰り。そこそこ混んでる電車内で、なぜかわたしと向き合う体勢を崩さない若い男性がいた。
普通みんな顔の向き揃えるよね?なんで一人だけ逆向いてんだろ?と不思議に思っていたら、
揺れてわたしの胸に手をつく→謝る→そのまま制服の隙間から手を入れてくる→手で抵抗したらその手を握って微笑む
という流れ。

向かい合うかたちだから周りから見えにくい上、先に謝られたのを周りに聞かれている。これは声をあげたって絶対周りに助けてもらえないとわかった。
そもそも硬直して声なんか出せないんだけど……
絶妙に混んでて体勢も変えられず、逃げられないし、こいつ考えてやがる…という痴漢だった。
なんで微笑むんだよ……怖いわ……

顔立ちが整ってた人だったけど、その小賢しさと表情に強い恐怖を覚えた。

ルッキズムはたしかにあるし、わたしも嫌ですが、でも嫌なことをされたときにイケメン無罪なんてことはないので、イケメンじゃない人はそんなことに気を揉む必要ないですよ。
(というか、たしか容姿の整った男性がハラスメントを働いたときの方が、被害者からの強い怒りを買うって調査結果があったような記憶が…それだって嫌ですけども)

③白昼堂々丸ノ内線のホームで触らせる&露出&追い回してきたサラリーマン(大学生)

3〜40代くらいの男性。服装、持ち物的に外回り中だったと思うんですが、ほんと何してるんですかね…

真昼間、駅のホームで触らされる→「お姉さん見てたら勃起してきちゃった」って言われて見せられる→丸ノ内線内をずっと追いかけられるがどうにか撒く(そのせいで講義に一コマ出られず)
という流れだった。

あいつのせいで一コマ逃した怒りとか、つけられた怖さとか色々あったけれども、とにかくあの中年の痴漢に言いたいのは、わたしは貴様のお姉さんじゃないということだ。
大学生とはいえハイティーンであり未成年の人間を「お姉さん」と見るな。

あのくらいになると見た目からは未成年かどうかわからないかもしれないけれど、自分より年若いもの、幼いものを性的対象と見ることに全然抵抗のない日本社会にはつくづく反吐が出る。

④百均の中くらい買い物させてくれよ&せめてナンパか痴漢かどっちかにしろよ痴漢(大学院生)

学会の旅支度のため大慌てで百均の化粧品売り場に行く→うろうろしてた若い男性に、二往復計4回お尻をもまれる→レジに向かおうとすると呼び止められてごく普通にナンパされる

ほんと、図書館もムカつくけど百均もむかつく。

4回も揉まれる前に逃げろよと思われるかもしれないが、逃げたらわたしは買い物ができない。学会の支度ができない(学会に化粧品はいらないのでは的な反論も想定されるが、そういう反論の拠り所が乏しい知識と社会経験でしかない可能性が高いと思われるため無視。)。

こちらに何の落ち度もないのに、それだけですごく時間とお金を無駄にさせられる。そんなことが承服できるか。

こっちが「見た目男性の人が化粧品売り場にいるけど、白い目で見るようなことはしないぞ!」という意思を持っていただけに、
それを裏切られた&こういう人がいるからこそ、よけい別の弱者が偏見にさらされ苦しみ、弱者間の潰し合いに追い込まれるのだろうと思った怒りもあった。

またこの人は、痴漢した後に普通にナンパできるクレイジーな神経を持っているのに、見た目がごく普通の若い大学生風の人だったのが妙に怖かった。
他の痴漢と違って、目つきがおかしいとかでなく、ごく普通の人だった。それなのに痴漢とナンパが両立しないということが素でわかってなさそうだった。

やばい人に出くわした恐怖ではなく、やばさを感じられないやばい人に出会ってしまった恐怖である。

ノットオールメンとか言われるまでもなくわかってるし、身近な、親しくしている男性のことはみんな信頼している。
しかしそれでも、普通の人とやばい人のラインってすごく危ういのではないかと思える体験をしてしまったのだ。
あの人ほんとに無意識に触ってたんじゃないか。それも大したことだと思ってないんじゃないか。そう思えてしまった(小学生の時同級生の男子にお尻揉まれたし、あんな感覚なのかもしれない。信じらんないけど)
他人の身体の中には他人の心があり、他人の尊厳があるということを、何もわかっていなさそうだった。

⑤新聞で隠しながら痴漢する京王線のじいさん&山手線で秒でパンツ脱がす人&車で当てようとしてくる人

なんか⑤だけ盛り盛りにしてしまった。どれも単体でいけるインパクトがあるといえばあるのだけど、イレギュラーなやばさがないのでここにまとめてしまった。

それはこの三つがわたしの中で「普通の痴漢」にカウントされてるということだ。それぞれ同趣のものに複数回あったことがあるということである。
やってることは完全に常軌を逸してるのに、これが普通ってやばいな。

念のため申し添えますが、「普通」といったってどれも怖くて腹が立った。
特に車絡みのはほんとに毎度死を覚悟する。ただのナンパでもそうだ。

冒頭の図書館の人みたいに、ナンパして無碍に断られて嫌な思いをした人がいるかもしれないけど、
相手には歴史がある。現在の経験をどう受け止めるかの基準は過去にある。

それでもどうしてもナンパしたい人は、自分に悪意がなかったとしても、相手には恐怖しかもたらさない場合がある、
自分は知らずに相手を傷をえぐり加害する可能性がある、その覚悟を持ったほうがいい。
相手は恐怖や苦痛をストレートに表現できる/してくれるとは限らない。
自分がどれだけ他者に対し有害かを自覚することもできず、二度と償うこともできない加害者であるという自覚を、一度でもナンパしたことのある人は持った方がいい。
そんなの例外的なケースではないかと思われるかもしれないが、逆だ。
わたしの観測範囲に基づくことではあるけれど、見知らぬ男性に接触されて怖い思いをしたことのない女性というのは、かなり少数だ(というのは妥協した言い方で、わたしは叔母以外一人も知らない)。

なお、京王線のじいさんのことを当時の彼氏に話したら「どうして逃げなかったの」と言われて、「そういえばそうだね、どうしてだろう」と返したのだけれども、今ならわかる。
怖くて体が動かせなかった。 本人だって自分がどういう感情に陥り、どういう態度を取ったのか即座に自覚できるわけではないのだ。

今でもときどき思い出して背筋が凍るのは……

これまで書いてきた痴漢も、わりとやばめだと思う。
少なくとも、痴漢のことを「ちょっと体が当たるくらい」「故意か偶然かのラインはグレーじゃないのか」と思ってるような人の認識とは違うだろう。

ただ、それらは、被害を受けた真っ最中はとても怖かったけど、今はもう大丈夫だ。
(他の人が同じ被害を受けて大丈夫とは限らないと思うし、そういう人に心を寄せこそすれ、弱いとは一切思わない。他の被害者にマウントを取る気は毛頭ない。念のため)

それでも唯一大丈夫ではなくて、ときどき思い出して体がすくむ被害がある。

小学三年生のとき、妹とおつかいに行っている途中で出くわした、自転車に乗った露出狂である。中年の、小太りの男性だった。

私たちの周りをくるくる回ってると思ったら、性器を見せつけてきた。
それがどういうことなのか、全然分からなかったが、強い悪意を感じて、走った。妹のことを気にかける余裕はなかった。

何をされたのか認識できていなかったし、直接触られたわけでもない。

でも、ずっと怖くて、10代のあいだも、大人になってからも、歩いていてふと思い出す。意識より先に、体がこわばってしまう。

たぶん、似た顔の人、似た動きの人、似た雰囲気の街並み、そういうものを、どこかで覚えているのだと思う。そういうとき、鳥肌が立って、背筋が凍る。

あのとき晒された悪意というのは、お前を恨んでいる、お前を殺してやる、とかいうものではない。
自分より明らかに弱いものが、自分のために動揺し、怯えている、その様子を楽しんでいる、そういう感情を感じた。
人格を完全に無視されて、娯楽として一方的に消費された。モグラをいたぶる猫みたいな態度。
ただ憎まれる方がよっぽどよい。そんな辛さを思い知らされた。

子どもに対する性犯罪というのは、そのくらい人間の、人間に対する信頼と安心を損なうものなんだと覚えていただきたい。
それは社会的な生き物である人間において、その先の人生を生きる際の障害物とさえもなりうるのだと知ってもらいたい。
触られていないなら大したことないとか、そういうものではないのだ。

ここに書いたのは見知らぬ人から受けた被害であって、わたしが一番辛かったことはここには書けない。それも、小学校の時のことだ。
もし、痴漢を見たことも聞いたこともない人がいたら、こんなこともあるんだな、それだって氷山の一角なのだなと知ってほしい。

なぜこんなことをいきなり書き出したかといえば、文章を書きたかったからである。内容は何だってよかった。でももしそれが何かの役にたつなら嬉しいと思って、こんな題材を選んでみた。

痴漢被害にあった人ならよくわかり、あったことのない人にはわからないと思うが、被害にもっともよくあうのは未成年の頃、もっとも弱く、対処能力がない頃だ。
痴漢被害者とは「女」である、と思っている人がいるかもしれないが、そうではない。そのボリュームゾーンは「子供」である。
女や男になりきる前の、未成熟な子供だ。

そういう子たちは、リアルタイムでは自分の被害を言葉にできない。
諸々の有形・無形の抑圧が彼・彼女たちを一人にしてしまう。そもそも何をされたかだってわからない可能性もひくくない。

だから、もう子供ではなくなった人間がいうのである。わたしが辛かった、という気持ちを訴えたいのではない。
こんな苦しみを今あの子供は味わっているかもしれない、何らかの理由で大人の助けを求められないけれど、本当は必要としているかもしれない。

そう想像するための助けとしてほしいだけだ。

想像を上回る奇行におよぶ加害者に抵抗するために、悪夢を上回る優しさ、想像力を持つための足がかりとして、データを提供したいだけである。

#痴漢 #痴漢体験談 #エッセイ #性犯罪 #性犯罪被害

わたしがあなたのお金をまだ見たことのない場所につれていきます。試してみますか?