不死人 不死者は人を殺す
「お前はこちら側なのにまだ人らしくいるのか」
鈴村賢治と名乗る前、明治あたりの時期だったか、俺が苦学生を演じてた時だ。
当時よくつるんでた男でそいつもまた苦学生を演じていた。
そいつは髪を長くして退屈そうな瞳を隠そうもせず、いつも欠伸をしていた。見た目は整えればどこぞの貴公子でもいけそうな感じだったが。
俺は当時ある部署に所属していた。不死や人外に関わる部署だ。政府が秘密裏に運営した。法の届かぬ化け物達を屠る部署。
当時は今よりも不明瞭な部分が多く、人間社会にも色々な影響が出ていた。
そういう処理出来ない案件を処理するのが俺達の役割だった。
その時その部署に居たのは11人の不死人と人外3人、その中でも俺とこいつは人殺しに長けていた。
何故その事を今思い出してるかというとだ。
「相変わらず飄々とした男だ、今は鈴村賢治だったか?」
「かつての仲間が今話題のテロリストに驚きだよ」
全世界で絶賛指名手配中のテロリストの首魁、昔よりも身綺麗にした男、かつての相棒、今の名は近藤響(こんどうひびき)が優雅に俺の大家のカフェで珈琲を啜っていた。
少なくとも敵意はなく客としているだけという認識は出来たのでため息をつき、響の座っている席の目の前に座る。
「最後に会ったのはいつだ?」
「さあ、昭和の初期だったかな」
とりあえず響の言葉に耳を傾けながらいつもの珈琲を頼む。
「良い店だな」
「まあな、どんな奴でもちゃんと客としてみてくれるからな」
「よい御仁だ」
響はくすくすと笑う。
「んで、用件は?」
「ああ、お前もこちら側に来ないか?」
「断る、俺はこの生活を気に入ってる」
賢治はタバコに火をつける。
「少なくとも人を殺す権限がまたあったとしてもする気にはならんな」
「…俺よりも殺した回数は上だろう」
「好むか好まないかは別の話だ、あの時は守るべき者がいたから手を汚した」
「今も尚、苦しむ同胞がいてもか」
賢治は響に笑みを浮かべる
「今は守らずとも守られる土壌は出来てる、永い時のなかで自衛の手段も見つけてるさ、響、俺はお前に敵対はしないが、もしお前が滅ぶような事をすれば止めにいく」
響はふむと頷く
「お前が敵にならないなら今はそれでいい、だが不死である限り狙われる誰かはいるぞ」
賢治は肩をすくめる
「その時はその時さ、それに俺達の部署が解体された時の約束はあるだろ」
「ああ」
「不死者は人を殺す」
「俺達の安寧を脅かす存在は消していいって事だ」
賢治は珈琲を飲み干すと
「まあテロリストなんて目立つ事するのはなを、か理由があるんだろ」
「聞かないのか?」
「響と同じ側ならいずれ知るだろう?それより飯は?」
「まだだ」
「じゃ魚市場いくか」
賢治は響の分も払うと、ニヤリと笑った
発達障害当事者の詩人が色々と経験しながら生きていくかんじです。興味あれば支援してくださるとありがたいです